AE(アナザーエピソード)その二人がいたことを僕は知らない8
正直言おう。俺、自信無くなってきたわ。
つかよ、お嬢のパーティー護衛する意味あんのかね。
むしろあいつらが勝てない敵なら俺とモンドでも勝てるかって話だぜ?
何が起こったか? あのパーティーが参戦しただけでゴブリン共が壊滅しやがった。
今はリエラが担当していた北門にいるんだがな。
敵はゴブリンの親玉ゴブリンキング。
俺が多少闘いに参加したところで勝てる訳がねぇ。
そんな相手に打ち掛かっていき敗北して行くバズたち。
残ったのはエンリカとアルセだけだ。
もう、ダメだ。そう思った時だった。
辰真が起き上がり総長へと変化したのである。
それからの闘いは圧巻だった。
俺と言わずその場の誰もが手を出せない一対一の闘い。
殴り蹴りぶっ飛ばし合う本当の意味での漢の闘い。
どちらが勝つのか。人間かゴブリンか。その行く末をたった一人の魔物に託されていたんだ。
こいつがゴブリンキングに負けたら終わる。それが理解でき、そして誰もがその邪魔をしてはいけないと邪魔出来るハズが無いと魅入っていた。
ただ、一匹を除いては。否。そいつ自身が何かした訳じゃねぇな。俺は知ってる。あの野郎だ。
透明人間が動きだしたのに気付けたのは、俺が離れた場所で俯瞰していたからだろう。
突然、リエラの元に居た葛餅が消えた。
何だと思って辰真達の闘いから視線を向けると、今度は倒れたネフティアの場所に出現する葛餅。
そしてチェーンソウを抱え上げると再び消える。
なんだありゃ。と思ったが、透明人間の野郎がいると気付いてみればすぐ意図を理解出来る。
あの野郎、やる気だ。
誰もが手を出せない辰真とゴブリンキングの闘いに、そいつは突如現れた。
辰真が離れた瞬間、襲いかかる死角からのチェーンソウ。
なんとかこれを躱すゴブリンキングだが、葛餅が操り軌道を変えることまでは予想できなかったらしい。
皆、葛餅の接近に気付かなかった。
気付ける訳が無かった。
なぜなら葛餅は、見えない誰かに装備され、見えない状態にされて接近していたのだから。
だから、結果的に見えたのは、辰真との戦いで気を取られたゴブリンキングの隙をついて襲いかかった葛餅が、見事ゴブリンキングを討ち取った。
そういう状態に見えたのだ。
呆気に取られる辰真と、全ての功績を持って行った葛餅。
賞賛を受けるのはもちろん葛餅である。
軟体生物は自分の偉業が理解できたのかどうか? 皆の歓声を受け、あぶられた餅のように膨らみながら左右に揺れていた。
なんとなく、理解した。
アルセが異常なんじゃない。アルセを影から救うあの透明人間のせいで、アルセが異常に見えているんだ。いや、二人揃って異常なのだろう。アルセ自体も普通のアルセイデスとは違ってるしな。
ふつうならアルーナに変化するはずなのに、まだその兆しがねぇ。
そして、ゴブリンキングを倒した御蔭でゴブリン共は散り散りに、冒険者たちがこぞって追撃討伐を始めていた。
こうなるともう、お嬢パーティーに仕事はねぇ。ただただ休めばいいだけだ。
まぁ、しばらくしたら祝賀会みたいのが町を上げてやることになったから町からはまだ出られなかったけどな。
ついでに、リエラの演奏会が早まったし。可哀想に。
もはや建国祭にすら匹敵する勝利の祭典は、大盛況だった。
町中総出、普段は闇に潜んでいる盗賊やら浮浪者なども普通に通りに出て来て共に祝っていた。
それくらいに熱狂した褒賞会であった。
無数の冒険者が褒められ、最後にお嬢たちのパーティーが個別に国王陛下から賛辞を送られていた。これで一躍有名人である。すげぇなぁお嬢パーティー。
その内訳、半分ぐらい魔物なのにな。
そして貴族たちの演奏会が始まった。
貴族たちのみで行われる発表会なのだが、今日だけは特別に民衆も国王も交えての演奏会ということもあり、皆気合いを入れていた。
たった一人の生贄を除いてな。
控室覗いてみりゃ、リエラの奴、物凄い青い顔でゲェゲェやってやがる。
あれ、演奏とか無理じゃねぇの?
そう思う俺だったが、やはりこのパーティーに常識などなかった。
プレッシャーが掛かり過ぎて振りきれたリエラが、まるで全ての罪から解放された聖母のように穏やかな顔で舞台にあがったのである。
しかも、透明人間の野郎が普通に手伝ってやがる。
リエラは全く弾いてない。ピアノって楽器らしいんだが、その鍵盤に手を置いてるだけだ。
代わりとでもいうように、リエラの横に座って演奏を行う透明人間。
あいつ、元々は音楽家か何かか?
でも……なんだこの曲……涙で前が……グズッ、見えねぇぞ……?
ああ、チクショウ、何だこの光景。なんでもう失ったはずの故郷が……やべぇ涙止まらねぇ……




