AE(アナザーエピソード)その犬の冒険を僕は知らない6
その時のことを、男は皆にこう語ったという。
あ、俺終わった。そう思ったね。マジで。アレはねぇよ。
始めはな、こんなちっこい犬みたいな生物だったんだ。
犬って分かるか、ワードックやらコボルトをさらに小型化した奴だ。
狼モドキとかが似てるかもしれねぇ。
まぁ、そんくらいの大きさの生物でよ、犬耳と肉球、尻尾が生えてんだ。
で、本体はなんとパンで出来てんだぜ。そのパンとパンの間に挟まれた肉汁滴る焼かれた肉の塊、レタスやらトマトにしか見えねぇものがその上に乗ってんだ。
んで、美味そうな匂い漂わせてんの。
んなの見付けたらよ。ペットだっつわれても、奪い取って喰いたくなんだろーが。
俺だってかなり我慢したんだぜ?
だがな、ありゃあ飯テロだ。
腹空いたその日暮らしの俺らにとっちゃアレは魅力的過ぎたんだ。
だからよ、ついつい突っかかっちまった。
あいつを飼ってるのはお坊ちゃんみたいな気の弱そうなガキとションベンくせえ小僧、いや小娘? 胸あったし小娘だよな。
だからよ、直ぐ奪えると思ったんだ。
あいつらもこんな危険な冒険者やってんだ、そのくらい覚悟が無けりゃやってけねぇだろ。
暗殺とかして奪ってかねぇだけマシだろうがよ。
ああ、そうさ、俺らは必要悪、新人冒険者に冒険者ってのが憧れだけじゃやってけねぇって教える奴らさ。
いや、俺だって本当にあいつらからペット奪って喰おうなんざ思ってねぇよ。ホントだって、ちょっと世間を教えてやるだけのつもりで憎まれ役をだな……いや、マジだって。
ま、まぁそんなことぁいいじゃねぇか。
とりあえずよ。それでモメたところをアレンの奴がよぉ、対戦して勝てばいいじゃんみたいに言いやがって、しかも闘うのはペットのワンバーカイザーだっけ? あいつだっつーじゃねぇか。
楽勝だって、思ったんだ。
ウッドウルフみたいなもんだろう? ダンジョンに出現するチワワン並みに怯えてやがるしよ。
こりゃあ楽勝だなって、思ったんだ。
ああ、お前らも見ただろ、あんなん……反則だろ。
巨大化、咆哮、魔王闘気、もはや驚きの連続で攻撃すら忘れちまったっつの。
相手が魔王とか、何ソレっつー話な。
ラディが吹っ飛ばされてよ。気が付きゃフレイルが逆に喰われてやんの。
はは、笑えるだろ。涎垂らして俺、お前まるかじりみたいなこと言ってやがったのに、実際に咥えられてんのは自分だっつーな。
まぁ、美味くなかったんだろうぜ。ぺっとブッ飛ばされてたからな。
俺? 俺は……まぁいいだろうがよ。
うるっせぇ、漏らしてなんざねぇよ! それはあいつだろ。バルスとかいうお坊ちゃん。あいつペットがどんな生物かすら分かって無かったじゃねぇか、自分のペット見上げて漏らしてやがったぞ! しかもデケェ方をよ!
ああ、悪ぃ、ちょっと興奮しすぎたか。
とにかくだ、あいつはマジ闘うべきじゃねぇ。
つか、巨大化したとき俺足元居たからな。
コラテメェ、腹抱えて笑うな。そうだよ、俺は開始直後に下敷きにされたんだよっ。
攻撃も何もあったもんじゃねぇ。圧死させられるのを耐えるので精いっぱいだったつーの。
そりゃ俺だってその後の討伐作戦には参加したよ。
アレンの奴がワンバーカイザー吹っ飛ばして助けてくれたしな。じゃなけりゃ死んでたっつの。
でもよ、マジないわ。
ワンバーカイザーが魔王だって分かって闘ったんだぜ俺ら。
冒険者総出で、アレンを大将にして、皆で闘って、ファイアーブレスで殆ど殲滅されて、まぁ殲滅っつっても死人はゼロだったけどよ。手、抜かれてたってのは屈辱だよな。
アレンの御蔭でぎりぎり倒したんだ。あいつ、敵のスキル全部知ってるみたいだったから戦略立てやすかったぜ?
でよ、勢い余りやがったのかワンバーカイザー真っ二つにしてよ。さすがに嬢ちゃんが叫んでたけど、まぁしゃーねーわ。
ぶっ倒したぁって皆で一息ついて、もう無理、動きたくねェとかいっちゃって。
本当に、あの時は生きた心地はなかったぜ。
真横に居た冒険者が空高く跳ね上げられるし、前にいた冒険者がブレスに炙られるし、俺、ここで死ぬのかって妙に悟ったぐらいだぜ。
でもな、倒したんだ。
アレンがトドメを刺したけど、俺らで魔王を倒せたんだよ。
あの時は達成感なんぞなく、終わったこと、生き残った事だけが嬉しかったんだがな。
その数秒後だ。ありゃ悪夢だぜ。
そう、あいつ復活しやがんの。
アレンの奴だけはなんだっけか、すてーたすかくにん? っつー能力で分かってたらしいんだけどよ。先に言っとけっつー話だよな? あいつが復活するって分かってたからぶった切ったとかお前マジふざけんな。ってな?
倒した相手が急速に盛り上がって復活するとか、悪夢だぜ?
こっちはもう全力使い果たして動けねぇっつーのに、復活した敵は全快してやがんの、あ、これ、マジ終わった。って思ったね。何人か意識手放してたし。
でもな、あいつ急に小さくなったと思ったら小便臭え嬢ちゃんに抱きついてやんの。
怯えたいのはこっちだっつーのによ。




