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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その犬が丸めこまれていることを僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その犬の冒険を僕は知らない2

 三人の人間の女たちはワンバーカイザーを魔物と判断したらしい。

 剣士風の女性が剣を振り上げる。

 炎を模した橙赤色の剣が陽射しを浴びて妖しげに光った。


 強い。

 即座に悟る。

 こいつは強い。自分では勝てない。

 ならばどうするか。答えは簡単だ。


 ワンバーカイザーは即座にその場に転がると、腹を見せて服従のポージングを開始する。

 すでにプリカのせいで精神は限界に近い。

 相手に屈するのに邪魔なプライドなど当の昔に粉砕されている。

 とにかく、今は生き伸びる、そしていつかのじゃ姫の元へ辿りつく。それだけを彼は考える。


「お、おお? なんか腹見せてるぞ?」


「犬としたら服従のポーズだけど……」


「本当に魔物か手塚至宝。こやつ、実はこの世界の犬という可能性はないか?」


「え? マジか!? こんな旨そうな匂いの犬とか、やべぇだろ」


「あーでも、確かに美味しそう。そういえばファーストフードって最近食べてないなぁ」


「あ~そういやそうだな」


 なんか会話を始めた三人。

 ワンバーカイザーから意識が逸れたその瞬間、ワンバーカイザーは身を翻すと全力疾走で走り出す。

 突撃して来るのかと、慌てて剣を構えなおす女を尻目に、ワンバーカイザーは森の中へと舞い戻った。


「あ、逃げた!?」


「放っておけ。それより目的をさっさと終えるぞ」


「ああ、そうだったな。ガラトスだっけ、次向うの?」


「えーっと、その街を経由して海の向こうだよね、早く行こう」


 化け物だ。こいつらは化け物だ。

 ワンバーカイザーは必死に小さくなりながら彼らが消えるのを待つ。

 何時間そうしていただろうか?


「ワンバーちゃーん、どこー?」


 ぞくりとした。


「どんなに逃げても私の鼻と食欲からは逃げられないよー」


 走り出した。

 もう、奴らも居ないだろう。とかいう打算はなかった。

 ただ、あの悪魔に捕まらないために。

 駆ける。全力で駆け抜ける。

 平原をただただ只管に。


「きゃぁ!?」


 そして、ワンバーカイザーは誰かにぶつかった。

 デカいメロンに突撃したことで衝撃はなかったが、相手の女性はワンバーカイザーの突進で尻餅をついていた。


「無事かナポ!」


「だ、大丈夫よバズ」


 が、ナポ・リティアンは動けない。

 自分の胸元には新種の魔物がいるのである。

 目があるのかどうかわからないが、確実に合っている。目があれば合っている状態だ。

 目をそらせば、そのまま自分が食われてもおかしくない状況である。


「オルタ、ベロニカ、奴を刺激しないよう麻痺毒を……」


 が、バズことバズラックが行動するより先に、ワンバーカイザーは慌てたように逃げ出した。

 とにかく時間を取られる訳にはいかない。逃げなければ。あの食欲魔神から逃げねばならない。

 ポカンとしたナポたちはただただワンバーカイザーが通り過ぎる様を見つめるしかできなかった。


「あ、ちょっとお兄さんたち、来たよ! あれ!」


「あ、ああ。奴か。ヘイオ・ロリコーン!」


「全員戦闘配置、奴を倒すぞ!!」


 冒険者パーティーの追撃を警戒していたワンバーカイザーだったが、彼らにも目的はあったらしい。

 ワンバーカイザーを無視して新たに現れたロリコーンへとぶつかり始めた。

 ワンバーカイザーは安堵の息を吐いてのじゃ姫の後を追う。

 とにかく出会う。それだけを考える。


 だから、彼は全く想定していなかった。

 そもそもダンジョンにいた階層ボスの一人なのである。

 そんな彼が人間の事など分かるはずもない。

 つまり、人間が彼を見た時、どんな状況に陥るか、全く考えもしなかった。

 ただ、その中でもこの町が奇特であったのは彼に幸いだったといえるだろう。


 町門の前で警戒している兵士たちは、そいつを見て呆然としていた。

 見た事も無い生物がハンバーグを垂らしながらハッハッと声を出して駆けて来る。

 魔物? 動物? 誰かの飼い生物なまもの


「と、止まれ! 言葉が分かるならそこで止まれ!!」


 咄嗟に声を荒げると、ワンバーカイザーは急停止して立ち止まる。

 兵士の目の前で舌のようにハンバーグを垂らして待機中である。


「お、お前は何者だ。いや。目的はなんだ?」


 魔物といえど意思があるかもしれない。

 彼がワンバーカイザーを止めて理由を聞こうとしたのは、先の闘いでゴブリンキングを倒した鉱石の魔物の活躍が背後にあった。

 魔物であっても意思疎通が出来る個体は存在する。

 ならばこそ、この国は広い知識あるモノへ門戸を開こう。


 最近王国が出した命令、というよりも声掛けである。

 兵士も現場を見ていたのだ。アルセの活躍を見ていた彼はワンバーカイザーが攻撃してこないとみるや、話は通じるのだろうと彼の前にしゃがみ込んで話しかける。


 ワンバーカイザーもなんとかして意思を伝えたそうにしていたが、どうにも伝え方がないらしい。

 困った様子でしょげかえっていた。

 ソレを見た兵士は頭をかきながら、安全そうだと自己判断する。


「ちょっとギルドに連れてってみるか、鑑定使える人がいたからあの人に頼めば何かわかるかな?」


 ちょっと話が分かりそうな人のところに連れて行くから暴れるなよ?

 そう言って、彼はワンバーカイザーを掴み上げた。

二話目は十二時更新です。


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