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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 そのダンジョンで起きた悲劇を僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その少女たちを守る者を僕は知らない

「リエラぁぁぁぁぁッ!!」


 悪どい顔で近づいて来るオーギュストとリアッティ。

 時折出て来る魔物を蹴散らしながら近づいて来る。

 リエラの前にもクルー・ク・ルーやマリナー・マリナが出現するが、彼らが攻撃に移る前に脇を通りぬけて行くリエラたちを、彼らはただ呆然と見送るだけだ。


 魔物に構ってる暇などリエラたちには無かった。

 ただ逃げる。ひたすらに逃げる。知り合いに出会う事を信じて必死に……

 リエラたちが逃げたせいで攻撃の機会を失った魔物たちはオーギュストたちに襲い掛かり、結果リエラ達を救う一助になっていた。


 それでも、アメリスの体力が無くなり、リエラも所詮は新人に毛が生えた程度なので直ぐに息が荒くなる。

 だから、どれ程逃げてもオーギュストたちを引き離せない。

 最後には、歩きながら近づくオーギュストたちにすら距離を開けないでいた。


 大部屋に辿りつくリエラ。

 目の前にはおそらくこの階層のボスだろう。

 艦長を思わせる煙管を吸う男が一人、ドアを守護していた。

 だが、浣腸艦長とはまた違った風貌で、衣服もより水色が際立った艦長服を着ている。


 これ以上先に進むには、ボスを倒して行かねばならない。

 だが、そんな時間も技術もリエラにはなかった。

 オーギュストたちに追われるように部屋の中央に押しやられたリエラとアメリスは、十層ボスとオーギュストたち双方から距離を取るように壁側に向っていく。

 双方から等位置の壁にアメリスを押し込み自分の身体で彼女を背後に隠しておく。


 リエラは神に祈りながら震える腕でミスリルソードを構える。

 ソレに反応して、10層ボス、キャプ点キャプテンが動きだす。

 運のいいことにオーギュスト向けて近づいて行くキャプ点キャプテン。その煙管からピンポイントの赤い点がオーギュストに向って行く。


 オーギュストの額に点が当ったその瞬間、キャプチャ能力が発動し、キャプ点キャプテンの姿がオーギュストへと変化する。

 ソレを見たオーギュストが思わず舌打ちした。


「チッ。コピー能力か。厄介な」


「あら、王子のコピーなら楽に消せますわよ?」


「それはどういう意味だ? まぁいい。なら任せる。俺はリエラをやらせて貰おう」


「はいはい。ちゃんと後で回してね?」


 互いに舌舐めずりをしながら、リアッティはキャプ点キャプテンへ、オーギュストはリエラに向けて近づいて来た。

 思わずリエラは生唾を飲み込む。

 ここで、オーギュストに負ける訳にはいかない。

 でも……自分は勝てるのだろうか?

 勝てる気すらしない。おそらく彼の実力はカインには劣るがリエラなど軽く捻る事が出来るだろう。

 

「さぁてリエラ。楽しもうかぁ? ダンジョンでヤッちまうのも結構オツだよなぁ?」


 下卑た笑みを見せながら、オーギュストがリエラに剣を向ける。

 リエラの間合いに入ったオーギュストが無防備に手を伸ばしたその刹那、リエラは無言でアッパースイングを繰り出した。


 絶妙のタイミング……そのはずだった。

 すっと身体を逸らして剣撃を避けたオーギュストがリエラの腕を掴み、捻る。

 それだけで、リエラの腕は痛みで剣を取り落とす。


「そら、武器はもうねぇぜ?」


 左腕が空いてる。

 咄嗟に懐に忍ばせていたゴールドダガーを……

 短剣の柄に手を当てた瞬間、その柄頭を剣の柄頭で抑え込むオーギュスト。

 両腕を封じられたリエラが悔しげに睨む。


 その睨み顔すら、オーギュストにとっては楽しみにしかならなかった。

 既に助けが来る心配はない。ボス戦中は他のメンバーが部屋に入ることはできないのだ。それがダンジョンの決まり事である。


 例えボスを倒したとしても、落とし穴に落としてやったのだ。ここに来るまではもうしばらくかかるだろう。

 時間はないがリエラを手籠にするだけの時間は充分にある。

 焦らずゆっくり、堕として行けばいい。

 まずは唇を……オーギュストが顔を近づけたその瞬間、リエラの胸元から何かが飛び出しオーギュストの顔に張り付いた。


 驚くオーギュストが慌てて仰け反り、張り付いた何かを引き離す。

 地面にべチャリと落下したそいつは、体内に忍ばせたアルセソードを取り出し構える。

 スライムの様な生物が、剣を携えオーギュストに対峙していた。


 まるでリエラを守る守護騎士にすら見えるそのスライムに、オーギュストは思わず怒気を発する。

 葛餅だ。

 葛餅という名のいけすかない魔物。全試験をトップで合格したとされる魔物冒険者。

 ついさっきまでリエラの胸元に潜み、リエラを影ながら護衛していたのである。


「はい楽勝♪」


 リアッティがキャプ点キャプテンを倒したらしい。

 楽しげに告げる彼女にいらだちを覚えつつ、オーギュストは声を張る。


「仕方ねぇ。リアッティ、初モノは譲ってやる。リエラを犯しやすいように下準備しとけ」


「あら? いいの? 精神壊してしまうかもしれないわよ?」


「こいつの相手が出来るなら任せるがな、ちぃと、厄介そうだぞこのスライム!」


 オーギュストは既に葛餅の実力をなんとなく察していた。自分がやらなければ絶対に打ち勝つことは出来ないだろう強敵だ。

 リアッティもそれに気付いてリエラ攻略へと向かって行く。

 そんな彼女に、突如虚空から炎の連弾が襲いかかった。

 リエラの護衛、その最後の一人が、ついに動き出したのだった。

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