その闘いで強くなれたのかを僕らは知らない
リエラッ!
僕は咄嗟にリエラを自分の方へと引き寄せる。
助っ人シルバーの一撃が空を切った。
「き、きゃああああああああああ!?」
って、何で悲鳴を……おおおおおぅ!?
咄嗟に鷲掴んで引き寄せた僕の腕は、リエラの鎧の隙間に入り、なぜか胸をしっかと握り……グッジョブ僕! リエラ、ちょっと大きくなってない?
「と、透明人間さんのバカァっ!?」
慌ててリエラから逃げる。
一瞬遅れて肘打ちが襲って来たけれど、既に僕はそこに居なかった。
ついでに避けた先にカレーライスの乗った皿がブーメランのように襲って来たのでギリギリで躱す。
弧を描いてルクルに戻ってきたカレーライスは、何故か嬉々として受けようとしたうっちゃりイエローの顔面に突き刺さり、一名脱落。
欲掻いて食べようとするから……
「透明人間さんっ、後でOHANASIがありますからッ!」
嫌です。辞退します。
僕の意思など放置して、リエラは剣を構え直す。
どうやらいい具合で緊張や恐怖がほぐれたらしい。
そ、そう。この効果を狙ったんだよ! 決してエッチなことしたかった訳じゃないんだよ? ほんとだよ? 不可抗力だよ?
助っ人シルバーは結構な脅威だが、今のリエラなら充分一対一で倒せるくらいには強くなっているようだ。
助っ人シルバーの大ぶりの攻撃を見切り、ポーズ中に反撃を与える。
大仰なポーズを取ってからの蹴り技は冷静になって見ればかなり避けやすく、アレンとの戦いの御蔭で動体視力が鍛えられたリエラは右に左に避けながら反撃を加えて行く。
左から右上に切り上げる助っ人シルバーの鋭い蹴りを避け、カウンターの袈裟掛け斬り。
わざわざやられる時までポーズをつけた助っ人シルバーは盛大な敗北シーンを見せつけて息絶えた。今回変態っぽさ皆無だったなこいつ。
ソレを見たツンデレブラックとおいろけピンクがリエラに向って動き出す。
残りはこの二体だけだ。
リエラ一人でも十分対応出来る。
ブラックの拳が襲いかかり、それを避けたリエラにスライディングキックをおいろけピンクが繰り出した。
この動きは既にアレンに見せられているので、着地と同時に蹴りつけた地面から足を放して逆に両足を振り上げる。
丁度ピンクが自分の下を通過するのを見届け、彼女の脳天向けてミスリルソードを突き刺した。
リエラさん、それはあまりにえげつないと思います。
咄嗟だったのか気付かず引き抜き、最後の敵を相手取る。
ツンデレブラックは既にカレー塗れだ。
黒ではなく茶色だからツンデレブラウン?
女性であってもちょっと近づきたくはない……かな?
どうもこのツンデレブラック。実力的にはリエラよりちょっと弱いくらいらしい。
たった一人になると丁度いい戦闘になってきた。
リエラも闘いに集中しているようで周囲を気にしている暇はないらしい。
僕の横にはなぜかルクルが寄って来ていて、仕方ないわね。みたいな顔をしながらカレーライスを勧めて来ていた。
折角なので頂きます。あの、お水ないですか? あ、ないんですね。すいません。
ついでにおっさんが横に現れ酒飲むか? とか言って来たので丁重に断っておいた。
お酒とか飲んだこと無いんでどうなるか怖いのです。
気が付いたら見知らぬ場所に居た。とか本気で死亡フラグですから!
にしても、リエラとツンデレブラックの闘い結構長いな。
リエラが疲れはじめてるっていうのもあるだろうし、カレー塗れのツンデレブラックを斬りにくいというのもあるだろう。
視覚的にうわちゃぁ。な状態なので触れたくないのだ。
そこがネックになっているのが皮肉な話である。
「リエラの嬢ちゃんが闘うのはいいんだが……これで倒せたとしてあの坊主に勝てると思うか?」
際どいと思います。魅了の魔眼封じられても実力は冒険者として独り立ち出来るぐらいだし、アレに勝てる学生といえば、多分チグサくらいだろう。
勇者である彼女の実力なら問題無く勝てるだろうけど、リエラが勝てるかといえば……
なら、この絶望的状況をどうひっくり返すか。
簡単だ。バレなければいいのだよ。
例えば二人きりで闘うはずの闘技場に、見えない誰かが紛れこんでいても、誰もわからんだろう?
ボクがちょこちょこ邪魔してやれば、あら不思議、誰も予想だにできなかったリエラの逆転勝利という驚きの結果が!
ああそうさ。不正する気満々さ! 当然でしょう。
あんな奴らにアメリスやリエラの身体を自由にさせてなどやるものか!
そんな理不尽、僕が許す訳が無いでしょう!
見えないアドヴァンテージを存分に発揮して、大恥、掻かせて頂きやす!
ついでに、次こそ全身全霊の籠ったバグ弾打ち込んでやる。
アカネの許可も貰ったし。アカネ経由で神様からも面白そうだから許すとか言われたからね!
ツンデレブラックをなんとか撃退したリエラが剣を支えにへなへなと座り込むのを見ながら、僕は一人、拳を握って誓いを立てた。
母さん、父さん。僕は、自分の意思で不正をするよ。堂々と!




