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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのバグの怒りが齎した結果を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)そのオーガが死んだ理由を彼らは知らない

 雷鳥瞬獄殺。まさにダメ押しの迎撃スキルである。

 落下して来た相手をただただ只管切り刻む剣閃の牢獄。

 付加状態は麻痺。


 折角回復したチグサはこの連撃で再び身体が麻痺してしまい、地面に激突した次の瞬間には立つことすらできず、その場で痙攣するしか出来なかった。

 朦朧とした意識の中、リエラの姿だけを瞳に捕える。


 何がいけなかった?

 慢心は無かったはずだ。手加減もしていなかった。実力で……負けた?

 そんなバカな? 慢心ではないがリエラが私に勝つ可能性は限りなく低かった。そのはずだ。

 チグサは思わずそんな思いを胸に抱く。認められなかった。

 友人となったとはいえ、ただの新人冒険者にいいようにやられ、しかも勇者である自分が手も足も出なかった。そんな事実に驚きとともに嫉妬が混じる。


 尊敬や賞賛は無かった。

 ただ胸の内に去来するのはドロドロとした粘つく感情だけだ。

 全身が動かないが、もしも動けばせめて一矢とばかりにリエラに突撃していただろう。


 静寂に支配された闘技場内で、司会進行役を買ってでていた女性が慌てて手を振り上げる。

 はっと我に返れたのは奇跡に近かった。

 おそらく、長年の司会能力が無ければ他の面々同様。見事な逆転劇に大口あけてポカンとしていたことだろう。


「ち、チグサ・オギシマ戦闘不能によりリエラ・アルトバイエの勝……」


「ちょっと待ったァ!!」


 司会者の言葉に慌てて闘技場内に飛び降りて来る一人の男。

 オーギュストは闘技場内に乱入すると、倒れたチグサを一度蹴りつけリエラと対峙する。


「チグサは原因不明の病気で途中棄権。代わりに俺が代理で闘う事になった!」


 惚けていた全員がオーギュストの言葉で我に返り、そして再び目を点にする。

 何言ってんだコイツ? みたいな顔に、オーギュストはふぅっと息を吸いこみ大声で宣言する。


「チグサは原因不明の病気で途中棄権。代わりに俺が代理で闘う事になった!」


「ちょ、ちょっと待ってください! チグサさんはどう見ても対戦中に……」


「黙れ駄民。代理だと言ってるだろうが。それに見ろ、リエラも了承済みみたいだぜ?」


 油断なく剣を構えているリエラを見せ、オーギュストは悪意ある笑みを向ける。


「なんだ? トルーミング王国を敵にしたいのか貴様は?」


「え? あの、私は……」


「さっさとしろよっ!」


 理不尽に告げるオーギュスト。司会者の女性も周囲を見回し、誰も助けてくれない事を悟ると、泣きそうな顔で折れた。


「ひ、引き続き、オーギュスト・デン・トルーミングとリエラ・アルトバイエの決闘を行います。りょ、両者始め!」


「はっ。初めからそうすりゃいいんだよ! またせたなリエラ! テメェをこの場で犯してや……」


 剣を引き抜き一歩、前に出たその刹那。

 気が付けばリエラの姿が既に懐にあった。

 は? と呆然とするオーギュストに一撃。

 しかしすぐに離れてしまう。


 リエラの一撃はオーギュストが用意していた罠、反射の護符により反射されたのだ。

 ソレに気付いたリエラが一撃を振り切る前に攻撃をキャンセルして距離を取ったのだった。

 さすがに反射の護符効果をキャンセルさせられたとは思わなかったオーギュストは、彼女が直前に護符に気付いて逃げただけだと勘違いしていた。

 実際問題は似たようなものなので仕方無いとも言えるが、反射される前に攻撃を止めるのと、反射された攻撃を見て避けるのとは似ているようでいて次元が違う。


「は、はは。随分鍛えたみたいだな。だが残念! 魔道具で固めた俺の装甲はちっとやそっとじゃ抜けられねェぞ?」


 反射の護符を買っていた自分に内心拍手を送りながら剣を握り直すオーギュスト。

 だが次の瞬間、再び意味不明の事が起こった。

 自分の身体が突然、回転したのだ。


 驚くオーギュストの目の前には、冷酷な顔で見下ろして来るリエラ。

 投げられたのだと気付くより先に、頭から地面に落とされる。

 「がぁ」っと声が漏れる。


 確かに反射の護符は物理攻撃を反射する。

 しかし、ダメージを与えた相手が自分となれば話は別だ。

 投げられたオーギュストが地面に勝手に激突したのであるから、反射の護符は反応しない。

 投げるという行為に関しても、オーギュストに物理ダメージを与える訳で無く彼を掴むだけの行為なので反射されることが無い。まさにうってつけの攻撃だった。


 反撃等出来はしなかった。

 いや、むしろ動くことすら無理な連続投げ。

 立ち上がれば即座に投げられ、寝たままなら足を掴まれて振り上げられて叩きつけられる。


 意識が飛びそうになりながらも、必死にアイテムを取り出すオーギュスト。

 奥の手を使う気はなかったが、既にそうも言っていられない状況。

 咄嗟に取りだした何かを地面に投げつける。


 石は地面に落下するとともに光り輝き、何かが膨れ上がるように出現した。

 その姿はリエラの二倍はあろうかという巨漢。

 厳つい顔立ち、緑色の肌。


 魔物・オーガ。

 突然闘技場に出現したオーガに一同騒然となる。

 しかし、リエラだけは違った。


「は、はは。やっちまった。御禁制の野生モンスター捕獲石を叩き割っちまったぜ。残念だったなリエラ。こいつは野生のオーガで……」


 オーギュストの勝ち誇った顔の横をリエラが走る。

 風になびくポニーテールが彼の視線に焼き付いた。

 幻影斬華で翻弄しながら接近するリエラ。

 ガムシャラに拳を振り抜くオーガ。


 飛び交う拳の連撃を華麗なステップで全て交わし、そして……


「双牙斬」


 オーガの野太い腕がリエラの剣撃を受け止める。

 腕に突き刺さった剣は深々と根元まで受け止められ、押しても引いてもビクともしない状態に陥る。しかし、心臓には届かない。

 厚い胸肉に阻まれオーガを殺すには至らない。

 誰もがそう思った。


 だが、突如現れたオーガは、突如音も無く崩れ去り息絶えるのだった。

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