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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その二人がいたことを僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その二人がいたことを僕は知らない3

 なぁ、ブラザー、常識ってなんだっけ?

 今、俺はよく分からない事態に直面している。

 いやな、いきなり言われてもわからねぇだろうけどよ、仕方ねぇんだ。こう、愚痴ってねぇとやってらんねぇのよ。


 俺は今日もまた、ネッテのお嬢を影から護衛してんだが、正直このパーティー、あのアルセイデスが仲間に入ってからおかしい事だらけだぜ?

 普通、魔物が仲間になること自体皆無なんだ。

 例外といえば魔物使いによるテイムだ。それだってテイムした魔物に禁止事項を付けて街中で暴れないようにしたり魔物使い自身に攻撃を加えないように枷を填める必要がある。


 あのアルセってのは妙に人間臭い。

 かと思えば魔物としか思えない動きもするし、まるで誰か保護者でもいるんじゃねぇかと思うんだ。

 ほら、俺らもお嬢を護衛してるだろ。そんな感じで影から守ってる奴いるんじゃねぇのと、だってよ、おかしいだろ。

 あの絶体絶命だったアンブロシアツリーににっちゃう・つう゛ぁいが突如飛んで来てアルセとリエラ守って撃破しやがったんだぜ?


 アルセが浮くだけじゃなくてにっちゃう・つう゛ぁいまで浮くとか、ありえねぇよ。

 だから、俺はついついアルセの動向に注視し始めた。

 そしたらよ、魚に手足くっついた変な生物と水の掛け合いしやがんの。

 意味不明だよ。そしてちょっと癒される。

 なんだこの胸に去来するほんわかした気分は?


 とにかく、俺の常識ってもんがアルセ見てると悉く崩れ去っていく気がするんだわ。

 見ろよあの水飛沫を上げる笑顔の少女を。

 癒されねぇか? いや、お前は呼んでねぇよ魚野郎。そんな水飛沫あげて煌めいてんじゃねぇキモいんだよっ!

 ひとしきり遊んだアルセはラッキークローバーを食べた。


 あと、少し前になるが、スライムっぽい生物を抱え上げて捕獲。

 さすがに焦ったぞ。スライムなんか持ったら溶かされるだろと慌てて動こうとした俺だったが、どうもあれはスライムとは別種のモノらしい。


 新種……か?

 スライムは年々新しい個体が発見されるからな。

 マッドスライムやらヘドロスライムやら、何処がどう違うのかよくわかんねぇスライムも居るくらいだ。消化能力が退化した特殊個体が居てもおかしくはないだろう。

 生き辛そうではあるけどな。


 結局、アルセの頭にスライムが鎮座した。

 あのスライム持って帰るのかよ。

 そう思ってた俺は、更なる衝撃の現実を目の当たりにする。


 そう、蛇だ。

 巨大な蛇を倒したら謎の柩が現れた。そんでもってその中から干からびた人間が出て来た。

 その状態で生きてやんの。何アレ? 魔物? 人? 死人? 分類は何なのよ?


 俺は思わずモンドに視線を向けた。

 頼む、俺の常識が壊れる前に説明してくれ。

 納得のいく、俺の常識内の現実なのだと教えてくれモンド!


 しかし、彼は残念な顔で首を横に振った。

 これが現実だ。受け入れろ。そう言われたようだった。

 俺の常識は、音を立てて崩れて逝った・・・

 いった。ではない。本当に……逝っち・・・まった。


 決定的だったのは最悪の魔物との遭遇だ。

 偽人ツッパリ。

 正直こいつの強さは半端ねぇ。


 たった一人相手取るだけでも骨なのに、下手に手傷負われて逃がしちまうと仲間を引き連れてお礼参りをするという習性がある。

 それだけならまだ、冒険者総出で掛かればなんとかなる。

 問題は、そこに上位個体が含まれていた場合である。


 偽人、番長。

 その存在は絶対に手を出しちゃいけない存在とされている。

 それ程に、強い魔物なのだ。まぁ、俺ならそいつ一体なら充分勝てるがな。

 普段は森の奥に居るし、滅多に出て来ないのだが、ツッパリや、その下位存在である下っ端にちょっかいを掛けた相手がいると、必ずと言っていいほどやってくる。


 そうなれば、国中の兵士をかき集めての全面戦争だ。

 そんな事になりゃさすがの王女であるネッテ嬢がいても、このパーティーは解散、下手すりゃ死刑もありうるくらいだ。

 何せ一歩間違えれば王国崩壊レベルの大災害に発展するからな。


 できるなら、不干渉を貫きたかったが、ツッパリは警戒したのかお嬢のパーティーにメンチを切ってきた。

 ここで目を逸らして平伏ポーズをすれば、彼らは満足して去っていく。余程腕に自信が無ければ大抵そうやって危機を逃れるのが冒険者のやり方だ。


 だが、ここでアルセが暴走しやがった。

 勝手にツッパリに向って行ったのだ。

 といっても、楽しげに向って行っただけで何をするでもなく笑顔で対面してただけ。むしろツッパリの方が耐えきれなかったようで、目を逸らして帰って行った。


 しかもそんな負け犬の背中に笑顔で手を振り、ばいばーいっとでも言うようなジェスチャーを入れられれば、さすがにツッパリといえども泣きながら走り去るなんてことになっていた。

 闘うことなく勝っちまいやがった……


 魔物の強さってなんだろう? 俺の常識がまた一つ、音を立てて逝った。

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