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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのバグの怒りが齎した結果を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)その少女の変化を彼女は知りたくなかった

 荻島千草にとって、その命令は聞き入れ難いものだった。

 ジーンは代表選手にチグサを出場させるという。

 寝耳に水だ。


 当然、断ろうとした。

 しかしフィグナート王子としての命令。そして、断ればケトルをオーギュストの側室にする約束をしたと言われれば、ケトルを守るため出場しない訳にはいかなかった。

 国王がそんなことを了承するかは分からない。でもケトルを疎ましく思っている彼らならば、やる可能性は高い。


 なんとか交渉し、リエラがオーギュストの慰みモノになることだけは阻止する約束を取り付けた。

 だから、早く終わらそう。

 チグサは目の前で呆然と佇むリエラを見据える。

 この戦いに勝利してしまえば、ケトルは無事だしリエラも無事になる。

 アメリスについてはジーンが望んでいるので覆すのは難しいが、そもそもリエラを決闘に参加させたのは彼女だから、自分の失態くらい自分だけで片付けてほしいものである。


 だから、対戦したリエラを一撃で倒そうと全力で行った。

 まさか受けられるとは思わなかったが、それでも負ける要素はなかった。

 リエラは完全に恐慌状態に陥っていて、反撃すら出来ず、ただ本能の赴くまま攻撃を受け止めただけだったのだ。


 呆然とチグサを見つめて来るリエラに、早く楽にしてやろうと近づいて行く。

 ゆっくりと距離を詰めながら、まだ彼女を傷付ける勇気を持てない自分の意思を研ぎ澄ませていく。

 これが彼女のため。そう信じて……参る!


 突撃した瞬間だった。

 全身を鷲掴みにされたような言いしれぬ悪寒が全身をつんざいた。

 驚きながらも刀を振り上げ、リエラ目掛けて振り下ろす。

 次の瞬間、リエラが消えた。

 それはもう完全に、一度も目を放してなかった。そのはずなのに、リエラは振り下ろされた刀に切られることなく消え去っていた。


 どこに?

 思わず視線を彷徨わせ、ふと、感じた違和感に横を見る。

 丁度リエラがゆったりとミスリルソードを拾い上げ、構えたところだった。

 いつの間に向こうに?

 チグサは疑問に思いながら刀を構える。

 リエラが視線を向けて来たその刹那、再びゾクリと全身が戦慄いた。


 それはリエラであって、リエラではなかった。

 油断? 慢心? 優位? そんな思いは一瞬で吹き飛んだ。

 全力で、殺しにかからなければ……殺される!?


 全身を噴き出す汗。初めての感覚に自分は何を相手にしていたのだったかと思わず目をしばたたかせた。

 リエラだ。どう見ても幻覚じゃない。彼女はリエラ・アルトバイエ。

 ただの冒険者になったばかりの新人に毛の生えた程度の存在だ。そのはずだ。


 しかし、その視線は瞳孔が狭まり、光を失ったかのような機械的な、不気味な様子を醸し出している。

 集中している? といえば聞こえはいい。だが、彼女は集中しすぎている。

 吹き出る汗は完全に、未知の敵に対する戦慄。手を抜くわけにはいかない。


 踏み込み、走りだす。

 剣撃を一閃。リエラを横薙ぎに殺す!

 次の瞬間、切ったはずのリエラが霞のように消えた。


 驚く自分の周囲に無数のリエラ。

 違う。これはスキル幻影斬華だ。上級速度系剣士が扱うスキルの一つだったはず。

 チグサはまだ至っていないが、いずれ手に入れるスキルのはずだった。

 ソレを、まだ新人のリエラが使っている?


 半ば本能で一撃を受け止める。

 視界は完全に剣を見失っていた。

 本能的に動かした刀が偶然リエラの剣を止めた形だ。


 バックステップで距離を取るリエラ。

 チグサが構え直そうとした刹那の時間。

 音速を突破したリエラが全力ダッシュでチグサの懐に潜り込んでいた。


 しまった!?

 思った次の瞬間には、身体に衝撃を感じて上空へと撥ね上げられていた。

 何が起こった? 麻痺したような感覚を持つ身体を動かそうとしながら必死に考える。

 今のは……そう、電撃を纏わせた武器で攻撃する一撃、オーギュストが時々使っていたライジング・アッパー?


 チグサはそこに思い至ったことで、自分の身体が雷撃で麻痺していることにも気付く。

 これはマズい。

 そう思いながらも動けない事には何の対処も出来ない。

 地面に落下した後なんとか状態異常を回復する魔法を唱えないと……


 だが、その想いは次の一撃で不可能となった。

 不沈撃。その一撃は落下中の者を再び撥ね上げる、まさに無限キルのハメ技である。

 身体が動けば逃れる術はあっただろう。

 しかし、リエラがソレを許さない。


 表情の抜け落ちた彼女は機械のように落下して来たチグサをひたすらに撥ね上げて行く。

 無理だ。抜け出せない。

 ここで魔法を紡ぐしか生き残る術がない。


 不沈撃で飛びそうになる意識を必死に繋ぎとめ魔法を構想する。

 キュア。状態異常を無くす魔法である。

 上空に撥ね上げられた瞬間、なんとか発動する。


 よし、身体が動くようになった。

 ようやく反撃の糸口が……

 落下と共に身を翻し真下のリエラを迎撃……


 刹那、真横に飛び上がる気配。

 あっ、とチグサはそちらに視線を向ける。

 リエラと目があった。


「雷鳥……瞬獄殺!」


 その言葉を聞いた時、チグサの思考は絶望に染まった。

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