その設営の隅で湧き上がる悪意を、彼は知らない
冒険学の授業です。
本日も教室は使いません。
校庭に集合した僕らの授業を受け持つのは、オルステイン・ワグナート先生。
そう、担任の先生だ。
「んじゃ、冒険学を始める。この授業は冒険に関する基礎知識を叩き込むのが主な役目だ。サバイバル術の授業でもやった野営設置とかフィールド探査の基礎、ダンジョン内でのあれこれなどいろいろと教えていく。一回目の授業でもあることだし、今日は簡単に野営の仕方の基礎を教える。そこにテント資材を用意したので各員四人一組に分かれて設営に取りかかれ」
え? やってみせたりしないんですか先生!?
資材だけ用意してあとは自分たちでとか、困るんだけど!?
貴族連中は慌てたようにパーティーを解散して別の人材を求め出す。
貴族だらけのパーティーでは設営できる者など皆無だからだ。
「アルセは私と一緒でよろしくて? 私役には立てませんわよ?」
と、にっちゃんを抱えたアメリスが寄ってくる。
アルセはこてんと首を傾げてみせた。
意味が分かってないようです。
が、次の瞬間にぱっと笑ってアメリスの手を取ると、ワルツを踊る様に回りだす。
「あ、あら? なんですの?」
戸惑いながらされるがままのアメリス。
解放されたにっちゃんがようやく地面に足が付いた。とやれやれといった顔で身体を伸ばしている。
やはり抱きしめられたままというのは窮屈のようです。
「アメリス様、私達もこのまま一緒で構いませんか?」
「まぁ、テント設営くらいなら俺だけでもなんとかできそうだし」
「レックス最大の見せ場ね。これ以降ないんだからしっかりアピールしなさい」
「俺の見せ場少なくないパルティエディアさん?」
「これでも十分譲歩してるのよ。頑張れ」
にべもない。でもレックス。僕はパルティさんの味方です。
可愛い子は正義。依怙贔屓万歳です。
「まぁ、いいか。とりあえず俺らはこの四人で確定か」
と、資材を取りに向うレックス。
やる事が無いのでパルティは未だに踊る二人をにっちゃんと二人で見ることにしたらしい。
その間に僕は別のメンバーに視線を向ける。
「ネフティア隊長、資材搬入終わりました!」
「隊長、設営箇所確保です」
「隊長、次のご指示を、え? 一緒に設営ですか。そうですね。皆がテント設営覚えないとですね」
なんか、いつの間にかネフティアに三人の部下が出来てます。
一体何があったの? その男女は何故ネフティアを隊長と崇めてるの!?
一人の男がテントの作り方を説明し、頷くネフティアが作業を指で指示、そして自らも動き出す。
将軍だ。将軍がいる!?
のじゃ姫は……とみれば、こちらは貴族三人と組んでテントを……
待て、そこの侍ども、お前らがやってどうする!?
貴族の三人も凄いと褒めちぎるだけで手伝おうとはしていない。
のじゃ姫、パーティーはよく選ぼう。君は今利用されてるよ。
無い胸張ってのじゃぁとか言ってる場合じゃないよ!
葛餅はあぶれて困っていた三人の男女と組んでいた。
彼らはドワーフ少女、乞食の少年、侯爵の娘というなんともユニークな面子でした。
ドワーフ少女は髭が生えている少女なので話しかけづらかったのだろう。最初こそ物珍しさで女性からパーティーを組んで貰っていたが、一日が経つと話が合わないということであぶれてしまったらしい。
まぁ、今時の女性が鍛冶云々の話をされても困るだろう。
上手に剣を叩く方法とか、冒険者としてもどうでもいいと思うはずだ。逆にドワーフ少女も今時の話題などについて行けずに苦労したらしい。
なので、一人、同じ余った人と組もうとしていたところ、葛餅がやってきてパーティーを組んで貰ったようだ。
他の二人も似たような理由で、ボロい一張羅の少年や、意図せず他人を見下してしまう言動の少女と仲良くなどしたくないようだ。
もしも魔物組がいなければ、アメリスが彼らのパーティーに加わることになっただろう。
うん、弱そうなパーティー構成だ。にっちゃんが頼りだね。
リエラはチグサパーティーで一緒に唸っている。
テント作りはカインたちがさっさとやってたからね。やり方を多少は教えて貰ってるだろうけど、リエラ自身が設営するのは初めてだろう。
「おい、そこの女、折角俺のパーティーに来たんだ、当然テントなど直ぐ張れるんだろう!」
「兄様、皆で作る。兄様も手伝う」
ケトルに言われるがふざけるなとばかりに鼻を鳴らすジーン君。うん、悪役王族筆頭候補だね。
「見てくださいジーン王子、にっちゃうですらテントを設置しているんですよ? 悔しくありませんか?」
チグサに言われて視線を向けると、そこにはいんてりじぇんすにっちゃうが他のパーティー仲間と共に……ってあいつら例のニセ勇者パーティーじゃん。
おお、凄いぞにっちゃう。普通に協力して設置できてる!?
それを見たジーンがなぜかふるふると顔を真っ赤に震えだしたが、誰も気付きはしなかった。




