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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その山頂に輝く悪夢の木を僕は知りたくなかった
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その料理の名を、僕は知らない

 午後の授業は料理学です。

 クラスメイト達は中庭の一角に集合しております。

 料理なのに外ですか? そうですか。


「はいはい、皆さんこんにちわ。私がこの料理学の担当をします。アルマといいます」


 と、四、五十代のおばさんが先生としてやってきた。

 なんだろう、この優しげな笑みのおばさん、アレだ。普通にシチューとかかき混ぜてそうな気がする。

 外国アニメみたいに突然チーズとかコショウとか取り出して鍋の中見ないでパラッパラと振りかけたり落としたりして、最後に鼻をひくひくさせてうん、いい出来だわ。とか言いそうだ。

 あの独特な動きがなぜか脳内再生されました。


 有名な鼠の話やら人参好きのウサギやらによく見られる動きをしそうなんだけど……僕の期待だけだよね。無理だよね?

 アルマ先生も普通に生きている人間だったようで、そんな奇抜な動きはしなかったけど、脳内妄想だけで十分満足です。


「今日は直ぐに作れる兵糧丸を作成していきます」


 兵糧丸?


「簡単に言うと草を丸めて作った携帯食料です。もう少し栄養の高いモノが市販される兵糧丸なのだけど、今回は冒険中でも手軽に作れる手作りを目指しましょう。作り方は簡単、食べれる草をすり潰して丸めて固める。直ぐに食べられるし、健康にいいし、栄養もあるのよ。といっても素材の中に麻痺草とかあると危険だけど」


 ……授業でやる必要、なくね?

 呆れた顔をする僕には誰も気付かず、皆が真剣な表情で草を毟りだす。

 なぜ皆真剣な顔なのかって? 既に薬草学で経験済みの彼らは知ってるのだ。この中には麻痺草やら毒草が存在していることに、そんなモノを混ぜて作ってしまったら、自分がヤバい。


 幸い、ここは学校なので余程の事がない限り命がけになる事態には陥らないとはいえ、好きこのんで麻痺や毒を体験したいとは思わない彼らは、自分たちの状態異常が掛かっているので真剣なのだ。


 わからず草を摘んでいるのはのじゃ姫とアルセくらいか。

 といってもアルセは既に薬草摘み終えて遊んでる。


「グギャアァァァァァ――――ッ!!」


 って、あああ、ダメだよアルセ、それは抜くなってワグナート先生に言われたでしょ。

 ケタケタ笑いながらアルセがこちらに見せびらかすように掲げる。

 うわ。なんだこれ? 酔っ払って寝込んでるおっさんみたいな顔してるぞ。目の辺りが瓶底メガネ風なのはワザとか?


 って、ああ、コラ、アルセ、それ混ぜちゃだめ。そのすり潰す鉢に入れちゃだめだよ。ああ、ああ、あ~あ。

 折角普通の作れてたのに、ド素人が料理にアクセントをとかいってなんやかんや付け足すアレをアルセが行いだしてます。


 庭の一角に向って変な具合にくねった草を引っこ抜き、笑みを浮かべながらすり鉢で潰して水を使って捏ねていく。

 ぐりぐり潰してぐにぐに混ぜて、ぺたぺたぺたっと丸めていけば、ハイ、兵糧丸~。

 どこかの青狸がポケットから何かを取り出すような声で僕が告げると、アルセは楽しげにその兵糧丸を……ぼーっと周囲を眺めていた不死王様に届けに行った。


「む? 主よ、それは……な、なんだこの危険な感じは!?」


 死者ながらに身の危険を感じた彼は後ずさる。

 そんな彼の背後には、彼の裾を引っ張る一人の少女。

 ネフティアさんが皿を手にしてルグスへと差しだした。

 食えということらしい。


 だが、ルグスはソレを見るなり躊躇した。

 兵糧丸? ソレは兵糧丸と呼べるものだろうか?

 ネフティアさんが作った丸めただけの草のはずだが、蠢いている触手のような何かがウヂァと声を出しているように見えます。


 まるで毛細化した寄○獣。

 どことなく黒いオーラの様なおどろおどろしい何かが立ち上っているように見える。

 そしてネフティアはソレを押しつけるようにルグスにさらに押し込み、グッドマーク。


 むしろ食え。と強制しているようです。

 慌ててうしろを向くルグス。そこにはアルセが笑顔で兵糧丸を掲げている。

 引くも地獄、向うも地獄。


 追い詰められたルグスは周囲に視線を向ける。誰も助けてはくれそうになかった。

 毒が入っているのが確定しているアルセの兵糧丸か、それとも普通の草から作られたはずなのにまるで現世を呪うように呻きを発する兵糧丸を名乗る何かを食すか……


 彼が選んだのは……両方を食べると見せかけ口に含んだ瞬間、火炎魔法で存在ごと焼却処分にすることだった。

 口の中で暴れた高温の炎で火を噴いたように見えたけど、なんとか機転を利かせて乗り切って……


 ネフティアがグッドマークを作って背後から取り出した兵糧丸。

 蓄えは完璧でした。

 アルセも二つ目をこさえていたらしく、嬉しそうに再び差しだす。

 ルグスさん、モテモテですね。僕にはできないですよアレを食べるのは。


 幼女二人からの兵糧丸に似た何かを摂取させられ続けた彼は、ついに魔法のタイミングをずらしてしまい、口内に入ったらしい。

 ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!? と昇天しそうになっていた。

 アルセの兵糧丸

  アルセが遊びで作った兵糧丸。

  一般人には強力な毒薬。一口食べれば意味も無く踊りだし、二口食べれば気絶する。三口食べれば天にも昇る気分を味わえます。


 ネフティアの兵糧丸。

  ネフティアが真剣に作った兵糧丸。

  あまりに真剣に作り過ぎてネフティアの呪いが掛けられている。

  食した人物は呪われる。一週間ほど飢餓状態となり数日のうちに息絶えるという。

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