その植物の名を誰も知らない
「なんとか合流できたわねカイン」
「ああ。まさか増えてるとは思わなかったがな」
ミクロンのことだろう。
彼はこの際だからと氷の彫刻と化したティアラザウルスを色々な角度から調べている。
しばらくはあのままこの場所を動かないだろう。
まぁ、魔物も異変を察知してこの付近から遠ざかったようなので、しばらくは安全だろう。
コ・ルラリカ凄いな。
ネッテが扱う魔法より凄いんじゃないか?
ネッテも僕の意見には賛成らしい。
よっぽど高位の魔術師が込めた魔法だったのね。とか一人納得していた。
そして銃弾を放ったリエラはというと、まだ自分が行ったことを理解できていないようだ。
氷の彫刻を見上げて綺麗……とかどうでもいいことを遠い目をして呟いていた。
うん。しばらくは放置しておくか。
アルセもバズ・オークと氷を見て楽しんでるみたいなので、しばらくはしたい様にさせることにした。
僕はただただ見学である。
しばらく待っているとネッテとカインが次の目的地を決め始めた。
こちらに向おう、あちらがいい。など二人の意見が食い違う。
さすがに険悪ムードになることはなかったが、かなりの意見の対立があった。
それでも、次第に向う場所が纏まって行く。
やがて一旦の休憩を終え、僕たちは歩きだした。
何度か休憩を挟む。
どうもカインが合流してから魔物に出会う率が増えた。
といっても凶悪なものはヘルピングペッカーが単体で出現した程度で、それもカインとバズ・オークの二人が揃えばなんなく倒せた。
一人だけだと相手も注意が行くため避けられるが、二対一なら注意散漫の鳥一匹倒すのは訳無いようだ。
約一時間程の行軍でヘルピングペッカーは三匹、アローシザーズが一匹、エンテ二匹、ウッドウルフとウッドウルフリーダー合わせて十匹。
敵の襲撃としては少なめらしいけれど、ウッドウルフに囲まれた時は正直誰か死ぬと思った。
特にリエラかミクロンあたり。
ミクロンなど無防備にウッドウルフリーダーに近寄り前から横から確認して絵に仕上げて行くのだからウッドウルフリーダーも意味が理解できずに怖がっていた。
あれ、絶対噛みつかれると思ったのに。
ちなみに、ウッドウルフは体毛が葉っぱの狼で、ミクロンの話では木の上に登ったりして日の光で光合成する生物らしい。草食動物でもなく肉食動物でもない植物の部類なので、本来人を襲う必要はないらしいが、魔物である以上人を殺そうとはしてくるらしい。
ミクロンの行動に戸惑っているウッドウルフリーダーが他のウッドウルフに指示を出せていないのをいいことに、ネッテが魔法を唱えて殲滅した。
ナイス囮役である。
魔法がウッドウルフたちに襲い掛かった瞬間、ミクロンがまだ研究の途中なのにぃっ。とか情けない声を出していたが、ネッテは容赦なく彼らを斬り裂いていた。
風の魔法で一網打尽である。
ちなみに、エンテとの戦いではカインに指示されながらリエラも戦いに参加した。
おっかなびっくり戦う彼女は、ようやく実戦を初体験と言ったところだろう。
初めて倒したエンテに、もう、感涙を通り越して自分が魔物を倒した事すら理解できていなかった。
なにせ剣がアルセソードなので相手を斬った感覚ないし、指示されるまま動いて気付いたら相手が死んでた。というなんとも経験になりそうにない勝利だった。
ただ、多少なりとも彼女にとっては経験になったようだ。
エンテを倒してからは相手の攻撃範囲ぎりぎりのところで戦闘に参加していた。
主に囮役として。
カインに言わせれば敵の攻撃を避ける訓練だそうだけど、一度エンテを倒してやる気になったリエラは不満顔である。
それでも回避するだけでも結構動くので、疲れ気味のリエラは何度か避け損ねで浅い傷を作っていた。
回復魔法が無いので薬草を擦り込むだけの簡単な応急処理を済ませ、歩いていた一行は、ついに、そこへ辿り着いた。
それを見つけたのは、ミクロンが初めだった。
思わず夢見る少年の様に目を輝かせ、目標目掛けて駆け出した。
ネッテが慌てて止めるのも聞かず、夢にまで見たアンブロシアの実目掛けて走り出したのである。
いや、まさか本当にあるとは思わなかったよ、りんご。
それは巨大な植物に生えている果実だった。
木ではない。緑色の茎を持つ木のように巨大な植物。しかも自走式。
いきなり近づいてくるミクロンに反応し、無数の蔦がうねりながら持ち上がる。
なんだろう、イカの触手の一つのように鏃みたいに先端がひし形になっている。
そんな蔦の一つが物凄い速度でミクロンに襲い掛かった。
「ほぶぁっ」
蔦に殴られたミクロンが僕たちの目の前を真横に飛んで行く。
木の幹に激突して沈黙した。
あまりの衝撃的な出来事に僕たちは誰も動くことなく見守ってしまった。
はっと我に気付いたカインとバズ・オークが剣を構える。
ネッテは急いでミクロンに駆け寄り、さすがに恐怖に飲まれて震えだすリエラの横でアルセが木の枝持って踊りだした。




