表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 そのダンジョンで起きた悲劇を僕は知らない
403/1818

AE(アナザーエピソード)その少女たちの逃走劇を僕は知らない

 リエラは呆然としていた。

 突然オーギュストが足を踏みしめたと思ったその瞬間、周囲から突然床が消え去った。

 カインたちが消える。突如パルティエディアに走り寄るアルセ。

 どう見てもそっちに透明人間が行ったことは確実だった。

 部屋の入り口から中央を通り逆方向の出口までの一直線。そこ以外全てが落とし穴となり落下して行ったのだ。つまり、今、ここにいるのはリエラとアメリスとにっちゃうたち。そしてアカネしかいなかった。


 呆然としている内にジーン、リアッティ、アンディが出口側を塞いでしまう。

 しまったと思った時には逃げ道は塞がってしまっていた。

 アメリスが不安げにリエラの背に隠れる。


 胃が痛い。

 今回は透明人間さんという切り札が無いのだ。

 しかも、目の前の男はニタニタと趣味の悪い笑みを浮かべている。


「いやぁ、ついつい罠を踏んでしまったらしい」


「皆さん大丈夫でしょうかねー」


「ここで待ってても仕方ない。戻って皆を待つべきだと思うけど? どうする?」


 オーギュストが悪意に満ちた笑みを浮かべて告げる。リアッティの悪意塗れの言葉にアンディ以外が笑い、オーギュストが入口に向うべきだと提案して来た。

 思わずアメリスを背にして彼から距離を取っていた。

 アメリスも何かを察したのだろう。不安げににっちゃんをぎゅっと抱きしめる。


 止めろ御主人。手を放せ、あの不埒モノ共消し去ってくれる。

 そんな言葉を吐きながら暴れるようなにっちゃん。

 警戒するようにリエラの傍に寄って行くにっくん。


「おっと、そういえば……チャーム・アイ!」


 ふいに、オーギュストがリエラに真剣な瞳を向けて来た。

 一瞬、全身を包み込む不快感。

 なんだ? と思ったが何も変化はなかった。


「ふふ。これでリエラの抵抗はない。アメリス嬢とにっちゃう共にも魅了の魔眼を掛ければあとは勝手に付いて来てくれるしな」


 無防備に近づいてくるオーギュスト。

 リエラを脇に避けてアメリスにチャーム・アイを掛けようとした時だった。


「アッパースイング!」


 ミスリルソードを引き抜き思い切りカチ上げる。

 まさか魅了に掛かったはずのリエラから攻撃が来るとは思っていなかったのだろう。

 オーギュストは直撃を受けて真上に撥ね飛ばされる。


「ながぁっ!? バカなっ!」


「不沈撃不沈撃不沈撃不沈撃不沈撃! ストライクバスター!!」


 自分がニセモノにされて敗北した連撃を、リエラは忠実に再現していた。

 まるであの時の偽物の気分になったように、思い切りオーギュストを地面に叩き付ける。

 そしてアメリスの腕を引っ張り洞窟の奥へと走りだす。


 こうなったら洞窟の深部に向ってカインやネッテ、そして透明人間と合流するしかない。あの四人を一人で相手するよりも確実だ。

 走るリエラの胸元で、魅了封じの首飾りがちゃらちゃらと揺れる。

 思わず、リエラは今は居ない誰かに感謝した。

 きっと、これの御蔭だ。

 もしもこれが無かったら……いや、そんなもしもの未来など考える必要も無い。


 リエラは歯を食いしばり必死に走る。

 オーギュストは見えなかったが、他の三人が駆けて来るのが分かった。

 後ろを振り向けば、目視確認できる位置にいる三人が徐々に近づいて来ている。

 リエラがアメリスの手をひっぱりながら走っているため、彼らの速度に負けてしまっているのだ。

 かといってこれ以上速度はあげられない。

 アメリスに躓かれても時間のロスだ。


 直ぐに捕まる。それを気付きながらも止まれない。

 誰か、誰か助けて。透明人間さん。カインさん、ネッテさん、ジェーンさんっ。

 ジェーン?

 ふと、気付いた。

 ジェーンは確か自分と一緒にいたはずだ。

 落とし穴には落ちていなかった。


 しかし、今は姿を見ていない。

 どこに行ったのか、気付いた時には姿が見えなかった。

 まぁ、彼女についてはどうでもいい。とにかく今はアメリスと共に逃げるしかないのだ。


 けれど、やはり彼女の体力では直ぐに限界がやってきた。

 既に後ろまで追っ手が迫る。

 いつの間にかオーギュストまで追い付いていた。

 そのオーギュストの速度が速い。

 三人を追いぬきアメリスの背後へと迫る。


「リエラァッ! 大人しく俺の奴隷になりやがれッ!!」


 誰がッ! 思わず叫びたくなるが、それで消耗する体力すら今は惜しい。

 オーギュストの腕がアメリスの首根っこを掴む、その刹那。


「にっ!」


 にっくんが渾身の体当たりをぶちかました。


「チッ! 邪魔すんじゃねぇ!!」


 にっくんを思い切り蹴りつけるオーギュスト。

 ゴムまりのように跳ね飛ばされたにっくんが洞窟の暗闇へと消えて行った。

 ソレを見たにっちゃんが暴れ回り、アメリスの拘束をついに脱出する。


「なんっ!? ここでにっちゃう・つう゛ぁいかよ!」


 思わず立ち止まるオーギュスト達。

 にっちゃんの御蔭で助かったリエラたちだが、直ぐにオーギュスト達が追って来た。

 にっちゃんの牽制役にアンディを残してきたようだ。


「ちっ。あのにっちゃうまだ抗う気か!?」


「オーギュスト、リアッティ、あの二人を捕らえてくれよ。アメリスは俺んだからな! にっちゃう程度俺が踏み潰してやる!」


 ジーンが残り、戻ってきたにっくんと対峙する。にっちゃう相手だと圧倒的強者の瞳で彼を見下すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ