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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのバグの怒りが齎した結果を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)その男達が何をしたのかを僕らは知らない

変態注意報発令中。

 リエラは見えない何かに導かれるように兵士達の出て来た選手入場口へと向かっていた。

 なぜか気絶したままのチグサも一緒に連れて来られているが、リエラの手を握り導くように走る存在を認識するだけで、リエラはチグサのことなどどうでもよくなっていた。


 助けに来てくれた。

 自分がどうにもならなくなった時、やっぱり彼は助けに来てくれたのだ。

 それが嬉しくて、ついはにかむ。

 前を走る姿の見えない誰かは気付いていない。

 ありがとうございます。そんな呟きも、彼には気付かれなかったようだ。


 そんなリエラ達が去った後、何かしらの危機を察したアカネはすっと立ち上がっていた。

 どうしたの? ネッテの問いに、急いで脱出しましょ。とカインパーティーを連れて会場を後にする。

 モーネットやアレン、娘たちと見学に来ていたゴードンたちも一緒にリエラを祝福するため外へと向かう。

 だから、彼らはこの後行われたことを知ることはなかった。


「畜生ッ! なんでこうなるんだよっ! おい! お前は俺ンところの使者だろ! 父上に伝えろ! 俺様を不当に扱う馬鹿者どもがここに居ると! コルッカなんざ攻め滅ぼしてしまえ!」


「オーギュスト王子……申し訳ございませんが、我がトルーミング王国に三男は存在せず。よってあなたを王族とは認めない。とのことです」


「はぁ!?」


「また、アンディ、リアッティ。オーギュストの悪行を止めるべき立場のお前達が加担してどうする。王国に戻り次第死罪に処すとのお達しです。敗北が確定次第伝えるよう仰せつかっております」


「バカな!? 父上は俺を切る気か!?」


 血涙を流すかの如くオーギュストは空を見上げた。

 丁度、客席に視線が向いたその刹那。

 肉屋47歳店主は、オーギュストの視線が自分と交わった瞬間、ズキュンと胸の高鳴りを覚えた。

 貿易商55歳男性は、オーギュストの目を見た瞬間、恋に落ちていた。

 78歳貴族の男は自分の守備範囲に男の、しかもオーギュストが入ったことを知る。


 オーギュストが暴れる程に、その視界に入った40代以上の男達は彼に対して言いしれない感情が湧きあがるのを押さえるのに必死だった。

 あり得ない。自分は愛妻家だったはずだ。

 まて、待ってくれ。俺はノーマルだ。そのはずだ。

 男に惚れるなど、この貴族たる我があり得るハズが無い。しかし、しかし……


「っ!? お、お待ちください陛下! どこへ!?」


「どこへじゃと。わからいでか! ああ、滾る。滾ってきたぞ。妻でも側室でももはや枯れ果てたこの我が、おのこ相手になど、ああしかし、止められぬ。この溢れる想いは止まらんぞぉ!?」


 国王が、大臣が、民衆が、四十台を越えた男達が一斉に客席を跳びこえ試合場へと雪崩れ込む。

 何が起こったのか理解できない若い男や女性陣が呆然と見つめる中、男達はオーギュストを押さえる兵士達を押しのける。

 否、一部ベテラン兵士たちは自らオーギュストの拘束を解き、彼の衣類をはぎ取って行く。


「お、おい? 何をしている貴様等!? お、俺はトルーミング王国の王子で……」


「我がこの国の王だ!」


 全裸にされたオーギュストが押し倒され、王様が背後に辿りつくと、急ぐように自分の服を脱ぎ始めた。

 何かが始まる。気付いた観客たちが悲鳴を上げる。

 一部は見てはならないと慌てて避難し、一部は狂気の沙汰だとオーギュストを助けようとしたが、残念ながらこの国の法たる王までが参加しようとしているのだ。彼らを止める術などなかった。




「ふぅ、ここまでくれば安全かしら?」


 アカネは会場入り口にある受付前に辿りつくと、ふぅっと息を吐いた。

 何のことかよくわからないネッテ達が疑問符を浮かべていると、リエラがチグサを背負ってやってきた。


「あ、皆さん!」


「リエラ! よくやったわね」


「凄かったな。見違えて見えたぞ」


「正直あそこまでできるたぁ思わなかったな」


「皆が教えた技。使ってくれてて嬉しかったですよ。あの男もいい具合に叩きのめして頂きましたし」


「あ~まぁこれで嬢ちゃんもベテランの仲間入りかな」


 ゴードンの言葉に照れるリエラ。

 いや、無理だから。アレ、どう見ても明鏡止水の御蔭でしょ? 普段のリエラがベテランとか無理があるから。

 彼女の変化の理由を知っている面々はそう思ったけれど、今は素直にリエラを祝福したかったので黙っておくことにした。


「リエラ」


「あ、アメリスさん?」


「あの、ありがとうございますわ。わたくしの無茶を聞いてくださって。勢いで了承してしまったからずっと不安でしたのよ。でも、お待ちくださいな。即座にフィラデルフィラル家全力を持って動かせていただきますので」


 妖しく微笑むアメリスにリエラが苦笑した次の瞬間だった。


「あ゛ぁ゛―――――――――――――――――――――――っ!!?」


 風に乗ってそんな声が、小さく響き渡った。そんな気がした。

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