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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その森の秘密を彼らは知らない
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その一撃の瞬間を彼女は知らない

 ヘルピングペッカーに向けて駆け寄るリエラ。

 さすがにネッテも驚いて慌ててフォローを始める。

 まだ魔法を唱えてなかったために余程慌てたのだろう、杖を取り落としていた。


「やだっ、ちょっ、こんな時にっ」


 焦って拾おうとするが、こういう時はむしろ落ち付かなければさらにもたつく結果になる。

 やはり、ネッテも珍しくあたふたしていて、リエラが接敵するのに間に合いそうになかった。

 リエラの護衛は期待できない。バズ・オークに任せるしかないだろう。


 が、そのバズ・オークは自分を護るだけでも手一杯だった。

 ヘルピングペッカーの嘴による攻撃が予想以上に鋭く速い。

 しかも時折その口から洩れる「タスケテ――――ッ」の声。気が抜ける。


 そんな予断も許せない状況で、ド素人であるリエラの突貫である。

 彼女も恐怖で思考が麻痺しているらしく、無謀な突撃をしつつもきっと自分が守られると信じてやまない顔をしていた。


 当然、焦るネッテも手一杯のバズ・オークも彼女に回す余裕はない。

 となると、リエラはまさに自爆しに行っているといっても過言じゃない。

 ああもう、リエラを守れるの、僕しかいないじゃないかっ。


 リエラはアルセソードを上段に構えて思い切り跳躍。

 「でやあああああっ」とかわざわざ自分の存在を主張しつつ剣を振り降ろそうとした。

 すぐに気付いたヘルピングペッカーがひらりと飛び退く。

 アルセソードが空を切った。


 あれ? といった表情のリエラに向い、一歩踏み込むヘルピングペッカー。

 自身の嘴を大きく開き、リエラを食い殺さんと襲い掛かった。

 好機とばかりにバズ・オークが掬い上げる一撃を放つ。

 しかし、これも片足を上げて三本指でがちりと掴み取るヘルピングペッカー。


「タスケテ――――ッ!」


「い、いやあああああああああああっ!?」


「だぁあああああああっもうっ!」


 大口開いたヘルピングペッカーに悲鳴を上げるリエラ。

 そんなリエラの襟首を掴んで後ろに引っ張る僕。

 一瞬早くリエラを背後に引き飛ばし、手からすっぽ抜けたアルセソードを引っ掴む。


 突然リエラが消え去り空を食いちぎるヘルピングペッカー。

 目の前から消え去ったリエラに意味が分からず首を捻る。

 そんなヘルピングペッカーの真横に走りより、僕は思い切りアルセソードを振り上げた。


「うああああああああああああああっ!」


 気合い一閃、剣道の面打ちで一気に振り下ろす。

 さすがに小学生から習うだけあって形程度なら僕だってできる。

 といっても、お遊び程度にしか覚えてないので実際の剣術には遠く及ばないけれど、その足りない技量は武器が補ってくれた。


 アルセソードは、まるで包丁で豆腐を斬るかの如く、殆ど抵抗なくヘルピングペッカーの首を切り落とす。

 あまりに抵抗がなさすぎて、僕は今本当にヘルピングペッカーを斬ったのかどうか信じられなかった。

 どさりと落下するヘルピングペッカーの首を見て、ようやく剣を取り落とす。


 ……っと、アルセは!?

 思わず一人きりにしてしまったので、僕は慌ててアルセに駆け寄る。

 アルセは僕が居なくなったことに気付いて僕を探すためふらふら歩きだしていたが、僕が触れると、僕に顔を向けてニパリと太陽のような笑みを浮かべた。


「今の……え? え?」


 ようやく迎撃態勢を整えたネッテは見ていなかったらしい。

 気が付けば落下していたヘルピングペッカーの首に目を白黒させていた。

 そんな中、リエラは四つん這いで地面に落ちたアルセソードを掴み取る。


「……今の……そう、なのかな……」


 何か呟いているが、よく分からなかった。

 とりあえず、全員怪我は無いらしい。

 ……あ、そうか。僕は、僕はついに、魔物を倒してしまったんだ。


 初めて、生き物を殺してしまったことに、今さらながら気付いたけれど、手には何の違和感も残っていない。まるで料理でも終えたような気分だ。

 一仕事終えたという気持ちしかなかった。


 これはきっと、アルセソードが切れすぎるからだろう。

 そして、皆を守らなきゃと思う思いのせいだ。

 相手も襲い掛かってくる魔物だったから、殺害に関する忌避感が薄いようだ。


 僕としてはラッキーだったと思うべきだろうか。

 まさか何かを殺しても何とも思わない思考回路だったなんてことはないだろう。

 自分がそんな思考を有していると思いたくはない。


 とにかく、このままこの森で待機を続けるのは得策じゃないことは理解した。

 ヘルピングペッカーは一匹じゃないのだ。数十匹、数百匹とこの森に存在しているはずなのである。

 なら、このままここにいると匂いとかに釣られてこの場所にやってくるかもしれない。


「そろそろ、移動しましょう。カインと合流できればいいけど、このままここにいて魔物に襲われるのも不味いわ」


「……そう、ですね。今の魔物に群れで囲まれたりしたくないですし」


 ネッテの言葉にリエラも同意して立ち上がる。

 僕たちは、移動を再開するのだった。

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