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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その魔物の思いを、彼らは知らない

 間合いが縮む。

 あと一歩で互いに切り結ぶ。そんな瞬間になった時だった。

 ネッテの呪文が完成する。


「コル・ラリカッ」


 それは、バズ・オークではなく、仲間のオークたちへと放たれた、氷結魔法。

 しかし、それが放たれた瞬間、バズ・オークは慌てるようにオークたちのもとへと走りだす。


 僕は確信した。こいつは、知能がある。

 ただオークを纏めているだけじゃないんだ。

 自らコル・ラリカに体当たりしたバズ・オークは、そのまま氷結魔法の餌食となる。


 さすがにこう上手くいくとは思っていなかったネッテは自分の魔法が導きだした結果に驚きを隠せないでいた。

 ただ、運がいいのか、バズ・オークが凍ったのは下半身のみ。未だ意識を持っていた。


「チャンス! 行け、リエラ!」


 トドメを刺そうとカインは呆然と見守っていたリエラに指示を送る。

 自分に来ると思っていなかったリエラは、慌てて剣を引き抜き、バズ・オークへと走りだす。

 目の前へとやってくると、ごくりと喉を鳴らし、震える手で剣を頭上へ、そのまま振り下ろす気らしい。

 でも、その行為を見た瞬間、僕には……


 僕には、バズ・オークが初めて会ったアルセと重なった気がした。

 仲間のオークたちに視線で逃げるように指示を出し、悟ったように剣先を見上げるバズ・オークに、僕はアルセを引っ掴んで走り寄る。

 とっさだった。とっさに僕はアルセを矢面に立たせるという、絶対にやるべきじゃないことをやってしまっていた。


 僕だけだと無意味だけど、アルセがいれば……

 そんな思いに突き動かされ、僕は必死に駆け寄る。

 リエラが剣を振り降ろす直前、アルセと共に彼女の前に割り込み、アルセの両腕を広げて見せる。


「ちょ、アルセッ!?」


 突然の奇行に思わず剣を止めるリエラ。

 慌てて駆け寄ってくるカインとネッテ。

 アルセとバズ・オークを交互に見る。

 頭の双葉に触れるかどうかといったところで止まるリエラの剣圧でアルセの双葉が風に揺られる。


「もしかして、こいつを助ける気か?」


 僕はアルセの頭を動かし頷かせる。

 バズ・オークなら、話し合いで解決できるんじゃないかって思うんだ。だってアルセだって会話もできないのにこいつらは仲間に引き入れたんだ。基本、優しい奴らだと思う。

 だから、後はバズ・オークだ。こいつが村を襲った理由さえ分かれば……


 その理由も、彼の行動からして仲間の為のはず。

 ということは、餌が必要になったと見るのが一番妥当だ。

 それも、農家の人々が困りすぎないように傷モノをわざわざ選んで盗掘する気の使いよう。


 こいつもかなりのお人よしと見た方がいい。

 あとはどこまで意思疎通が可能かどうかということに尽きるだろう。

 しかし、カインたちはバズ・オークに知能があるとは欠片も思っていないようである。


 あったとしても本能的に敵を倒すための知略程度がある。としか思ってないはずだ。

 先程バズ・オークが凍ったことも、彼らはラッキー。くらいにしか思っていないはずである。


「でも、アルセ、オークを助けても意味はないわよ。どうせ斬りかかってくるわ」


 子供に言い聞かせるように伝えるネッテ。

 しかし、アルセは首を捻ってしまう。

 ネッテは困った顔でリエラを見る。


「えっと……私に聞かれても……」


「まぁ、いいじゃねぇか。オーク相手なら仕切り直しても負けはしないだろ。俺は負ける気はしないぞ」


 切り結んでいたカインがそんな事を言う。よく言うな。押され気味だったクセに。

 でも、確かにもう一度、戦う事になれば、どうなるかはわからない。

 二人の実力はほぼ拮抗しているみたいだからだ。

 そもそも、僕はカインの実力がこれくらいだと思っているが、彼が出し惜しみしていることだってあるかもしれない。


「仕方ないわね。じゃあ火炎魔法で溶かすわよ」


 カインとリエラが警戒に当り、ネッテが火炎魔法でバズ・オークを覆う氷を溶かし始める。

 僕はアルセを持ち上げバズ・オークの前に持っていくと、とりあえず敵意はないとアピールするため、アルセの手で頭を撫でてみる。


 ブヒッと鼻息が返ってきた。

 アルセが首を捻る。

 その瞳を見つめるバズ・オーク。

 さらにはその後ろでオークたちがはらはらとした顔で状況を見守っていた。


 氷が解けきると、バズ・オークは自身の身体が普通に動く事を確かめる。

 そして少し前に出てアルセの眼前へと立ち塞がった。

 カインとリエラが剣を構え、ネッテも杖を掲げていつでも魔法を打てるように警戒を露わにする。


 何を想ったか、ブヒッとバズ・オークが傅く。

 アルセに向けて地面に膝を突いたのだ。

 その行動は流麗に、荘厳に、頭を垂れてアルセに向ける。

 その姿は、姫を前に忠誠を誓う騎士のそれにしか見えなかった。


 さて、どう落とし所をつけようかと、アルセから手を離すと、アルセはバズ・オークに歩み寄り、さっき俺がやったように、バズ・オークの頭を撫でまわす。

 しかも、それが気に入ったのか物凄い笑顔だった。


「ど、どうなってんだ?」


「知らないわよ。魔物の行動なんて調べようとするヤツ滅多にいないでしょ、生態なんて知らないわよ」


「……もしかして、バズ・オークも知能があるんでしょうか?」


 その答えは、彼らには分からなかった。

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