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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その山頂に輝く悪夢の木を僕は知りたくなかった
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その空飛ぶ存在を、僕らは知りたくなかった

「アンギャー」


 アンギャートビスが空を飛ぶ。

 その足には小型の魔物を抱えたルルリカ。

 急に地面から放されて驚いている。


 見る間に空高く舞い上がる少女。

 アンギャートビスは獲物を掴むと寝床近くの木に突き刺し保存食にするという習性があるらしい。

 ルルリカ危うし。そう思ったメンバーだが、僕は全然心配しちゃいなかった。


 なぜって?

 だって、ルルリカが手にしている魔物、可愛らしい外見だが、その能力はまさに悪夢。

 名前は、ハイパワースカンク。そう、スカンク。

 外敵に襲われた際、おならをすることで相手を撃退するという。


 しかも、その強烈な悪臭で、下手すれば外敵の方が死ぬというから、悪臭の恐ろしさが良く分かるというものである。

 ただし、これは僕がいた世界のただの・・・スカンクのことである。


 なにせこいつは、ハイパワーなのである。

 そんなスカンクが、突如見知らぬ生物に抱き抱えられ、さらにそいつ諸共空中へと連れ去られれば、もはや危機感は半端ないだろう。


 つまり、こうなる。

 アンギャートビスはルルリカを引っ掴んだ。

 アンギャートビスは空へと舞い上がった。

 ハイパワースカンクは悶絶の放屁を放った。

 会心の一撃。アンギャートビスは気絶した。

 会心の一撃。ルルリカは……


 さらばルルリカ。君の事は忘れない……


 即座に浮力を失い落下を始める三体の生物。

 呆然と魅入るメンバーの中で、初めに動いたのはネッテだった。

 近くに居た葛餅を引っ掴むと走りだす。


「くずもち、お願いっ!」


 ルルリカ向って葛餅を投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた葛餅も何をすべきか理解したらしく、ルルリカの真下に自身を躍らせると、自分を緩衝材としてルルリカを受け止めていた。


 気絶したアンギャートビスが地面に激突して死亡する。

 ハイパワースカンクがマウンテンゴートの群れに墜落、物凄い黄色い煙が空へと舞い上がった。

 ブボンッて言ったよ今……


 バタバタとマウンテンゴートたちが倒れていく。

 盛大な自爆に付き合わされた哀れな山羊たちはそのまま数体が息絶えたようだ。可哀想に。

 そして直撃されたルルリカはというと……


 うわぁ……

 白目剥いて涙と鼻水塗れで痙攣しつつ泡吹いてます。

 怖っ!?


「リエラ、状態異常回復魔弾お願い!」


 自分は回復魔弾を込めた銃を取り出し、二人同時に射出。

 傍から見るとルルリカにトドメ刺してる光景だよね。

 ついでにルグスがなにやら魔術を行使していた。

 ハイパワースカンクの臭いは肺の中に溜まるらしいので風をコントロールして全て吐き出るようにしたのだとか。ついでに服の方にも魔法を使って臭い取りをしていた。


 ルグスは攻撃の命中率は悪いけど他は器用だよね。

 何でそこだけ放置したんだか。

 治療が終わると、ようやく駆け寄って来たランス王子がルルリカを抱きあげる。

 涙を流してルルリカーっと叫んでる姿はまるでルルリカが死亡したみたいな光景なのですが。

 いや、カシャッて。CG激写はなんでこんなの撮ってんの?


「なんとか助かったな。ハイパワースカンクがいたのは不幸中の幸いか」


「カイン、勇者なのに全く役に立ってないわよ」


「ネッテ言うな……最近本当に俺勇者の恩恵感じられなくなってんだよ。二つ名がいつの間にかついてからだ」


 いや、その前から勇者感は殆どなかったよカイン。


「ふふ。でもカインは勇者なんだから、少しは活躍見てみたいな」


「た、偶にはな。ほら、お前助けた時の俺、凄かっただろ? なんつって」


「ええ。素敵だったわ。当時のランス王子よりずっと」


 二人の会話を聞いてむっとするランス王子。

 何かを言おうとしたが、ルルリカが身じろぎしたのでそちらを優先させる。

 リエラは葛餅を抱え上げ、大丈夫だったか確認しているようだ。

 他の面々も周囲を警戒しつつも少し気持ちを落ちつけていた。


 だが、そんな折、奴は来た。

 真っ赤なマントを靡かせて。

 アンギャートビスの群れを割り、邪魔なアンギャートビスを突撃パンチでブチ破り、大空を生身の身体で飛んでいた。


「な、何ですかアレ!?」


「あら、素敵ですわ」


 マント以外の服を一切着ていない四肢を持つ魔物。

 両手を前に出し、寝そべるような姿で空を飛ぶ。

 毛むくじゃらの身体に愛らしい瞳。


「スカイベアーですわね。この山のボスクラスの魔物ですわ」


 アカネの言う通り、空飛ぶ熊がそこに居た。

 しかも普通の熊ではなくぬいぐるみの様な可愛らしい容姿の熊である。

 スカイベアーは周囲を飛び交うアンギャートビスを追い払うと、僕らの前へと腰に手を当てゆっくりと降りて来た。

 威厳を讃え、熊が口を開く。


「くまっ」


 ……熊の鳴き声って、くまっ。だっけ?

 僕らは思わず呆然と彼を見つめてしまったのだった。

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