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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その奇跡の正体を皆は知らない
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その奇跡の一手を、僕は見逃さない

 嫌だな。嫌だけど……無様に命乞いすらできないせいかな。

 死にたくないとか呟く気にはならない。

 ただ、少しずつ、意識が消えていくというか、拡散していくというか……

 これが……死。


 妙に諦観し、納得を始める思考。

 そんな時だった。霞み始めた視界にアレが映ったのは……

 一瞬にして意識が繋ぎとめられた。


 知らせなきゃ。

 思考を占めるのはそれだけだ。

 起死回生の一手を、どうやって誰かに伝えるか。

 見つけてしまった。気付いてしまった。このままじゃ終われないっ。


 それを考えるのに忙しく、こんな時に死んでいる暇などないと、走馬灯のごとく動き始めた思考回路。

 動ければ、いや誰かにアレを伝えるだけでいいんだ。

 アレを手に入れるだけで勝機が……


 でも、結局動けない僕には、誰かに何かを伝える手段なんて……?

 気が付けば、リエラが魔法銃を構えていた。

 その銃口は植物の魔物などではない。アルセに、いや、彼女が揺する僕に向けられていた。


「当ってぇっ」


 決死の言葉と同時に引き金を引く。

 乾いた音が一発。

 少女の腕が銃の反動に耐えきれず身体ごと真上に浮かぶ。

 上方に打ち上げられた両手は支えにもならず、リエラは背中から地面に倒れた。

 間を置かず僕の身体に衝撃が走る。

 死に掛けの身体に打ち込まれた弾丸で体内に溜まっていた血が押し出される。


 口からゴボリと見たくもない赤黒い液体が漏れた。

 手で拭い、思わず血塗れになった手を視界に収める。

 なんじゃこりゃ。とでも言える程余裕があればよかった。

 でも、そんな余裕はなく、むしろ、不自然な状況に思わず身体を確かめる。


 あれ? なんで僕は、自分の手を見れている?

 身体が、動く?

 え? あれ? なんで?

 思わず立ち上がる。不思議と今まで以上に身体が動く。動きやすい。

 何コレ? どうなって……


「アルセを連れて、逃げてくださいっ」


起き上がったリエラが、僕を見て叫んだ。

その声で、リエラがついに僕を認識したのだと気付いた。

 打ちこまれたのは魔法弾。その内容に攻撃魔法は入っていない。

 あるのは状態回復か、最上級の体力回復。

 今、僕に打ちこまれたのは最上級の体力回復魔法弾、キュアラ・オール。


「僕が、見えるのか?」


 しかし、彼女に僕の声は聞こえないようだ。

 つまり、僕の姿が見えるようになった訳じゃないらしい。

 きっと、アルセが僕を揺すっていたせいだ。

 それである程度僕がいる場所がわかったのだろう。


 けれど僕は動かない。

 なぜならリエラを護って怪我を負ったからだ。

 どれ程の怪我だったのかは僕自身も自覚できなかったが、とにかくヤバかったのは理解できる。

 だからこそ、リエラも気付けたんだ。

 僕が彼女を庇って動けなくなったということに。


 そして、僕の身体に、キュアラ・オールの魔法弾を打ち込んだらしい。

 キュアラ・オール。大抵の傷なら全快させる回復魔法の入った弾丸だ。

 現に、当ったはずの弾丸は僕の怪我が治ると同時に押し出され、地面に転がっていた。


 ならばやるべきことは一つだけだ。

 僕はアルセの頭にぽんと触れると、先程見つけた最後の一手に視線を向ける。

 アルセを連れて逃げるのは、アレを使った後でも十分だ。


「アルセ、待っててくれ。すぐ、あいつら助けてくるから」


 首を捻るアルセに苦笑して、僕はアンブロシアの魔物を睨みつける。

 勝機は見えた。やるべき事も理解した。

 ならば、後は実行に移すだけだ。


 僕はアルセの背中を押してリエラに向けると、アルセを押し出すようにリエラのもとへ向わせた。

 それと同時に踵を返し、アンブロシアの魔物目掛けて駆け出した。

 リエラはアルセがやってきたのに気付き、彼女を連れて蔦の有効範囲から逃れる。

 周囲を警戒し始めたので放っておいても大丈夫だろう。


 うねる蔦は僕を敵とは見てないようで、蔦にさえ触れなければ僕を敵と、いや、そこに何かが存在することすら気付いていない。

 蔦たちは残った獲物であるリエラたちを狙うが、ぎりぎり届かない。

 魔物が自走して近づくも、その速度は遅いため、リエラが攻撃範囲外に逃げる方が速い。


 だから、僕は蔦を避けながら怪植物の蔦や根を避け接近する。

 こんなもの。弾幕シューティングゲームより簡単だ。

 ただ障害物として存在するものと流れ弾にさえ気を付ければいいんだから。


 そして魔物の背後に居る、ヤツへと辿りつく。

 ようやく見つけた勝機、絶対に逃がさない。

 僕は、黄色いふわふわの雪だるまを抱き上げたのだった。


「に゛?」


 突然見えない何かに抱え上げられたにっちゃう・つう゛ぁいが戸惑った声を上げた。

 片耳にリボンのついたそのにっちゃう・つう゛ぁいは、あの金持ち娘がペットにしていたにっちゃう・つう゛ぁいである。

 なぜ行くとこ行くとここいつは現れるのか知らないが、それでも、今は神にすら感謝する。

 それはきっと偶然なんだと思う。でも、偶然でも見つけたならば、やるしかない。

 偶然という名の産物を、奇跡に変える。

 そのために、走る。


 待っててくれ皆。

 今すぐに。最凶の勝機を見せてやる!

 必ず僕たちに勝利を!

 にっちゃう・つう゛ぁい

  種族:にっちゃう クラス:にっちゃう・つう゛ぁい

 ・片耳に可愛らしいリボンがあしらわれた黄色い毛のにっちゃう。

  その突撃はあらゆるものを打ち砕くと言われている。

  余談だが、この世界のことわざに、さわらぬつう゛ぁいに祟りなしということわざがある。それ程に、にっちゃう・つう゛ぁいは人々に恐れられているようだ。

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