その影兵を僕は知らなかった
その動きはまさに疾風。
男は気絶したリエラを庇うようにして迫るマイナーグリーンたちを屠って行く。
黒い影のように動き回る男が通り過ぎる程に、倒されたマイナーグリーンが増えて行く。
すごいな。この人強い。そして、こんなおっさん見たことありません。誰の知り合い?
またたく間に百体くらいいたマイナーグリーンを葬り去って、男は躯の山に腰掛ける。
腰元に結いつけていた袋の様な物を掴み取ると、蓋を引っこ抜き呷る。
「っかーっ。運動した後の酒はやっぱ美味ぇ」
普通に大酒のみのおっさんだ。年は三十後半から四十代くらい。
筋肉質の細マッチョながらも顔立ちはそれなりに濃い。無精髭が痛そうな人だった。
一頻酒を飲んで袋をしまうと、目を凝らすようにして周囲を探る。
「あー、どこにいるか分からんがそこの坊主。坊主であってるよな? ちょっとこっちこい」
……ん? 坊主って、もしかして僕のこと?
いや、でも僕は存在無効で誰も気付いていないはずなんだけど……
「さっさと来いっつってんだよッ」
「は、はい、ただいま!」
思わず叫んでマイナーグリーンたちが積み重なっている場所を昇って行く。
ウ○コ座りから尻だけ落としたような座り方のおっさんの横に辿りつき肩に手を置いてみる。
するとおっさんはおっと驚いた顔をしつつも、懐から小さな水晶玉を取りだした。
「こいつはスキルストーンっつってな。誰かの持ってるスキルをコピーして他の奴にも使えるようにする石だ。使用すると念じればいつでも誰でもこれを使用して覚えられる。使ったら壊れちまう一回限りの使い捨てっつー奴だ」
はぁ……それはまた珍しい石ですね。
「俺の最強とも思えるスキルを詰めておいた。コイツでツッパリの亜種も倒したんだぜ? お前らが総長見てた間俺らも頑張ってたんだ。すげぇだろ」
あの頃から近くに居たのか!?
誰だ? 全く見た覚えないぞこんなおっさん。
「こいつをリエラの嬢ちゃんにやってくれ。渡せばどうせカイン達に聞くだろうから使用方法は分かるんだろ。間違ってもテメェが使うんじゃねェぞ。後ろからブッ刺してやるからな」
この人、完全に僕の事認識してる。
姿は見えないけど、ここに居る事だけは分かっているみたいだ。
僕は恐る恐るスキルストーンを受け取る。
「致死率の高い攻撃だから人間相手に使う時は気を付けろ。まぁ、使用方法と同時に威力は理解できるようになるから嬢ちゃんなら大丈夫だろ」
とりあえず、敵ってわけじゃないらしい。
リエラが起きるまで護衛してくれるようで、周囲を確認しながらも時折酒を呷っている。
気だるげな顔でぼぉっとしながら、不意に独り言のように呟いた。
「そういやぁよ。お前さんと会うのはこれが初めてなんだっけか? もともと影の一人なんで自己紹介する必要も無いんだがな。お前さんは赤の他人って感じがしなくてな」
これ、僕に話しかけてるんだよね?
反応しても気付かれないからしないけど、一人言話してて寂しくならない?
「初めまして。ネッテ嬢の護衛をしている影の一人だ。初顔合わせは、アルセと会った時かな。あのときゃただのアルセイデスとしか認識してなかったんだがな。あんたらに会えて楽しかったぜ。ただの護衛だとか退屈しねぇで済んだしな」
ネッテの護衛でアルセと会った時って言ったら……ほぼ最初から居た人だ!?
え、え? どこに居たの。いつからいつまで一緒だったの!?
「まぁ、つっても俺がお前に確信持てたのはリエラの嬢ちゃんより後なんだがな。影からパーティー護衛してたんだが、お前さんの御蔭でピンチを何度か回避できた。俺からも礼を言わせてくれ。お嬢を助けてくれて、ありがとう。感謝してる」
えっと、その、ど、どう致しまして?
「で、だ。なんか他人のような気がしなくなって来てな。人間味を思い出しちまったっつのか? 礼を含めて返そうかと思ってな。そいつをくれてやることにした。影兵専用スキル双牙斬。一撃で二回攻撃したようになるスキルだ。硬いアーマー着込んでる相手の寸前を切り裂けばアーマーの中身を切り裂けるっつー便利なスキルだ」
何そのチート臭い攻撃は?
アーマー無視とか、ありがとうございます。
これならリエラでも十分な即戦力として使えるぞ。
あとは起きたリエラにこれを渡すだけだ。
それからしばらくはおっさんの昔話。というかアルセと出会ってから今までの思い出話を聞かされることになった。
というか、ちょっと言わせてもらっていいかな? いろいろと突っ込み処満載な話だったけどさ、ヨイドレが襲って来たの、あんたのせいかっ!!
酒のあるところに現れるヨイドレ。
ネッテの監視をしながら酒飲んでたら現れたんだとか。御蔭でパートナーの女の子に禁酒指令を言い渡されたらしい。
可哀想? そっちの女の子の方が可哀想だよ! 人生的に!




