その休日があったのを、僕は知らなかった
「え? アルセが?」
ボナンザさんの個人指導でにっちゃうがジェーン・ドゥの真似をしだしている横で、やって来たネッテとリエラが会話していた。
「ええ。どうも北の山に行きたいらしいのよね。折角だし、明日の休みにでも一緒に行こうかと思うの」
「明日の休み?」
「あれ? リエラさん知らない? 冒険者学校は三日に一度休日があるんです。基本冒険者を目指す人は貴族の三男坊とかか、一攫千金を狙う一般人ですから。お金を稼ぐためにこうやってちょくちょく休日を挟んでるんですよ。この間に仕事をしたり冒険をしたりして日銭を稼いでいくんです」
仕事するのはいいけど三日に一度だと日銭すら稼げない気がするんだけど。
まぁ、その辺りは個人に委ねられてるんだろう。
とにかく、明日が休みということは判明しました。
「そういえばチグサ様に暗号でしたか? あれをアルセちゃん書いてましたよね?」
「あ~、そういえば」
「じゃああのお二人も誘っておきましょう。彼女達も一緒に連れて行きたいってアルセちゃんの意思かもしれませんし」
パルティさんや、それは完全な勘違いですよ?
なにせただはじめましてって書いた紙をよくわからない訳し方して勝手に解釈しただけだし。
何の因果か北の山に行けみたいな台詞だったけどさ、なんだろうね、こう、悪意を感じるよ。
どっかの神様がちょっとちょっかい掛けて来てるんじゃないですかね。ねぇ神様?
「にしても……なんか凄いことしてるわね、にっちゃう」
「はい。なんかメキメキ実力つけてます。ちょっと、羨ましいな」
リエラは自分の成長があまりないからね。目に見える変化じゃないけどちゃんと強くなってるのは分かってるよ?
ほら、うっすらとだけど剣に雷魔法かかってる感じになってるし。
余程集中した時だけだけど。
「あの、ネッテさんは魔術師なんですか?」
「ええ。そこまで突出してるわけじゃないけど、宮廷魔術師に魔法を習ってるから多少は凄いと自慢できるかな?」
しかもダブルマジック覚えだしたしね。
ただ、折角覚えたのはいいけどもっと効果的っぽい魔法を見せられてネッテもちょっと嫉妬心がでている。
にっちゃうに対抗するように、遅延魔法を唱えていた。
「んー。さすがに一朝一夕には出来ないわね。でも、コツは掴んだわ」
そう言いながら、自分の頭上に発生した氷の玉を見上げる。
一発で成功させたよこの人。
やっぱりこの王女様もちょっとチート入って来てます。
「あ、この遅延魔法、ダブルマジックと組み合わせたら……」
何かを思いついて考え込みだしたネッテ。
その横でパルティがダブルマジック……と同じく考え込み始めた。
ちなみに、レックスは暇を持て余した葛餅と対戦中。なんかどこかの魔物ハンターみたいな状況になってるのが凄い。
葛餅が無数の触手を蠢かせ、その合間を縫って走り寄るレックス。
渾身の一撃が葛餅の触手に持たれた練習用の剣とかち合ってかち合ってかち合って……
うわぁ、よく両方怪我しないなぁ。
アルセとのじゃ姫、そしてネフティアはルグスの周りを手を繋いで輪になって踊っている。
中心に居るルグスが凄い困った顔をしており、時折あげられる全員の手にビクッとなっている。
なんだろうね、まるでUFOでも呼んでいるかのようだ。ベントラーとか聞こえて来そうな踊りです。
「ふぅ」
リエラがもう一度精神統一を終えて息を吐く。
やっぱり少しだけ雷魔法宿ってるね。
「うーん、これでいいのかな?」
不安げに剣を見つめるリエラ。
練習用にボナンザさんから与えられた剣は刃が潰れているボロボロの剣だ。
少し錆た感じもするし、魔法伝導効率とかも悪いんじゃないかな?
とりあえず、進歩してるよ。という意味合いを兼ねて、ぽんと肩を叩いてみる。
「あ、透明人間さん。えーっと、なんですか? 慰められても、その……」
慰めてるわけじゃない。褒めたいんだよ。えーっと、どうしようかな。
ああ、これならどうだ。
僕は良く分かってない顔のリエラに手を伸ばすと、頭を撫でてみる。
普通はアルセやのじゃ姫にするものだけど、褒めてるんだよって意味は伝わるかな?
「ひゃっ。ちょっと透明人間さん? ……うぅ。これ、もしかして褒められてますか私?」
恥ずかしいのか耳まで赤くするリエラ。よかった、伝わったらしい。
「あの、透明人間さんから見て、私も成長できてるってことで、いいんですか?」
リエラの問いに、彼女の背後に回って首をコクリと一度動かしてみる。
自分の首が勝手に頷いたのを確認し、リエラはそうですか。とやや安心したように息を吐いた。
そして、気付く。
じぃっとリエラを見つめる二人の視線に。
慌てて振り向くと、アメリスとにっちゃんが白い目でリエラを見ていた。
まぁ、いきなり一人でブツブツ呟いたり顔赤くしたり頷いたりしたら、気が触れたとしか思えないよね? が、頑張れリエラ。君はちゃんと強くなってるよ。
「あ。あぅあぅあぅ……」
何かを言い訳しようとして言葉が見つからないリエラに半笑いしながら、僕は皆を眺めるのだった。




