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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その会話の内容を、彼らは知らない

 やがて、話し合いが決したようで、バズ・オークを含め十匹程のオークがネッテを先頭に町へと降りる事になった。

 一応、一匹につき根菜一つを携えての下山である。


 今回は争う気がないと伝える為に武具は全て村に置いて来てもらった。

 農村部へ向かうと、驚く町民をネッテたちは集めていく。

 居心地悪そうなバズ・オークたちは、唯一畑の前で立ったままのアルセのもとへ集まり、事の成り行きを見守るしかなかった。

 傍から見るとアルセ護衛部隊と言った感じである。


 うーん、僕が考え付いたことくらい考え付くかと思ったけど、やっぱりネッテは頭いいのかも。

 予想以上の状況になっているようだ。

 僕はアルセの真後ろで彼女の頭を撫でながら、オークたちを流し見た。


 どうにもバズ・オーク以外もある程度の知能があるようで、ぶひぶひと言いながら周囲を見回している。

 言葉が分かればちょっと面白い会話が聞けそうなんだけど、さすがに魔物の言葉は理解できないか。


 そうこうしているうちに、農村部の町人ばかりか、町長までが集まってしまっていた。

 目の前に佇むオークの集団に恐れおののいているのが、見るだけで分かる。


「で、どうすんだネッテ?」


「そうね……まず、盗みの謝罪、済ませよっか」


 と、バズ・オークに視線を送る。

 理解がいったのか、バズ・オークが歩み出る。

 慄く民衆に近づき、手にした根菜を両手で持ち、町長の前に差し出し拝礼する。


「こ、これは一体……」


 民衆は余りの奇行に戸惑いを覚え、ネッテに答えを求める。


「えっと、どうやらここのオークたちは人並みに知能があるみたいなんです」


 民衆がざわめく。

 その間隙を縫って、他のオークたちも手にした根菜を掲げ、頭を下げ始めた。


「彼らは食糧難でこの土地に生える野菜を盗んだらしいんです。ですがそれで自分たちに懸賞金が賭けられていると知って嘆願に来ました」


「嘆願?」


「……ええ。彼らにも暮らしがあります。そのため人間との争いは避けたいそうで、できれば共存の道を探りたいと」


 ネッテの奴……本気か?

 民衆のざわめきが声を増した。


「し、しかし……」


 魔物と共生など前代未聞。とでも言いたそうに町長が戸惑う。


「どうでしょう? 手始めに数匹、町で雇ってみては? 彼らにとって金銭は必要ありませんし、代わりにこの根菜を幾らか渡す事で仕事にすれば盗掘もなくなります」


「さすがに今すぐ決めるわけには……」


 町長の言葉に民衆も頷く。

 オークたちも寝耳に水と、寄り集まってぶひぶひと鳴いていた。




 しばらくその場で会議した結果、とりあえず様子見で雇ってみることに決定。

 ギルドからバズ・オークの討伐依頼が削除された。

 そして……


 そして、なぜかバズ・オークがアルセの仲間になっていた。

 街道を進みながら、僕はアルセと手を繋ぎ、背後を覗き見る。

 三歩後ろくらいを歩きながら、アルセを護衛するようにぴたりとくっつくバズ・オーク。


 他のオークたちに引き留められるも、強引に付いて来てしまった。

 カインもネッテも、もはや放置。リエラに関してはため息交じりに歩いている。

 まぁ、気がついたら三日で魔物の仲間が二人も増えました。だ。そりゃため息も付きたくなるものである。


 にしても……アルセを守るようなバズ・オークの態度、僕がアルセに近づきにくくなった気がする。

 まぁ、アルセが守られるならそれに越したことはないんだけど。


 と、前方が何やら騒がしい。

 目を凝らしてみると、どうやらまたコボルトが出現したらしい。

 商人の一団と交戦を始めているようだ。


「こいつも知能があったりするのかしら?」


 予想以上にオークと町人との融和が上手くいったので、別の魔物と戦う事に戸惑いを覚えるネッテ。

 それを察したのか、バズ・オークが前に出る。


 ぶひっ


 何する気だ? と思った次の瞬間、商人たちのもとへと向かう。


「ちょ、あなたが行ったら討伐されるっ」


 慌てたネッテとカインが彼の後を追う。

 大丈夫かあいつら?

 駆け出そうかと思った僕だったけれど、リエラが立ち止まっている事に気付き、足を止める。


「どうしたのアルセ? あなたは行かないの?」


 リエラの言葉にアルセは首を傾げる。


「一緒に行く?」

 手を差し出してくるリエラ。

 アルセは戸惑い僕を見上げながら、恐る恐る彼女の手を取った。

 そして、僕はバレないように手を放してみる。


 が、それを目ざとく見つけたリエラは逆に嫌疑の視線を向けてくる。

 なので、アルセから離れてカインたちの後を追う事にした。

 僕がそこへ辿りつくと、丁度コボルトがアックスというのだろうか、片手持ちの斧を、そしてバズ・オークがシミターを互いに降り下ろし、剣撃とともに膠着状態に入ったところだった。


 ぶひぶひフゴッ。


 ぐるるるる。


 ……なんだあれ?

 武器越しに、彼らは何かを話しているようにも見える。

 いや、まぁ僕がそう思っただけだけど。

 いくらか会話のようなものが続くと、バズ・オークが剣を収める。


 それと同時に、コボルトもアックスを下ろし、遠吠え。

 踵を返して帰ってしまった。

 その場の全ての人間が何が起こったか分からずただただ見守る。


 バズ・オークは仕事は終わったとアルセのもとへ近づくと、アルセに傅く。

 すごい注目を集めていた。

 しかもアルセに忠誠を誓うようにするものだから魔物を使う魔物だ。とアルセへの畏怖が募って行く。


「結局、何したんだこのオーク?」


 コボルトが戻ってくる気配がないと知ると、カインは剣を収めてアルセとバズ・オークのもとへ。

 ネッテとリエラは集まった野次馬を散らしていた。

 バズ・オーク

  種族:オーク クラス:オークリーダー

 ・片目に刀傷を持つシミターとアイアンメイル、剛毅の手甲を装備したオーク。

  知能は高いらしい。

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