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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その二人がいたことを僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その二人がいたことを僕は知らない15

 何秒? 何分? 何時間経った?

 俺はどれ程呻き悶え、無防備な姿を敵に晒していただろう?

 裏番長からの攻撃はない。

 奇妙な程に、全くない。


 勝利の接吻でもされんじゃねぇの? と今更ながら顔を青くするが、もうしばらく腹の痛みが収まりそうにない。

 そんな俺のすぐうしろに、誰かの気配。

 お、おいおい。ちょっと待とうぜブラザー。

 こんなおっさんの尻なんざねらうもんじゃぁねぇ。なぁ、ちょっと落ち付けよ。


 しかし、そいつはそっと、俺の背中に身体を預けて来る。

 服越しにふよんと微妙な膨らみの感触が……あん? こりゃあ裏番長じゃねぇな。

 腹の痛みに耐えながら背後に視線を向ける。

 すると、縋りつくように俺に身を寄せるシャロンがいた。


「な、なに……を?」


 何をしてやがる? さっさと逃げろ。

 裏番長に殺されてぇのか!?

 そんな言葉を吐こうとして、腹の痛みで途中どまりになる。


「ありがとうであります。私の力不足のせいで……本当に、ごめんなさいでありますっ」


 涙声で告げる言葉は感謝と謝罪。

 それは多分、俺の事を下に見ていた彼女の心からの謝罪。

 お嬢護衛から外された俺の態度と実力を見誤ったことへの謝罪の言葉。

 そして、脅威を取り除いてくれた俺への感謝。代わりにダメージを受けたことへの償いの言葉。


 顔を上げる。

 なんだよ、やっぱ倒せてねぇじゃん。

 目の前に佇む裏番長を見付け、俺は絶望に顔を歪ませる。


 悠然と佇む裏番長。

 手を出して来ないのはどういう理由だ?

 腹の痛みが少しだけ治まったので、さらに顔を上げて行く。


「はは、マジか……」


 その裏番長は、死んでいた。

 俺が倒したのだ。

 拳をアッパーカットで付きだした姿で、そのツッパリ・・・・は死んでいた。


 裏番長からツッパリへ戻ったのだ。

 完全に死んでる証明になる。

 つまり、今のはこいつの最後屁を喰らっちまったっつーだけか。

 不幸中の幸いというべきか、ヘマ打ったっつーべきか。

 とにかく、俺の唇と尻が無事だっただけマシとすべきだろうな。


 ポーションと万能薬を飲んでなんとか持ち直す。

 ふぅ……さすがに今のは死を覚悟したぞ。

 さすがツッパリ共、暴走しても気が抜けない相手だな。


「よかった。本当に良かったであります」


「アホか。こんなことで泣くな。お嬢の護衛だろが。それより、マイケルの方に行くぞ」


「あ、はい!」


「なぁ、俺はどれぐらい呻いてた?」


「え? えっと……10分くらい?」


 結構経ってたらしいな。

 ってことは、マイケルの方もおそらく決着がついてるはず。

 いや、こっちに来ないってことはまだ闘ってるのか、それとも……


 俺達二人は森の中を掻き分けて行く。

 途中、お嬢達の方を見ておいたが、向こうは問題なさそうだ。

 既に壊滅させて辰真とロドリゲスの一騎打ちが始まっている。


「確か、こっちに向ったはずであります」


「だよな。あいつらどこまで……!?」


 今。聞こえた。

 聞こえちまった。

 俺は思わず立ち止まる。


「ど、どうしたでありますか?」


「シャロン、お前はお嬢の護衛に戻れ」


「え? な、なんででありますか、急に。マイケル先輩を探すのは……」


「俺がやる。だからお前は戻れ」


「だ、ダメであります。あなたが強いのは理解しました。でも、そのダメージ、まだ回復しきっていないじゃないですか!」


「戻れ。先輩からの命令だ。絶対に・・・……付いて来るな」


 俺は、おそらく初めて命令を下した。

 モンドにすら告げたことのない冷徹な声で、シャロンをお嬢のもとへと向かわせる。

 悪いな嬢ちゃん。こいつを見せるにゃ……お嬢ちゃんには刺激が強過ぎる。


 俺は一人、森の奥へと分け入っていく。

 やっぱか。俺は壊れた腕輪を拾い上げる。姿を隠す魔道具だ。おそらく、マイケルの物だろう。

 次第、声が聞こえて来る。

 聞き覚えのある男の声。だが、聞きたくもないおぞましい声だ。


 そっと、目的地を窺い、俺の予想が正しかった事を知る。

 そうか、お前は……負けたかマイケル。

 俺は背後から裏番長に近づき、双牙斬で心臓を貫く。


 奇襲による一撃必殺だ。

 無防備な背中を晒していた裏番長は、抵抗すらなく死亡した。

 だが、払った犠牲は大きすぎたようだ。

 俺は無言でツッパリに戻った裏番長から学ランをはぎ取り、力尽きたマイケルへと掛けておいた。


「すまんマイケル。お前の扉を守れなかった」


 マイケルは無言でこちらに視線を向ける。

 ゾクリと鳥肌が立った。上気した目が潤みをみせる。

 一歩、また一歩と俺は後退さる。

 手を伸ばして来るマイケルから逃げるように、俺は即座にお嬢達のもとへと走り出した。


「待て、待ってくれ……俺はまだ満足していないっ。待ってくれぇ、お待ちになってぇぇぇっ」


 嫌だ。もう変態は嫌だ。誰か助けてくれ。俺の周りの変態共を駆逐してくれ切実にっ。

 マイケルは目覚めたのだ。新たな世界へ旅立っちまった。

 さらばマイケル、お前にはモンドを紹介してやるよ!

AEアナザーエピソードその二人がいたことを僕は知らないは明日がラストです。

その後はワンバーの冒険が数日始まります。

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