AE(アナザーエピソード)その犬の冒険を僕は知らない1
毎日毎日、彼は鉄板の上に居た。
手足を切り取られ、泣き叫ぶ彼の下が灼熱に熱されて行く。
何度となく繰り返された拷問。
いつ終わるとも分からぬ絶望。
ただ生まれ、食われ、再生する。
異世界の誰かがこれを見れば、きっと現世の歌、タイ○キくんを思い浮かべることだろう。
やがて悲鳴じみた鳴き声は止まる。
そして辺りに漂うのは香ばしく焼けたパンと肉の匂い。
「ふへへへへ。やっぱりおいしー」
そんな彼を両手で掴み、遠慮なく噛みつく一人の女。
満面の笑顔を浮かべ、プリカはワンバーカイザーを咀嚼する。
ここ最近、いつもの日課であった。
朝起きてハンバーガーを食べ、昼にハンバーガーを食べ、おやつにハンバーガーを食べ、夕食にハンバーガーを食べ、寝る前にハンバーガーを食べる。
最近は生で踊り食い、焼いて食べる。煮て食べるなど、バリエーションを付け出したが、その度にワンバーカイザーが殺されるのは確定した事実である。
迷宮の外に連れて来られ、何日が経っただろう。
何度、死を迎えただろう?
両手足が残っていれば復活する彼ではあるが、囚われの身となってしまっては不死など不要の長物である。
もう一生、こいつに食われ続けるしかないのだろうか?
のじゃ姫様、もう一度会える日は来るのでしょうか?
何度も思った自分の主。
泣き別れたあの日を思い出に、何時か会うという希望だけを胸に、今日も彼は殺され、亡骸をこの悪魔の様なエルフに食われ続けるのである。
「プリカ、悪いがちょっと手伝ってくれ。アルセナイフの生産が追い付かん。今日中にあと100本作らねばならんのだ」
「なんでそんなに受けたのおじいちゃん。まったくもう。これから私おやつ食べるつもりなんだけどー」
まだ食い足りないのか? 再生を始めたワンバーカイザーが嘆く。
だが、唐突に気付いた。
席を立ち、お爺さんの元へと向う彼女は、ワンバーカイザーが逃げないように首輪を付けるのを忘れたようだ。
ワンバーカイザーは即座に視線を走らせる。
ドアは、開いていた。
プリカはまだ気付いていない。だが、直ぐに気付くだろう。
考えている暇はない。やるなら……今だ!
ワンバーカイザーは無言で走り出す。
プリカの背後を駆け抜け、自由への扉に向い走り出す。
もう少し、後少し、すぐそこに……
「あ、そうだ。ワンバーちゃんの首輪しなきゃ」
振り向いたプリカ。しかしそこにワンバーカイザーの姿は既になかった。
「あ、あれ? ワンバーちゃん? ワンバーちゃんっどこいくの!」
ドアから脱出しているワンバーカイザーに気付いたプリカが追い掛けようとする。
「プリカッ。早く来てくれ。時間が惜しい!」
「こっちも時間が惜しいよっ!? ワンバーちゃぁんっ!!」
外へと脱出したワンバーカイザーは村から脱出すべく村の入り口を目指す。
とにかく遠くへ。プリカの居ない世界へ。
自分の姿を追えなくなるくらい遠くへ向わなければっ。
護衛の二人が入口に立っている。
外敵への反応は手早い二人も、内部からの脱出には手が出なかった。
彼らが気付いた時には既に入口を突破したワンバーカイザーが茂みの中へと分け入っていった後だった。
森を駆け抜けるワンバーカイザー。
ようやく声が出せる。
思わず雄たけびを上げる。
自由だ。
自由を手に入れた。のじゃ姫の元へと辿りつける。
きっと向こうに行けば、受け入れてくれるだろう。
プリカの元にはもう二度と戻らない。
そう心に決め、ワンバーカイザーは森をひた走る。
雄たけびに誘われるように、わさわさと揺れる緑色の生物が現れた。
この森の主要な魔物、オリーである。
飛び付き、喰らいつく。
ワンバーカイザーとて食われるだけの存在ではない。
むしろ犬としての特性を持つため、食性は肉食なのである。
といっても、目の前の魔物は野菜に入るのだが。
自然界は弱肉強食。
オリーをむさぼり喰らい、ワンバーカイザーは自分の強さを再確認する。
そう、自分は野生でも十分通用する。
籠の中の鳥ではないのだ! 食われるだけの存在では、決してない!
そして、今は小型化しているが、本来の姿はドラゴン並みの大きさなのだ。
そう、自分は魔王だ。ワンバーガーたちを統べる王なのだ。
そう、この周辺に生息する魔物どもなど、まして人間どもなどに負ける自分では……
「ンだこいつ? ハンバーガーが自走してやがる」
ワンバーカイザーは遭遇した。
森を抜けた直後の出来事。
白銀の鎧を着た女がいた。胸の大きな背の低い女だ。
その背後には巨大な紅の鎌を持った少女がいた。
そしてもう一人、魔法少女な出で立ちの少女がワンバーカイザーの耳を指差す。
「しーちゃん、これ、犬耳付いてるよ!」
「なんだ魔物か。じゃあ、さっさと潰そうぜマッキー、龍華」
世界は彼に、無情であった。
なんか書いてたらついコラボしてしまった。
でも一緒に旅とかはしませんので。
安心してください、すれ違いますよ。




