その女が同行者になった真の理由を、彼らは知らない
「コホン。お見苦しいところをお見せしましたわ」
「い、いえ眼福で……いや、まぁ、なんだ。御愁傷様っつかなんつーか」
アメリス邸の客間にやって来た僕らは、アカネを座らせた対面にカインとネッテ、メリエが座り、彼女の来訪理由を聞くことにしていた。
アメリスは今回関係ないということで、明日着るバトルドレスを選びに行っている。
リエラは葛餅と庭にいる。
明日に向けて軽く対戦するそうだ。
ついでにネフティアも参戦しに行っていた。
アルセとのじゃ姫、にっちゃうは僕の直ぐ横に座っている。
床に体育座りです。
その横で同じように座らせられてる不死王がなんとも滑稽過ぎる。
我は何故こんな事をしているのだろう? 不死王が時折そんな事を呟いている。
ふっ。そのままアルセ色に染まりやがれ。
そんな不死王はアルセが笑顔を向けるとむぅっと唸って押し黙る。それの繰り返しだ。
「それで、俺らのパーティーに何か用かジェーンさん」
「アカネで分かるとか言ってたけど、にっちゃうと何か関係が?」
「え? えーっと、そうね。にっちゃうが遅延魔法使ってたからちょっと見てみたくて」
「それで、なぜ裸に?」
ちょ、メリエさん、それ言っちゃダメな奴!
問われたアカネはうぐっと呻いた後、こちらを睨みつけて来る。
お前絶対殺す。そんな視線を受けた僕はアルセの背後に隠れた。
アルセの微笑みガード!
「そ、そんな気分だったのよ。他の人が見てるなんて思わなかったし」
「え? えーっと……」
「メリエさん、察してあげなさい。そういう趣味もあるの」
「ち、ちがっ。断じて違うわネッテさん。私に露出癖なんて全く、これっぽちも毛の先程もありえませんわっ!!」
慌てて全否定するアカネ。そしてこちらを殺意の視線で一瞬射抜く。
視線を向けられたアルセがこてんと首を捻るとくっと呻いたアカネは再びカインに顔を向ける。
「こ、こちらに来ました理由なのですが、にっちゃうに魔法を教える約束を致しましたのよ。なのでこれからしばらくこのパーティーにご厄介させてくださいます? 同行者と思っていただければいいかと思います。戦闘には参加しませんから冒険に出ても取り分は必要ありませんわ」
「いや、別に取り分云々はいいんだが、まるで有名クランから引き抜いたみたいになってないか?」
「ご安心を向こうに話はつけてありますの。しばらく休暇を貰うと言っておきましたわ。フォローが出来なくなりますが、彼女たちは私が居なくとも充分強いのですから」
「まぁ、そりゃそうか」
納得したカインが左右に視線を向ける。
ネッテもメリエも問題はないらしい。
「じゃあさっそく明日に皆で北の山に行くんだけど、一緒に行きます?」
「ええ。御一緒させて頂きますわ。基本手は出しませんし、私のことは空気とでも思って下さいまし」
この人、攻撃に参加すると絶対服脱げるからこんな言い訳しやがったらしい。
一緒に行くけど魔法使わないわよと言外に言っているのだ。
しかし、明日の行軍、予想以上の大人数になったな。
しかもトラブルメーカーだらけだから無事に終わる気がしない。
大丈夫なのかカイン、今のお前にこのメンツを纏め、守るだけの力はあるのかい?
僕は、下手したら助けられないかもしれないよ、おもに露出狂さんの妨害にあって。
……あ。
いや、知らない。僕は知らないよ。
アカネの身体が一瞬光ったけど僕は知らない。
二つ名に恐ろしい文字が付いてるだろうことは僕は知らない。
知らないったら知らないんだよ。二つ名……露出狂とか、付いてないからね。本当だからね。
だからアカネ、自分のステータスは絶対に確認しちゃダメだよ?
「あれ? 今さっきジェーンさん光りませんでした?」
「あ。もしかして二つ名かなにかもらったんじゃねぇか? 俺も一度光ったことあるし」
言いながら、ネッテが図鑑を取り出す。
ダメだ。それを見せちゃダメだネッテさーんっ!!
僕はにっちゃうを連れて扉に近づいておく。
僕だけ逃げるといろいろ問題だからにっちゃうという名の肉の壁だっ。
「あ……」
ネッテがアカネのステータスを見た。一言呟いて固まる彼女に、怪訝な顔で寄って行ったアカネが図鑑をひったくる。
そして、肩を震わせた。
「こんのぉ……」
震えながらも図鑑を投げ捨てるアカネ。その視線は僕に向けられた。
その刹那、僕はドアを開いて逃げ出した。
空飛ぶにっちゃう。それを見たネッテがようやく全てを察したようだ。
「待ちなさいこのエロバグぅぅぅぅ――――ッ!!」
全速力で走り出すアカネ。
廊下に出た僕を鬼の形相で追ってきた。
「訂正しなさいっ。私は露出狂じゃ、な――――い!!」
そう言いながら魔法を行使。空を舞う衣服たち。頭に血が上っているようでアメリス邸に氷の雨を降らしながら全裸少女が追って来る。
そしてしばらく、邸内鬼ごっこが始まったのでした。
次回、奴がでます。




