その状態が誰トクか僕は知らない
「リエラ、剣貸してくれ!」
「え? あ、その……」
自分の武器を失くしたカインは敵に有効だと思える武器を持つリエラに手を出す。
しかし、リエラはまだ恐怖に飲まれたままで、聞いていなかった。
カインが声を掛けた事で我に返るが、何を言われたか理解できずに戸惑ってしまっていた。
「アルセの剣ならあの蔦も斬れる。貸してくれ!」
「あ、は、はいっ!?」
言われるままに差しだすリエラ。
緑色に煌めく刃を引き抜き、カインは宙空に掲げてみせる。
微妙にニタリとほほ笑んだ気がしたが、ようやくアルセソードを持てて嬉しかっただけだろう。決して借りパクしようなんて思ってないと信じたい。
「行くぞバズ・オーク!」
再び突撃するカインとバズ・オーク。
「シェ・ズルガ!」
彼らが向う先に群れを成す蔦へと向けてネッテの魔法が先行する。
風の刃でズタズタに斬り裂かれる蔦だが、やはり本体までは届かない。
しかも、蔦はさらに数を揃え、次第苛烈になって行く。
バズ・オークなど一撃受けるだけでも衝撃が強いらしく、目に見えて疲労し始めている。
このままだと間もなく彼は戦線離脱。最悪、一撃を直撃されて戦闘不能もありうる。
そうなれば戦力が激減したカインたちに不利だ。
ただ、カインの方はむしろいままでより動きが格段に良くなっている。
当然ながらアルセソードを扱っているせいだ。
時折「なんだこの軽さ」とか「うおおっ、斬れる斬れる」など、テンションが上がっている声が聞こえている。
不利なのに、彼だけは楽しそうである。
そんなカインに触発されたのか、アルセの踊りもより一層激しく楽しそうに動いているのだが、どうでもいい話だ。
彼女には何も期待していない。
「くらえ、真空波斬!」
調子に乗ったらしいカインが何やら痛い台詞と共にアルセソードを振った。
するとどうだろう。まさかの真空波出現である。
僕のいた世界だとただ言葉を吐くだけで終わり、実際に真空波がでないのでああいう台詞は厨二病に分類されるのだが、この世界では普通にスキル名を叫んで必殺技を使うことができるようだ。
迫っていた無数の蔦を斬り裂き、本体に浅いながら傷を付けた。
植物の怪物が怒り狂ったようにわさわさと揺れる。
上部に吊られた状態のアンブロシアが物凄い揺れている。
そのまま千切れ落ちそうだ。
そうした方が回収して逃走という選択肢ができるので嬉しいのだが、残念なことに千切れる事はなかった。
「チッ、これでも大したダメージはないか」
「すごい、すごいぞこの魔物。ああ、なんて、なんて凄い魔物なんだ。私の研究心をここまで刺激するなんて。姫様、アレの死骸、持って帰っていいですか!?」
逆に興奮しだしたのはミクロンである。
もう、居ても立ってもいられず、気付いたら突撃してそうな様子で、ネッテに許可を求めるミクロン。
「そうね。討伐証明部位を取るにしても現物わかんないし、死体全体を持って帰るのがいいでしょうね。手伝わないから自己責任でお願いね」
「もちろんです! ひょっほぅっ」
ミクロンが壊れた。
余程嬉しかったのかよろ付きながらもアルセのもとへ向い一緒に踊りだした。
アルセも一緒に踊り始めたミクロンに笑顔を振りまき手にしていた木の枝を彼に渡した。
自分はそこいらに落ちていた枝を拾い再び踊りだす。
能天気が二人に増えた。
怪しい踊りを踊り続ける二人から眼を逸らし、突撃する二人を見る。
魔物の方も必死になりだしたようで、蔦の攻撃が激し過ぎる。
アルセソードの御蔭でなんとかなっているが、バズ・オークがもう限界だった。
動きが付いて行けてないのだ。
それをカインがフォローしながら一定ラインで足止めされている。
それ以上先には攻撃が苛烈過ぎて向えない。
じり貧だ。
ネッテが魔法を唱えるも、コレも有効打に成りきれない。
どうやら、今のパーティーではこいつを倒しきるのが難しいようだ。
それでも、カインもネッテも諦めない。
しかし、やはり決壊は訪れた。
カインが迫りくる蔦を一閃して斬り裂いた瞬間、ふごぁと悲鳴が上がった。
どうしたかと思ったら、バズ・オークの足に蔦が絡まっていた。
一瞬遅れ、物凄い速度でバズ・オークが吊りあげられる。
空中に宙吊りとなったバズ・オークに無数の蔦が絡みついた。
……誰トク?
まさかの展開に僕もカインもネッテも、ついついバズ・オークに気を取られてしまった。
その瞬間、別の場所から悲鳴が上がる。
その声は……
「うわっ!? なんですかこれは!?」
アルセと踊っていたはずのミクロンが蔦に胴を絡め取られ浮き上がっていた。
だから、誰トク?
二人も人質に取られると、さすがに攻めることも逃げる事も難しくなる。
全員に戦慄が走る。
そんな中、カインは静かに剣を構えた。唇を一舐めして戦慄の表情のまま腰を落とす。
「ネッテ。久々に使うぜ、アレ」
カインの隠し玉がついに解禁されるらしい。
あるならさっさと使えよ! 大ピンチになるまで取っとくもんでもないだろ。




