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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのバグの怒りが齎した結果を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)その尊大な男の生死を彼女は知らない

 オーガは死んだ。

 出てきて直ぐに、リエラにダメージすら与えられずに、訳のわからない一撃で即死していた。

 間近で見ていたオーギュストですら、何が起こったか分からない。


 リエラの一撃は絶対に届いていなかった。

 野太い腕に阻まれ、完全に剣を封殺されていたはずだ。

 オーガにダメージなど与えられるはずがなかった。


 しかし、オーガの胸には刃が突き抜けた痕があり、心臓まで達している。

 オーガは血溜に沈み痙攣を繰り返している。起き上がって反撃など出来る状態ではなかった。

 そんなオーガの血に塗れ、リエラが剣から手を放す。


 オーガの分厚い筋肉のせいで引き抜けなかったようだ。

 我に返ったオーギュストは、ははっと笑みをこぼす。

 オーガを失ったのは痛いが、代わりにリエラの武器は封じた。


「リエラァッ! 自慢の武器が無くなったらもう、勝機もなくしたんじゃねぇか!?」


 剣を構えリエラを挑発する。さっさと敗北を宣言しろ、あるいは怯えて俺に斬り伏せられろ。

 そんな思いで発した荒げた声を、リエラは馬耳東風とばかりに聞き流す。

 使われたのは音速突破。


 速い!? オーギュストが身構えた次の瞬間、リエラが懐に入り込んでいた。

 嘘だろ!? これがあの震えていたリエラか!?

 内心驚くオーギュストの身体が、リエラを中心にして回転する。

 投げられたのだと気付いた時には、再び床に背中を打ち付けていた。


「がぁっ。クソッ」


 呻きながらも必死に身体を起こして立ち上がる。

 確かに、マジックアイテムにより物理ダメージと魔法ダメージは反射するようになった。

 しかし、投げられたことで受けるダメージはやはり物理反射の範囲外らしい。

 普通に背中が痛い。

 この威力を喰らい続けたらここまでアイテムで強化してすら敗北するというあり得ない未来が待っている。

 それはあまりにも道化過ぎる。


 幸い武器を持っていないリエラだ。剣による物理ダメージは与えてはくるまい。

 ならば物理反射は持っているだけ無駄。チャラチャラと胸元で揺れて邪魔だったのだ。

 オーギュストはお守りとして胸に下げた護符を一つ引きちぎると場外へと投げ捨てた。


「物理反射は無しだ。リエラ、死んでくれんなよ? その身体はまだまだ味わってねぇんだからよぉッ」


 真上から切り込む。

 渾身の一撃だった。

 避けもせず受けもしないリエラの額向け、一直線に振り下ろす。

 俺がお前を殺せないとでも思ったか? 避けなければ寸止めするなどと思ったのか、リエラァッ!?

 そんな思いで放った一撃は、リエラの頭、すれすれで止まっていた。


「は?」


 それはまさにあり得ないタイミング。

 リエラを斬り伏せるその寸前、彼女の両手がパンっとオーギュストの剣を挟みこんだのだ。

 真剣白刃取り。オーギュストが我に返るより早く、リエラが剣を動かす。

 剣にとって、あり得ない方向への力が加わり、音を立てて剣が折れた。


 前方の支えを崩し、前のめりに倒れるオーギュスト。

 その胸に飛び込んで来るリエラ。

 あっ、と気付いた時には、魔法反射能力付きの防具を突き破り、自分の胸に突き刺さる強烈な痛み。

 しかも狙ったように心臓から微妙にずれている。

 生存は可能だが激痛が走り、死ぬ事すらできない絶妙な位置だ。


「があああああああああああああああああああああっ!?」


 絶叫を迸らせるオーギュスト。

 リエラは彼の懐内でぎきゅっと身体を捻り、渾身の回転蹴り。

 突き刺さった剣先に寸分たがわぬ一撃を叩き込む。

 さらにめり込む剣の感覚に、オーギュストが涙目で咆哮のような叫びを漏らす。


 そして、糸が切れたように悲鳴が途切れた。

 静寂が辺りを支配する。

 誰かの息を飲む音が、嫌に響いた。


 リエラがバックステップで距離を取る。

 ゆっくりと、オーギュストの身体が傾いだ。

 どさりと前のめりに倒れ込むオーギュスト。


 誰もが、リエラの勝利を唖然と見ていた。

 シンと静まりかえる場内に、次の瞬間爆発するような歓声。

 二連戦を行い、勇者と王子を撃破したリエラの健闘を、その場の全員が讃えていた。


 そんな歓声を、リエラは夢見心地で聞きいっていた。

 遠くから聞こえる歓声が、自分に向けられていると認識すると、次第明鏡止水から意識が覚醒し、音が戻ってくる。


「あ……」


 思わず声が漏れた。

 自分は勝ったのだ。本当に自分がやったのかすら信じられないが、身体が思うように動いた事実と、闘っていた身体の気だるさだけはしっかりと残っている。


「勝者、リエラ・アルトバイエ!!」


 リエラの名前が呼ばれると、さらに歓声が高くなった。

 その歓声を聞いていると、何故か目元が滲んできた。

 熱い涙が溢れだす。


 やったのだ。あのチグサを、そしてオーギュストを、自分一人で撃破したのだ。

 その場にへたり込み、溢れだす感情のままにリエラは泣いた。

 自分でもなんで泣いているかわからなかったが、ただ只管ひたすらに声を上げて嬉し泣きをしていた。


 やれたのだ。

 新人で、村人で、大した実力が無かったリエラが、勇者を打ち破ったのだ。

 どんな手法だったかはこの際どうでもいい。

 リエラがチグサを圧倒した。圧倒できた。

 その事実だけでも、リエラに取っては代えがたい家宝であった。

 次回、悪足掻きにバグ動く。

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