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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 そのダンジョンで起きた悲劇を僕は知らない
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その殴った相手を彼は知らない

 御せん漁船を撃破した僕らは、仲間? というかなんというか。二体の魔物を加えてボス部屋奥の転送室へとやって来ていた。

 ここから、十層の転送室と地上への送還が出来るらしい。

 ただ、このカイヘイ洞は三十層で出来ているため、この部屋の向こうにある階段からまだ下に降りる事も出来るようだ。


 とにかく、この転送装置でリエラ達のもとへ戻ればいいのである。

 さっさと地上に戻りましょう。

 そんなパルティの言葉が出た直後、なぜか真後ろのドアが閉まった。

 どうやらボス部屋に他の冒険者が侵入したようだ。


 この部屋はパーティーで挑む場合、誰か一人が部屋中央を越えるか、入口に戻ろうとするかした場合にボスが出現するという仕組みになっているらしい。

 なので、その条件を踏みさえしなければ何百人だってボス部屋に入ることは可能なのである。


 まぁ、そんなことはどうでもいいや。

 すぐ後ろに冒険者が来てたんだね。とパルティと笑いあい、ふと、僕は思った。

 もしも、リエラが脱出不可能だと判断したら。カインたちとの合流を目指すんじゃないだろうか? と。


 すると遭遇するのは十層ボスであり、そこで足止めを食う可能性が高かったりもする。

 地上へ戻ろうとするパルティが転移陣に触れようとしたその刹那。僕はその腕を掴んで止めていた。

 突然の事に動揺したようで顔を赤くするパルティ。


「あ、あの、透明人間……さん?」


 パルティを放置して転移陣を見る。

 床面に魔法陣が描かれており、中央に突き出た柱が一柱。

 その柱に触れる事で転移できるのだけど、魔法陣前にもう一つ柱があって、この四角い柱は途中で袈裟掛けに試し切りされたかのように斜めの切り口が晒されている。

 切り口の表面には三つの文字が浮き出ており、地上、十層、三十層という文字が書かれている。

 今は地上部分に文字横に有るスイッチみたいなものが合わさっているのだ。


 これを動かす事で地上、あるいは十層への移動が可能なのだろう。

 ただ、僕やパルティが動かすと三十層の欄にはスイッチが移動しなかった。

 多分ボスを攻略したらそこまで動かせるようになるのだろう。変な設定だ。


 今回は、十層にスイッチを合わせてから皆で魔法陣の中央に有る柱に触れる。

 次の瞬間、僕らの身体は十層の転移陣へと移動していた。

 移動するのは一瞬か。凄いな。


「あれ? 扉が空いてる!?」


 パルティの言葉でそちらを見る。

 丁度空色の水饅頭みたいなのが放物線を描いて部屋から飛び出て来た。

 そのまま僕らの前を通過して十一階層への階段を落下していく。


「今の、葛餅さん!?」


 驚くパルティ。

 ソレを無視して僕は走っていた。

 十層ボス部屋へと踊り込むと、丁度リエラの肩を掴み、嫌がるリエラにキスせんと近づくクソ野郎が一匹。

 考えるより先に身体が動いていた。


 きっと、生まれて初めてだと思う。

 思い切り握り込んだ拳。男の真横でしっかと踏み込んだ足。

 拳を握り、抉り込むように……うつべしッ!!


 オーギュストは不意の一撃を受けて横へと吹っ飛び、頭から地面に激突。

 その衝撃で気を失ったらしい。

 僕はその結末すら見るのは不要とばかりにリエラを抱き上げると、アメリスの腕を引いて走りだす。

 アルセたちがボス部屋前へとやってきたのを確認し、彼女たちの傍へと二人を連れて来た。


「リエラさんっ、アメリスさんっ! 御無事で!?」


「あ、ぱ、パルティさん……」


 呆然としていたリエラとアメリスがパルティの姿を見て安堵に顔を歪ませる。

 余程怖かったのだろう。アメリスは涙を流してパルティに抱き付いていた。

 リエラも感極まったのか、僕にしがみつくようにして小刻みに揺れ出す。

 って、リエラさん、今お姫様抱っこみたいなことしてるんですよ、あなたが震えたら僕の腕力で支え切れる状態じゃなくなって……


 うおおおおお、気張れ、気張るんだ僕、今リエラを取り落とすと何か色々格好悪い気がするぞ。

 ぬああああああっ!? 腕がぶるぶるしてきた。リエラ以上にぷるぷるしてるよ。腕の感覚なくなってきたよ!? 助けてっ。誰か助けてぇ!? 


「リエラッ!!」


 僕が力尽きる寸前だった。

 頼れる仲間が十一層からようやくやってきた。

 ネッテがパルティの横から顔を出すと、気付いたリエラが自分から地面に降りてネッテに駆け寄り抱き付いた。

 その横を駆け抜けたカインとチグサ、そしてケトルがオーギュストを縛りあげていく。

 使っているのはケトル愛用の投げ縄のようだ。

 確か忍者にとっては攻城戦で城をよじ登るために使う奴だったはずだ。先端部に鉤爪付いてるし合ってると思う。


「十一層から上がろうとしたら葛餅が降ってきたから驚いたわ。何もされなかったリエラ?」


「はい、はいっ。ネッテさん怖かった。怖かったです。でも、でも私、頑張りましたよね……?」


 涙と嗚咽で詰まりながら、リエラが安堵と共に言葉を吐きだす。

 そんなリエラの頭を優しく撫で、ネッテは未だに闘い続ける二人の女に視線を向けた。


「カイン。悪いんだけどボス部屋から出て向こうを向いておいて」


「は? なんで……うおっ!? なんであいつら裸なんだ!?」


 といいつつ、何かのオーブを取り出すカイン。

 ああ、アレが武器屋のおっさんに送ってる写真を作る装置か。取り上げられても知らないぞカイン。

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