その魔物の弱さを、彼女は知りたくなかった
ガルー。
それは見た目カンガルーの子供みたいな容姿でした。
二足歩行で飛び跳ねながら移動し、のじゃ姫に向って行く。
「瀕死に追い込んで契約を結ぶのですのじゃ姫様!」
「のじゃ!?」
そ、そうか契約。
と慌ててガルーに視線を向けたのじゃ姫。その目の前に迫っていたガルーがのじゃ姫に体当たりしてきた。
しまった。といった顔ののじゃ姫はまともにくらい……くらい……ガルーの方が衝撃で吹き飛び地面に倒れた。
「ええええええっ!?」
思わず周囲の生徒たちから驚きの声が聞こえる。
そりゃそうだろう。体当たりして自分がダメージ受けているのだから。
しかも、相手は年端もいかない容姿ののじゃ姫である。
つまり、弱い。
このガルーという生物、あまりにも弱い生物だ。
おそらくにっちゃうとタメ張れるくらいに弱いのだろう。
「がるぅー」
めげずに体当たりするガルー。
のじゃ姫は警戒していただけに、肩透かしをくらったような顔をして、自滅するガルーを冷めた目で見つめていた。
そして、勝手に契約が結ばれる。
ガルーと契約したのじゃ姫は、アルセの隣に侍る不死王とガルーを見比べる。
召喚した魔物? はまさに雲泥の差といえるものだ。
「……ふと思ったのだが、我が主よ」
「おー?」
「我が召喚されたのは、学園の授業中のようなのだが……」
「そのとおりですよ不死王。今は召喚学の勉強中。だから言ったでしょう。あなたの召喚は本来あり得なかったのだと。この魔法陣はあのように生徒に害の無い、生徒でも十分対応可能な魔物が出現するようになっていたのです。……いえ、むしろ、だからこそ召喚された? アルセ姫の実力は不死王でも十分従えられると?」
なんか教頭先生の中でアルセの実力が過大評価され始めています。
そして代わりのように落ち込んでいく不死王ルグス。
そりゃまぁ、アルセなら十分勝てるから彼が召喚されたのだとすれば、こんな魔物に敗北すると召喚陣に判断されたと同義なのである。
つまり、雑魚扱いされ、本当に敗北して従者となっているのである。
雑魚扱いを自ら既に証明してしまった。そういうことだ。
うっわ、やるせねぇや。
なんか涙がちょちょぎれるぜぃ。
ルグスの現状に思いを馳せると、なぜだろう。僕の目にも涙が溢れた。
「さて、時間もそろそろ良さそうですね。では今回の召喚学は全員目的の召喚獣を手に入れたということで、魔法陣にて送還を行い終わりましょう」
教頭先生がパンパンと手を二回叩いて注目を集めてからそんな事を言う。
そして送還方法を教えて実戦をさせていく。
アルセは? うん、送還する気ゼロです。
笑顔をルグスに向けたまま、皆の送還が終わるのを待っているようだ。
いや、暇すぎて踊り出した。
ルグスが凄い困ってる。いきなりアルセが踊り出して自分も参加すべきか放置してその場に佇むべきか凄く迷ってる。
のじゃ姫は送還だけはお手の物らしく、ガルーを元の場所へと戻して送還。アルセの元へ向うと、一緒に踊り始めた。
二人の幼女が踊りだし、ますます居づらい雰囲気になるルグスさん。
さぁ、どうする骸骨王。
……あ、踊りやがった。
アルセとのじゃ姫が輪になって踊りだす横で、盆踊りのように一人回りながら踊りだす間抜けな不死王がいた。
すっげぇ恥ずかしそうだ。しかし、己の主が踊っているのに自分がただ立っている訳にはいかないと、とにかく恥ずかしいけど踊ってみました。といった様子である。
見ていた生徒たちがぽかんとした顔で彼を見つめているので、ルグスの羞恥心はもう、天元突破状態です。
そして……
「え、ええい見せモノではないっ! 我を見るなぁっ!!」
大人げなく魔王闘気を発動。
驚き恐れだす生徒たち。
アルセが踊りを止めて彼の元へ歩み寄ると、その足に向って、蹴り。
べしっとあまり痛くは無さそうだが、浮き上がっていた骨の足に直撃され、ルグスは慌てて平謝り。アルセの不興を買えば契約上、彼にとって不利になる。
何せ、アルセが何か命じればそれを確実に遂行しなければならないのだから。
威圧が即座に解かれ、ついでにそのまま召喚学の授業が解散となった。
ちなみに、次の時間も教頭は召喚学をするのだが、残る生徒は皆無だった。
おそらく皆一時間ごとに別授業を取ってるのだろう。
教頭先生も二時間目も同じく、召喚と送還を行うだけと言っていたので、二時間連続で召喚学に出る意味はないだろう。
さぁ、次はアルセだけリーダー学だ。
のじゃ姫がサバイバル術に向うのを見届け、アルセは一人、というか、僕とルグスを連れ立ちリーダー学の授業がやっている教室へと向って行く。
ここではリーダーとしての資質と心得、そして何を行うべきかを教えてくれるようだ。
普通の冒険者よりも大変らしいんだけど、アルセ、本当にここ行くの?




