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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その山頂に輝く悪夢の木を僕は知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)その黄金の山がどこから来たのかを彼は知らない

「ちょ、ルルリカ!?」


 その日、北の山山頂へと辿りついたカインたちは、アルセが龍の髭と呼ばれる植物を採取し、ネッテに手渡したことで最悪の結末を迎えようとしていた。

 龍の髭目的だったルルリカは、気絶から気付いた瞬間ネッテの手に持つソレを見付けてしまった。


 未だ混乱中だったのだろう。深く考えることなくネッテから龍の髭をひったくり走りだしていた。

 いきなり強引に盗まれたネッテが追って行く。

 なぜだろう? その時カインは全身を嫌な予感が掛けめくっていた。


 今朝見た夢を思い出すように、何かに突き動かされるようにネッテの後を追っていた。

 まるでそうしなければ後悔してしまうというように。


「ちょっとルルリカさん、いきなり何するの!」


 たび重なるルルリカの迷惑行為に、さすがのネッテもキレる寸前。

 彼女の立つ場所が崖の一歩手前ということに意識が行っていないらしく、近寄ると同時に揉み合うように龍の髭を奪い合う。


「わ、私はこれが欲しいんです。譲ってください!」


 カインがようやく何が起こってもフォローできる位置まで辿りつく。

 若干の呆れが見えるのは、ルルリカの暴走に彼も呆れているからだろう。


「いきなり奪っておいてそれはないんじゃ、ないのっ!」


 力を入れて引っ張るネッテ。ふざけるなとばかりに引っ張り返すルルリカ。

 思わず止めに入ろうかと思ったカインだが、どうやって仲裁するのかと両手を前に出したところで思い直して戸惑ってしまう。


「成り上がるのよ私は! 私をバカにする村の奴らがうらやむ女になるの! 王子に見染められて、金持ちになって、皆見下してやるわ! この草も私の役に立てるのよ!」


 カインは思った。こいつ、あの勇者の女版だ。と。

 ネッテもつくづく人運がない。可哀想にと思いながら、フォローすべくゆっくりと近づいて行く。


「そんな理由で譲れるわけないでしょ!」


 ネッテが再び龍の髭を手にする。お前になどやるものかといった必死さが顔に出ていた。


「全て奪うわ。ランス王子もこの草も、王国も!」


 危機迫る表情でネッテに突撃するルルリカ。必死に龍の髭を奪おうと動く。

 崖に近づいたり遠のいたり、足元が危うい。


「あなた、ランスを愛してたんじゃないの!?」


「愛? 愛されてはいますよ私は。私、愛するより愛されたい派なんですよ。男を好きになったことなんて一度だって無いんだもの!」


「なんて奴、ランスが哀れだわっ」


「そんな王子に捨てられる王女も哀れですよね! 何もかも搾取されてください王女様ぁッ!!」


 ばっと、龍の髭を奪い取るルルリカ。

 どうだっ。とばかりに悪意ある笑みをネッテに向ける。

 カインはその光景を狐につままれたように呆然と見つめていた。

 遠く離れたランス王子が叫んだ「ルルリカ――――ッ!!」という声で我に返る。

 呆然としてる暇は無い。


 カインが走りだすのと、落下を始めたルルリカの腕を掴み取り、一気に引き上げたネッテが代わりに崖に消えていくのは同時だった。

 気が付けば、自分の口からネッテ!? と声が漏れていた。


 唐突な出来事、何故こんな事になっているのか理解できない。

 だが、理不尽だが起こってしまった事実に、カインは必死に手を伸ばす。

 崖から飛び降り、ネッテを掴まんとありったけ手を前へと差し出した。


 けれど、自由落下を始めたネッテに届かない。

 地面に引かれて行くネッテが後を追って来たカインに気付いて手を伸ばす。

 互いに求めあうような二人は、しかしあの夢のように届かない。


 ネッテが手の届かない場所へ消えていく。

 こんなの嘘だ。嘘だと言ってくれ!

 カインは神を呪った。なんでこんな事になると。

 そして祈った。神よネッテを助けてくれと。

 なぜもっとネッテの傍に居なかったと自分に対する怒りが生まれた。


「届け! 届いてくれッ!!」


 空気抵抗で目を開けるのが辛い。それでももっとスピードよ出ろとばかりにカインは口にした。

 しかし、無情なるかな、彼の願いは聞き届けられない。

 もしも、もしも彼が本当に勇者であったならば、これもただのイベントになっていたのかもしれない。でも……


 悔しがりながらも無理なのかと諦めかけた時だった。

 遥か上空から物凄い速度で飛翔する一匹の熊。

 スカイベアーがネッテを救わんと助っ人に来てくれた。


 希望が芽生える。

 よし、頼む、ネッテを救ってくれ!

 自分が救えなくても、誰かが救ってくれるならっ。


 だが、スカイベアーはネッテを掴んだものの、自由落下の重量に耐えきれず彼女を放してしまった。

 おおいっ、クソ阿呆ッ!

 思わず悪態付いたカインだが、スカイベアーの御蔭もあってネッテとの距離は後少し。

 手を伸ばせば届きそうな、後たった数センチの距離。


 必死に手を伸ばし、ついに掴み取る。

 もう、二度と放すものか。

 カインはしっかりと掴んだネッテを引き寄せ抱き締める。

 せめて、彼女だけは守ろうと、自分を犠牲にしてでも、こいつだけは生かすのだと。


「ステータスブースト! 音速突破! 勇者だろがっ、こんな時くらい奇跡起こしやがれぇっ!!」


 無我夢中だった。身体が光ったような気がしたが、どうでもよかった。

 ただ、ネッテだけは必ず助ける。それ以外、何も考える意味は無い。

 必死に落下の速度を落とそうと、重力に逆らうように空中を蹴りつける。

 ネッテも氷弾を打ち出し、カインがソレを足場に上空へ飛ぶ事で威力を減らそうとする。

 でも、地表は直ぐに近づいて来ていた。


「カイン……もう、いいわ」


「ネッテ?」


「あなただけね。最後まで私に付き合ってくれるのは」


「んなわけねぇだろ。皆待ってんだ。最後まで諦めんなッ」


「私だって……こんなことで死にたくないし、皆ともっと冒険したいわ。でも……カイン」


「なんだよっ、チクショウ、何かないのか、この状況を覆せる何か、何のために勇者になったんだ俺はッ」


「……好きよ」


「ああ、俺も好きだ……よ? は、はぁ!?」


「あのねカイン、このままずっと、一緒に居てくれる?」


「ネッテ、お前……」


 ぎゅっと抱きしめて来るネッテ。小刻みに震える彼女の身体で気付く。

 必死に恐怖を押し隠す彼女の内面に。王族として囚われていたがゆえに伝えることのできなかった恋心に、諦めかけていた、大切な存在に。


 だから、カインは無言で彼女を抱き締める。

 諦めたように二人は見つめ合う。

 そして、笑った。相思相愛だな。両想いなのね私達。同時に呟き、地面に……


 突如、真下に緑色の茂みが現れた。

 え? っと驚く二人に向い、無数の蔦が伸びて来る。

 柔らかくも強靭な蔦に阻まれ、二人の落下速度が一気に低下していく。

 しかし、まだ止まらない。


 蔦では止まらない二人の真下に緑色の群れが出現する。

 唖然とする二人は、逃げる暇すらなくその生い茂ったブロッコリー畑に突っ込んだ。

 ブロッコリーのようなその群れに突っ込んだ二人は、オリーの死骸を砕き、その下に出現していた黄金の金貨達に突っ込んでいく。

 オリーの死体の御蔭で落下のダメージがさらに減少し、柔らかい砂のように積まれた金銀財宝に埋もれる事で固い地表への激突ダメージを逃れることが出来た。

 金貨自体は硬いのでかなりのダメージを受けはしたが、見つめ合った二人は、互いの生存を確かめ合う。


「生き……てる?」


「ふふ。ホントに、こんな私でも助けてくれる人はいるものね」


 何かに気付いたネッテが笑う。

 戸惑うカインにさらに抱き付き、彼の唇にそっと口付けた。 

 「ありがと、カイン」そんな呟きが、カインの耳にずっと残った。

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