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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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そのオークたちの生活を彼らは知らない

 一段落すると、バズ・オークは僕たちに背を向けて仲間たちと去って行く。

 いや、カインたちは去って行くように感じたのだが、途中で僕らを振り向き、まるで付いて来てくれとでも言うように鼻を鳴らす。

 少し考え、僕はアルセを連れてバズ・オークたちの後を追う事にした。


「ちょ、アルセ!? どこ行くのっ」


 アルセが一人で勝手に動きだしたことに全員気付いた。

 慌てて追ってくるリエラ。

 それに続いてカインとネッテも困った顔で追ってくる。


 アルセがまた暴走したとでも思っているのだろうか。

 確保されても面倒なので、彼らの意識をバズ・オークに逸らすことにした。

 すぐに追いついたリエラに、笑顔を浮かべるアルセの腕を使い、バズ・オークを指さしてやる。


「えっと……バズ・オークたちに付いて行くの?」


 アルセの頭を縦に振る。

 ようやく追い付いて来たカインとネッテに、リエラが振り返り、三人で話し合いが始まった。

 その間、なぜかバズ・オークたちも歩行を止めてこちらに視線を向けてくる。


「どうします?」


「罠とかないでしょうね」


「おいおい、オークが罠なんか張るのかよ? いいんじゃないか、アルセのヤツ、なんか確信してるみたいだし。リエラの時だってあいつが導いたようなもんだろ。今回もなんかあるんじゃないか」


 おお、カインのヤツがちょっと乗り気だ。


「確かにアルセって時々知性があるように見えるけど……そうね、まぁ、付いて行くだけだし、私は別にいいかな。リエラは?」


「ま、まぁ、お二人が行くならご一緒しますけど……」


 リエラはアルセを流し見る。

 その視線は、アルセ本人ではなく、周囲に居るかもしれない誰かを探しているようだった。

 僕は疑惑の視線に曝されて冷や汗塗れである。リエラがちょっと怖い。


「よし、じゃあ付いて行ってみるか」


「ほら、アルセ、一緒に行きましょ」


 と、ネッテが近寄って来たので、僕はアルセから離れる事にした。

 一瞬寂しそうな顔をしたアルセだったが、ネッテに手を握られると、ネッテの顔を見上げて笑みを浮かべた。

 その様子を、リエラは懐疑的に見つめる。


「どうしたリエラ?」


「いえ……なんか、さっきまで何かを掴んでた右手が下がったなと……いえ、やっぱり何でもないです……」




 そこは、目を疑う光景が広がっていた。

 森を掻き分けた一行が目にしたのは、無数のオークたちが暮らす集落のようだった。

 ただの集落ではない。人間のように生活する、オークたちの群れなのだ。


「ンなバカな……」


 カインが思わず声を漏らす。

 バズ・オークに連れられるように茂みからでた人間に、周囲のオークたちが作業を止めて注視する。

 オークが鍬持って農作業している。何コレ?


 と、その中から一匹のオークが駆け寄ってくる。

 バズ・オークの真横にやってくると、互いにぶひぶひと鼻を鳴らし始めた。

 ……あれ、会話してるのか?


 よくよく見れば相手のオークはバズ・オークと比べると胸が出ており、幾分ふくよかに見える。

 オークのメス?

 そう思ってよくよく見ていると……


「あんた、なんで人間なんて連れて来たのよッ!?」


「いやぁ、この人たちなら大丈夫だって思っ……」


「ふざけないでッ」


「ゴメンオー子、俺は……」


「お黙りッ」


「ハイッ!?」


 なんて感じの会話が連想される風景が展開された。


「あっ、見てくださいカインさん、ネッテさん」


「あれは……盗まれた野菜?」


 それは、畑に埋め直されている根菜だった。

 ちょっと虫に齧られていたり、歪に歪んだり、腐ったりしているが、その全てを分け隔てなく一つ一つ丁寧に畑に埋めている。


 オークたちは盗んで来た根菜を自分たちの畑で栽培し直しているようだ。

 いくつかは花が咲き始めているのもある。

 ……この大根モドキ、何時でも花が咲くのか? 季節感ないな。

 しかも出来た花が嘆く表情の人の顔に見えるのがまたなんとも味のある植物だ。


「これは……もしかして自分たちで食料を育ててる?」


 ネッテが呟く。

 それを聞いたバズ・オークが彼女のもとへと歩み寄り、首を縦に振る。

 その動きに、ネッテは眼を見開いた。


「……もしかして、私の言葉、わかるの?」


 再び首肯。

 やはり、彼には知能があるらしい。

 さすがにネッテもここまでくると魔物に知識があると確信したようだ。


「……この盗んだ野菜は……貴方たちの食料にするの?」


 少し考え、首肯。

 なるほど、言葉は話せなくとも相手の言葉を理解できればイエス・ノーで返答は可能ってことだ。いいなぁ。僕はその行動すらできないのに。


 でも、これでオークたちの行動理由がわかった。

 生きるために盗みを働く。それは、恵まれない人間でも行う行為だ。

 オークが話が通じる相手だというならば……

 ネッテは顎に手をやり少し考えながら、ふと、思いついたように再びバズ・オークに顔を向ける。


「今、貴方は賞金首になってるわ。金額が少ないから大した冒険者はこないけど、撃退すればするほど強い冒険者が首を狙ってくる。そうすれば必ずこの村は蹂躙される。もし私たちを信頼してくれるなら一緒に森を出て町の人たちに会ってくれない?」


 ぶひっ!?

 それはバズ・オークだけでなく、周囲のオークたちからも洩れた驚きの鼻息だった。

 少し待て。とでも言うように掌を向けたバズ・オークは、周りにオークたちを寄せ集めてぶひぶひと話し合いというか鼻息合いを始めた。

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