その貴族たちの悪だくみを彼女は知らない
「やぁアメリスさん」
お昼休みのことだった。
ジーンがニセ勇者パーティーと共にやってきた。
レックスのハーレムパーティー化しているこのパーティに割入るとか結構勇気あるねジーン君。
チグサとケトルがムッとした顔をしていたが、彼女たちは王子を止める程の理由が無いので押し黙って聞いている。
何しろ彼女たちがやるべきことはただアメリスの返事を聞く事だけなのだ。
彼女本人が嫌がらなければ他人が断るのは筋違いなのである。
それにただ会いに来ただけの王族を無碍に追い返すというのもおかしな話だしね。
「あら、ジーン様。何か御用ですの?」
「ああ、前回の休みに北の山に一緒に向おうと思ったのだけどね。妹たちに邪魔されてしまったのさ。良ければ次の休み、俺達とパーティーを組まないかい? 洞窟に向おうと思うんだ。ぜひ、一緒にパーティーを組んでほしい」
「パーティーですの? 他の皆さんも一緒ならば、別に問題はありませんが?」
ええ!? 皆を巻きこんじゃうの!? いや、それはそれでフォローできていいけどさ……
「ま、まぁ問題は無いか。行くのはサファリ洞く……」
「サファリ洞窟だけは止めとけDレックス!」
ジーンの声を遮るように、二人の男が乱入して来た。
「ランドリック、フィックサス?」
「俺ら昨日そこに向ったんだ。あそこは悪夢の洞窟だ。特に、いや絶対に女性と一緒に行っちゃダメだ、男でもトラウマ増産施設だぞ!」
「俺らと一緒にマーキスって奴が一緒だったんだけどな、あいつ無理に奥まで向って……まだ帰って来て無いんだ。多分中層に向ったんだと思う。ニコポナデポにやられた可能性が高いって。それにボノーの被害が……」
またボノーですか。
「とにかく、あそこは学生時代に向うような場所じゃねぇ。絶対に行くな。綺麗な体でいたいなら絶対だ」
そう言って去って行くランドリック君とフィックサス君。その二人の向う先には二人の女の子が席に座り食事をしている。
快く迎え入れられているところを見るに彼女か何かだろうか? なんやかんや言いながらリア充じゃねぇか。爆死してしまえ。
「……」
「……」
「……兄さん?」
「な、なんだよ?」
「そんな危険な場所に連れ込んで何をするつもりだったのかしら? ジーン王子?」
ケトルとチグサの冷たい視線を受け、ジーンが呻く。一歩後退さったのは気のせいじゃないだろう。
「あー、悪い悪い。俺らはただ適当な洞窟を選んだだけなんだ。まさかそんな危険な場所だったとは思わなかった。別の洞窟でどうかな? カイヘイ洞窟なら結構昔から新人向きって噂があるし。簡易の罠もいくつかあるけど、そこまで危険な物は無いからさ。……滅多にね。」
「ね、リエラさんも行きましょうよ」
えっと、誰だっけ。
確かニセ勇者っぽいのがオーギュスト・デン・トルーミングで、その背後に居るのがテリーだっけ? ん? 弟の方だっけ?
それで今リエラに話しかけ、なぜか舌舐めずりした女性がリアッティさん。
お姉様、欲望が隠せておりませんよ? リエラが己の危機を感じて苦笑いしております。
「カイヘイ洞窟なら問題はなさそうですわね。リエラさん、行きません?」
アメリスも彼らの悪意には全く気付かずリエラを誘う。ああ、リエラの逃げ道が塞がった。
凄く胃に負担が来ているらしい。可哀想に。
皆に気付かれないように状態回復魔法弾を自分に打ち込んでいる。
「うぅ。そうですね……カインさんとネッテさんが一緒でしたら」
「そうですわね。あの二人が居れば大抵安心出来ますわ。ということですが、よろしいですかジーン様?」
「あ、ああ。大人数になるが、まぁ良いだろう」
どうする? みたいな相談を四人でしていたジーンたちだったが、問題は無いだろう。とのことでカインたちも参加が決まった。
本人の了承ないんだけど、いいのかね。まぁあの二人なら普通にオッケー出しそうだけどさ。
ああ、そう言えば。カインがメリエが居ないとか出がけに叫んでたな。メリエさん結局見つかったんだろうか?
カインに惚れてパーティーに入ったんだから彼女にとってはカインとネッテが付き合う事になったみたいな状況は辛いだろうなぁ。
もしかして……いや、考えるのは止そう。アメリス別邸に戻れば分かることだ。
ジーンたちが去って行く。
どうやら次の休みも冒険に決まったらしい。
アルセも冒険は好きらしい。楽しそうに頭上の花が踊ってます。
「よかったので? 主たちよ。アレらは腹に一物抱えているぞ?」
「わかっています。アメリスさんにもリエラさんにも指一本触れさせはしません。勇者の名に掛けて」
チグサの誓いにパルティが自分は? みたいな顔をしているけど、多分対象外だよパルティ。
君は僕が守っておくさ。なんちゃって。




