そのボスが魔物なのか無機物なのかを僕は知らない
ボス部屋が目の前にある。
どう見ても昇り階段などなさそうだ。
パルティもそれに気付いたようだけど今更引き返すよりこのままボスを倒して地上に戻った方が楽だと思ったらしい、アルセと僕に振り向いて、行く? と疑問気味に告げる。
クルー・ク・ルーは足元に擦り寄るレーニャを今は邪魔よ。とばかりに足で蹴ったりするが、カレーニャーは物理無効を持っているので全く気にしてない様子。
これじゃバレるじゃないっ。そんな苛ついた顔をしているが、既にバレております。
扉を開いてボス部屋へと辿りつく。
思わず追って来たクルー・ク・ルーとレーニャまで入ってきた。
アルセと共に今気付いたよといった様子で彼女を振り向けば。
あ、と顔を逸らして帰り道が一緒だっただけよ。みたいな態度を取っていた。
ツンデレか?
そんな彼女がちらっとこちらを見ておずおずカレーライスを取りだしたその刹那。
汽笛が鳴った。
皆して思わずそちらに視線を向ける。
ダンジョンボスが丁度室内へと化生した。
巨大な船のような身体。大漁旗を靡かせて浣腸艦長がデッキに仁王立ちしている。
魔物図鑑を見てみると、名前は御せん漁船。要するに既に暴走している船らしいです。
って、なに落ちついた顔で仁王立ちしてんだあんた!?
御せん漁船から無数のクルー・ク・ルーとマリナーマリナが甲板を降りて来る。
多いっ。めちゃくちゃ数が多くないですか!?
マリナーマリナの群れがこちらのクルー・ク・ルーへとドロップキックを行って来る。
当然、飛び出すカレーニャーは身を呈してクルー・ク・ルーを守った。
カレーが飛び散る。
クルー・ク・ルーの取り出したカレーライスがカレーニャーのカレー塗れになった。
ソレを見たクルー・ク・ルーが何故かふるふると顔を赤らめる。
いや、これはむしろ怒りの表情だ。
一歩踏み込み、渾身の力を込めて、マリナーマリナの一体にカレーライスをぶん投げた。
物凄い至近距離での一撃で皿が割れてしまっている。
そのままアイアンクローでもするようにしてマリナーマリナを地面に叩きつけていた。
……こわっ。この偽人怖っ。
何がカンに触ったのか分からないが、マリナーマリナたちを親の敵とばかりに襲いだした。
ついでに同じクルー・ク・ルー達にまでカレーライスを投げつけ、盛大なカレーライス投げ祭りが開催されている。
しかも敵はどのクルー・ク・ルーが裏切りモノなのか理解できてないようで、仲間同士でカレーライスの投げ合いを行っていた。
なんて、なんてもったいないんだこいつらっ!? カレーライスは美味しい食事なんだぞ! そんなポイポイ投げつけるもんじゃないだろ!
って! しまった!?
野放しになっていた浣腸艦長がいつの間にかアルセに接近している。
慌てて僕は近くにいた人物を掴み、代わりとばかりに浣腸艦長の前に差しだしていた。
あ、マリナーマリナだ。
浣腸艦長は狙っていたアルセを庇うように現れたマリナーマリナに気付き、むっと眉を寄せる。
が、すぐにまぁいいか。とカンチョー体勢に入る。
戸惑うマリナーマリナ。だが、自分が狙われたと知るや否や。ゴクリと生唾飲み込み腰を沈ませる。
浣腸艦長が側面に回り込むようにして背後に、そしてマリナーマリナの尻向けてカンチョー発射した、その刹那。マリナーマリナの姿が消えた。
否、マリナーマリナは既に浣腸艦長向けて背面ドロップキックという荒技を行っていたのだ。
驚く浣腸艦長の顔面にマリナーマリナの両足がめり込む。
もはや阿鼻叫喚の地獄絵図。
敵も味方も全く分からない状況で、このマリナーマリナもまた、他の敵から狙われ始めた。
艦長を攻撃したのがマズかったらしい。
なんか……ごめん。
クルー・ク・ルーをドロップキックで沈めた彼女に、背後からの奇襲。マリナーマリナからのドロップキックがマリナーマリナを襲う……って、魔物なせいか同一人物っぽいし全く違いのない存在だらけだから分かりづらい!
よし、この裏切った方はマリナと呼ぼ……あ、光った。しかも二回も。
図鑑、見た方がいいかな?
いいや、どうせ他の偽人に倒されるだろうし。あ、でも。ここでドロップキック喰らうの見てるだけってのは……ええい!
僕はマリナに体当たりしてドロップキックの射線から彼女を逃す。
ぎりぎり自分も範囲から逃れたのでよかったが、少しタイミングずれてたら僕に直撃だったよドロップキック。
地面割り砕くドロップキックとか、喰らいたくないんだけど!?
マリナは襲ってきたマリナーマリナにドロップキックをし返して倒し、落ちついて周囲を探す。
しかし、自分を救った攻撃を行った相手を探せずに首を捻る。
ふぅ。つい助けちゃったよ。
これはもう認めても良いと思うんだよね。僕、人が良いんじゃないでしょうか?
いや、自分で言うべきじゃないとは思うんだけどね。
御せん漁船
種族:鳥船 クラス:空船
・大漁旗を持つ空船。空中を移動する魔物たちの移動要塞。時々似たようなボスが各地のダンジョンで確認されている。
内部には無数の魔物が蠢いており、動力炉を止めるか、硬い装甲を削ってHPをゼロにするしか勝利する術はない。
ドロップアイテム・大漁旗、何かのボルト、何かのナット、クラインフェルト金貨
マリナ
・金髪ショートの元気娘。セーラー服を風になびかせドロップキックで相手に襲い掛かる。
足癖が悪く、初見の相手には必ずドロップキックをお見舞いする少女型の偽人。
種族:偽人 クラス:海兵
偽人:人と似ているが魔物として存在している意思疎通不可能な魔物たち。ただし、ニンゲンたちが知らないだけで彼らにも意思はあるらしい。
海兵:海上戦において通常よりもステータス強化がされるクラス。
二つ名:裏切り者
裏切り者:仲間を裏切ったことのある者に付くあだ名。何度も裏切ると二つ名がレベルアップしていき裏切りやすくなる。
装備:スパイクシューズ、海兵服
スキル:
ドロップキック:両足揃えての飛び蹴りを繰り出す。
ハイスピードセーラースパイラルシェイクキック:水中専用ドロップキック。水中でのみ威力が数倍に跳ね上がる。
常時スキル:
初顔合わせのドロップキック:初めて見つけた相手にドロップキックを行いたくなります。
愛するあなたにドロップキック:見染めた相手にドロップキックを行いたくてたまらなくなります。
肉体強化Lv32
体術Lv11
加速Lv21
愛情一筋
種族スキル:
水中弾丸:水中で泳ぐ姿は弾丸のよう。
海強化:海での闘いに+補正。水属性の戦場でも有効。
ドロップアイテム・ドロップキック指南書、スパイクシューズ、海兵服、浮き輪




