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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その森の秘密を彼らは知らない
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その魔弾の威力を彼女は知らなかった

「随分、奥まで来ましたね」


 ミクロンがメガネを直しながらぽつりと漏らした。

 その額からは汗が噴き出ている。

 やはり鬱蒼と茂る森を歩き続けるのは辛いようだ。


 なにせミクロンはまさにもやしっ子を絵にかいたような線の細さ。

 運動など全くやっていませんと身体全体で語っているような男である。

 せっかくの迷彩も汗の臭いでもはや意味はない。


 今のところ魔獣は襲って来てはいないが、何時襲ってくるかと神経をすり減らすだけでもかなりな負担がある。

 とくに新人であるリエラはもはや限界に近い。

 もう少し休ませた方がいいのだろうが、ネッテも索敵に集中しているせいで気付けていない。


 ミクロンにその辺りの気遣いを期待するのも酷だろう。

 後はバズ・オークだが、残念ながら彼も人間に気遣う余裕はない。

 むしろ肩車したアルセに意識を向けることに精一杯だ。

 当のアルセはバズ・オークの上で楽しそうに木の枝を振りまわしている。

 全くの無警戒なのでバズ・オークが念入りに索敵に気を使っている。


 つまり、誰もリエラがヤバいことに気付いていない。

 多分だけど、熱中症になりかけてる気がする。

 こういう時は塩と水を飲ませるのがいいんだろうけど、ここにはないからなぁ。

 一応なんかの内臓で造ってるらしい水筒はあるのでそれを飲ませるように……ああ、でもアルセを自由に使えないのが痛い。せめてバズ・オークから離れてくれればいいのだが……


 そんな状況でしばらく歩いていた時だった。

 不意に、バズ・オークが立ち止まりアルセを降ろす。

 ネッテも杖を構えて呪文を唱え始めた。

 どうやら敵が近くにいるらしい。


 チャンス! とばかりに僕はアルセを掴み上げリエラのもとへ。

 意識朦朧といった様子のリエラからアルセの手を使って水筒を奪い取ると、アルセに飲ませた。

 しばらく気付いていなかったリエラだったが、アルセが水筒から口を離した時の水の音でこちらに気付いた。

 そこへタイミング良くアルセが水筒を渡すように操作する。


「え? 飲むの?」


 ニコリとほほ笑むアルセ。

 差しだされるままに水筒を受け取ったリエラは少し迷って水を飲む。

 かなり飲む。余程喉が渇いていたようだ。


「ふは。あ……しまった。こんなに飲んじゃった……」


 まぁ、水を補給出来たせいで意識が少し覚醒できたようだ。

 水が減りすぎたのは、後でネッテから分けて貰えばいいだろう。

 それより、出来れば塩分が薄まっているので塩をだねリエラ君。


「ありがとアルセ。ちょっと落ち着いたわ」


 と、軽くアルセの頭を撫でるリエラ。

 アルセは理解できずにこてん。と首を傾げる。

 その瞬間、そいつは現れた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」


「コル……!?」


 絶叫と共に森を駆け抜け突撃してきたのは、カインだった。

 魔法を放とうとしたネッテが思わず言葉を止める。

 遅れて木々をなぎ倒し現れるティラノサウルスモドキ。

 まだ……追われてたんだ。


「ちょ、全員退避ッ!」


 落ち付く暇などなかった。

 慌てるように皆カインと同じ方向に走り出してしまう。

 なんでそっちだよ! と思うがさすがに一人取り残されるわけにはいかないので僕もアルセを抱えて走り出す。


「カインッ! なんでアレ連れて来たのよ!」


「バカ言うなッ、逃げるだけで手一杯っつたろ」


「アレはティアラザウルスですね。巨大で鈍重ながら森の掃除屋と冒険者たちから呼ばれています」


 どこが掃除屋!? 木々なぎ倒してるぞ。どうみても破壊者だろ。

 僕が思わず叫びそうになるが、ツッコミ入れても僕以外には聞こえないと思い出して踏みとどまる。


「クソ、なんとか出来ないかネッテ、アレの足止めだけでもいい」


「ついさっき素敵な魔法を唱えてたのにどっかの誰かさんが現れたからキャンセルしちゃったわよ!」


 暗にカインに向けて放ちそうになった魔法をキャンセルしたと告げるネッテ。

 しかし次の瞬間、思い出した。


「魔導銃! リエラ、魔導銃でコ・ルラリカ弾!」


 言われたリエラはあっ。と思いだし、銃弾を取りだす。

 ちゃんと分かりやすく弾頭が青にペインティングされているので彼女にもすぐに見分けがついた。

 ちなみに、クリア・オールは白、キュアラ・オールは黄色に着色されている。


 若干もたついたがなんとかセットに、振り返り際にリエラが引き金を発射。

 対象物が巨大だったため、多少目標がずれていてもしっかりと直撃してくれた。

 ティアラザウルスのドテッ腹に突き刺さった弾丸はその内包する氷魔法を発動させる。


 次の瞬間、ティアラザウルスばかりか周囲の森を一気に凍てつかせ、氷の世界が出現していた。

 さすが氷魔法。これはもう数時間は抜け出せないだろう。

 というか……威力高すぎじゃないか、これ?

 走り疲れたのか、自分が扱ったコ・ルラリカ弾の威力に恐れをなしたのか、リエラはぺたんとその場に座り込む。両手に持った魔導銃がカチッと地面に銃口を口付けた。

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