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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その山頂に輝く悪夢の木を僕は知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)その勇者の見た夢を僕は知らない

「私が断頭台に掛けられても……助けてくれるのかな?」


 女は泣きそうな笑顔で告げて来た。

 鮮明に覚えている昔の光景に、カインはあ、これは夢か。と一人納得する。

 場面が変わる。


 自分が助けたいと思った女。

 初めて一緒に居れたらと一緒に居たいと思った女がそこに居た。

 極悪な勇者と共に旅立ち、操の危機を迎えていた女。

 身分を隠していた彼女は、カインと出会っていなければ、きっと奴の罠にかかっていたはずだった。


 けど、出会った。

 出会えてしまった。

 出会いは大したものではなかったが、勇者により罠に掛けられると知った時、是が非でも助けたいと思ったのだ。

 だから、持てる全ての力を使い、彼は女を助け出した。

 そのエピソードは、夢には映らない。

 場面はあの月夜の丘。


 泣き腫らした女は勇者から解放されると同時に、ある種の危機を迎えようとしていた。

 それが、冒険者として勇者に敵対したというレッテル。

 つまり、爪弾きである。


 コルッカまで逃げて来た二人は、街にも入れず、街を見下ろせる丘で二人、ただただ座り込んでいた。

 最初は何も言わず、ただ無言で二人寄り添い合う。

 その日はずっと、こう思っていた。

 この女性と二人なら、俺は幸せになれるんだと、こいつを、ネッテを幸せにしてやるんだと。

 思っていたんだ。この時までは。


 まさか……お前は一生、俺が守ると言った次の瞬間、私王族なんだけど。と身分を偽っていた事実を告げられるとは思っていなかったので焦った。

 懐かしいな。そんな思いでカインは夢を見続ける。


 あの後、確かギルドに身分を明かして逆に勇者たちの悪事を暴いたんだっけ。と懐かしがる。

 遠く異国の地で、あの勇者は王族への侮辱罪や不敬罪で捕まり監禁されているのだとか風の噂で聞いた。


「あのねカイン、本当に、私が死にそうになったら……あなたはあの時みたいに助けてくれる?」


 不意に、夢のネッテがそんな言葉を告げて来た。

 記憶にはない言葉だ。

 あれ? と疑問に思ったカインの目の前で、ネッテが立ち上がる。

 おい? どこに行くんだ? 思わず叫ぶが声が出ない。


 夢なのだから仕方ない。そう思うが、ネッテはどこかへ向って走り去って行く。

 何がどうなってるのか分からない。でも、まるで自分には届かないどこかに行ってしまうような、嫌な焦燥感だけが募って行く。


 追いかけないと。

 身体を動かそうとするが、カインの身体は岩のように動かず、ただただネッテが去って行くのを見続ける。

 待て、行くな。行かないでくれ!


「なんちゃって勇者には追う資格なんてないですよ」


 いつの間にか、カインの横にリエラがいた。


「あんな人忘れて一緒に幸せになりましょう?」


 逆の横にはメリエがいて、カインの腕を絡み取る。

 なんだ? これ……?

 遠く、去って行くネッテ。今いるパーティーに拘束され身動きが取れなくなるカイン。

 これは、悪夢なのか? 思わず手を伸ばしネッテの名を呼ぶ。




「ネッテェェェェっ!? ……あ、あれ?」


 そんな叫びから、その日は目覚めたのだった。

 あまりにも衝撃的な夢で完全に覚えてしまっている。

 全身汗だらけのカインは、周囲に皆が居ないことに気付いて安堵する。


 今のは、ある意味恐ろしい夢だった。

 気持ちを落ち付けようとするが、どこか焦燥感が抜けていかない。

 まるで、今のが予知夢だったかのように、嫌な予感だけがこびり付く。

 これは、本格的にメリエのパーティークラッシャーが発動したかな。軽口を思い浮かべながらも全身に悪寒が走る。


 コンコンと、部屋のドアがノックされた。

 そういえば、と周囲を見回すと、ここはアメリス別邸の一室である事に気付く。

 今はパーティー全員がフィラデルフィラル邸に厄介になっていたのだ。

 やたら豪勢なベッドから抜け出すと、ドアを開く。


 メイドさんでも起こしに来たか? と思ったのだが、目の前に居たのはメリエだった。

 噂をしたから影が差した。というわけでもないらしい。

 いつもと違い、どこか真剣な目をした彼女は、カインを見つめ開口一番、「見ましたか?」と告げて来た。


 不思議と、何が? とは言わなかった。

 コクリと頷くと、メリエは部屋へと侵入してくる。

 ドアを閉めたカインがメリエを振り向くと。彼女は真剣な目をしてカインに告げた。


「本日の北山で女性を追ってネッテさんがパーティーから離れる時、手の届く位置に居てください。夢を現実にしないために」


「メリエ?」


「今朝、唐突に脳裏に来たんです。今日、起こるだろう最悪の出来事が。おそらく、カイン様にも影響が出てると思ってこちらに来ました」


 どういう意味かは理解できない。

 でも、カインには確信があった。

 きっと起こる。ネッテに何かが起こってしまう。


「あなたが助けるんです。何が何でも。代わりに誰か・・が致命的な何かを失う事になるでしょうけれど、きっとそれが一番の未来です」


 こういう勘をバカにしてはいけない。意味不明なメリエの言動だが、気違いと退けてはいけない。

 カインは己の勘を信じて、彼女を信頼することにした。

 だから……


 今、遥かなる高みから落下を始めたネッテに、彼は必死に手を伸ばす。

 勇者であるがゆえに、勇者だからこそ、勇者で在りたいがために、その原点を、守りたいと誓った女を、今一度助けるために。

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