表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのバグの怒りが齎した結果を彼らは知りたくなかった
427/1818

その助っ人が居ないことを彼女は知りたくなかった

 ちょ、ちょっと!? 冗談じゃ済まないぞリエラ!

 クソ、なんだこの鉄柵、めちゃくちゃ硬い!?

 思わず乱暴に叩くけど、鉄柵が壊れる気配はみじんも無い。


 ヤバい、非常にヤバいぞこれ!

 どうすんだよ。リエラ! 気付いてくれ! 名前を呼ばれて舞台中央に上がらなければ戻って来れるだろ。荷物忘れたっていえばこっち戻れるから。早く、今直ぐ戻って来てくれっ!!


「なんで……なんであなたが……」


「すいませんリエラさん。結局私は……フィグナートの勇者なんです。だから。アメリスさんをジーン王子の婚約者とするため、あなたを倒します。あなたの事については、交渉して助けますから。だから……お覚悟を」


 すらりと、刀を引き抜くチグサ。

 何かを決意したその顔は、冗談でここに立っているのではない事をリエラに告げていた。

 知らず、プレッシャーを感じたリエラがゴクリと喉を鳴らす。


「リエラさん、舞台の上に」


「あ、は、はい!」


 我に返ったリエラは、司会者に言われて慌てて舞台に上がってしまう。

 ああもう、これじゃ僕が舞台に向えないぞ!?

 それでも必死に鉄柵を叩き続ける。


 舞台上では司会者が決闘の説明をしていた。

 曰く、決闘でならば相手を斬り殺しても罪に問われないという事らしい。

 それでいいのか冒険者学校。結構殺伐としてるね。


「ではでは! 試合を始めます。両者用意はよろしいですか? では、試合始め!!」


 司会者がさっとバックステップして舞台から逃げ出す。

 未だに戸惑い気味のリエラは青い顔で全身をガタガタと震わせていた。

 対するチグサは正眼に刀を構え、すぅっと息を整える。


 誰の目が見ても勝敗など分かり切っていた。

 一瞬でのリエラの敗北。

 そんなモノ。予想しなくとも丸分かりである。


「なんで……なんでチグサさんが?」


「自問自答してる暇があるのですか? 行きますよ?」


 すっと、足を踏み出すチグサ。

 剣道特有の擦り足で一気に距離を詰め、リエラに打ち降ろしを行う。

 Aクラスハンターにより鍛えられたリエラは咄嗟に剣撃を防御する。

 続く真横からの一閃。防御は間に合ったが地力の差で吹き飛ばされた。


 中央から僕ら側へと転がってきたリエラ。その耳に、それはようやく聞こえた。

 ばっと振り向いたリエラは、自分が出て来た通路に鉄格子が嵌っていることに気付く。

 そして、誰もいないのに激しく揺れている怪現象。


 さぁっとさらに血の気が引いていた。

 口からは「透明人間さん?」と漏れているが小さな声過ぎて誰も拾えない。

 唇の動きでなんとなく理解しただけだ。


 気付いてくれたけど既に後の祭りだ。

 ここからじゃどうする事も出来ない。

 どうする? どうすればいいんだ?


 焦る僕の横に、ルクルがやってくる。

 何をしているの? といった様子で首を捻る。

 ああ、そうか。君はまだただの魔物だったっけ?

 ほら、知恵の実あげるよ。だから、何かいい打開策教えてくれ!


 リンゴみたいな果実を食べるルクル。

 どうやらお気に召したようですぐさま平らげてしまった。

 そしてふと、考え込む。


 そしてポンと手を打つと、何かをジェスチャーし始めた。

 ええと、訳すとすれば、通路が使えないなら、客席から飛び下りればいいじゃない。かな?

 ……ああああ!? そうか! そうだ。そうだよルクル!

 ここしか闘技場内に向えないわけじゃない。

 観客席は二メートルほど高くなってるだけで決して降りれないことはない。

 防壁もあるけど確か魔法用だけだったはず。


 今から行って間に合うか? いや、間に合うかどうかじゃない。やれることがあるのだから、やるしかないだろ!

 僕は急いで廊下を走り去る。

 ルクルも僕を追ってやってくる。

 いいけどルクルさん。さすがに客席から飛び降りた後は自重してね。君が乱入すると色々問題になるから。


 アンブロシア食べたから大丈夫だろうとは思うんだけど、頼むぜルクル。

 僕はやるよ。相手がチグサだろうとなんだろうと関係ない。

 リエラに勝利を。バグろうが何しようが、リエラの貞操は僕が守る!


 ひたすらに駆け抜ける廊下。階段。階層。

 皆応援に出ているのか人っ子一人見当たらない。

 客席への入り口にガードマン役の兵士が居たくらいである。


 当然その横を素通りさせて頂きました。

 そして客席に躍り出た僕が見た光景は……

 ……え? どうしてそうなった?


 隣にやってきたルクルが首を捻りつつカレーライスを取り出し渡して来る。

 食べる? そんな言葉が聞こえてきたので、僕は素直に受け取って食べる。

 食べながらにっくんたちのいた客席に近づき階段状の場所に腰掛けカレーを食べ始めた。

 アルセが気付いて僕の上に座ってくる。

 これでアルセがちょっと浮いた状態でカレー食べてるみたいな光景になりました。

 僕の不自然さをアルセだから。が塗り消して行きます。


 なぜリエラを助けに行かずに悠長にしてるのかって?

 そんなの分かり切ってるじゃないですか。

 だってリエラが……リエラが圧倒してるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ