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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのお嬢様に護衛が必要なのかを彼らは知らない
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その存在無効の存在を、彼は知らない

 空には半月が浮かんでいた。

 神々しくも優しい銀光を降り注ぐアーモンド形の月は周囲の星々を照らしている。

 天の川のように連なる星が蜂の巣状に広がっている場所があったり、赤い銀河団が見えたりする星空だ。

 上を見て眺めているだけで数時間くらい潰せそうな気がする。


 こうやって空を見上げると、夏の大三角も冬の大三角も見えない。

 北極星など真上には存在していないし……いや、あるな。十二個の眩い星の中央に死兆星かと思える程に光の弱いのが一つ。

 これはアレか? 十二星座ならぬ十二星か。北極星中心に睥睨する十二の星々が我等を見下ろしているのだ。みたいな伝説が?


 そんな星空を見ていると、不意にカインが草原の上に寝転がる。

 腕を枕代わりにして空を見上げる。

 ソレを見て、ネッテがクスリと笑みを漏らした。


「あの頃は……ホント若かったな」


「今でも若いわよカイン。でも、本当に、物怖じしてなかったわよね。勇者相手に啖呵切って、私を無理矢理奪い去って。あの時の言葉、今でも覚えてるわ」


「恥ずかしいだろ。忘れてくれ。あの頃はお前が王女だとか知らなかったしよ」


「そうね。お前は一生、俺が守るとか。普通に愛の告白だもの」


 やっぱりこの二人出来てたんじゃないの?


「まぁ、直後に私王族なんだけど。とか言われて焦ったな。不敬罪で死罪とか。勇者から奪ってこれ破滅フラグじゃねぇのとか」


「カインの顔、一気に青くなったものね。ふふ。あの時から、二人で頑張ったわね」


「ああ……本当に。幾つものダンジョン入って、勇者になって……気付きゃこんなに仲間ができてた。思えば遠くへ来たもんだ。とか言えりゃいいんだが、むしろ原点戻ってきたな」


「ええ」


 ネッテは答え、カインの真横に寝転んだ。

 二人して星空を見上げる。


「カイン……もしかしたらなんだけど。王子との婚約、無くなるかも。そしたら……?」


 なんか凄いこと言いそうなネッテだったが、ふと横を見ると、カインが目をつむり、規則正しい寝息を立てていた。

 なんちゃって勇者ぁ……なんか、ごめん。僕が泣きそうだ。


「はぁ。全く。気が利かないわね毎度毎度。危機には颯爽登場してくれるのに、大切な場面だけ居ないんだから。ねぇ、名も知らない透明人間さん」


 上体を起こしたネッテ。

 その言葉に、僕はびくりと反応した。


「いるんでしょ。リエラから聞いてるわ」


 リエラから?

 僕は恐る恐るネッテの背後に近付き、彼女の首を動かし肯定する。

 存在が確認出来たのだろう。ネッテはクスリと笑みを漏らした。


「ずっと、居たのね。初めは信じてなかったけど。ずっと、アルセを守っていたんでしょ?」


 ずっとって訳じゃない。僕がアルセと出会ったのはカインとネッテがアルセに出会う少し前だ。

 もしも少しでも出会わなければ、きっとアルセは彼らに狩られていただろう。


「今まで皆を守ってくれてありがと。それと、できるなら、これからも彼らをよろしくね」


 彼らを? 言われるまでも無いけど。まるで自分の代わりに頑張れとでも言いたい感じだねネッテ?


「皆には問題無い。みたいに言ってるんだけどね。私の婚約者、どうも別の女性に入れこんでるみたいなの。新米冒険者らしいんだけど……あり得ないとは思うんだけど婚約破棄、されちゃうかも。そしたら……きっと国同士の戦争になるし、私は別の誰かに嫁ぐことになる。政略結婚で、だから、多分もう冒険者は続けられそうにないの。前のカインが私をそんな危機から救ってくれたけど。きっと二度目はないわ」


 儚げに笑うネッテ。カシャ

 ってこら。CG激写、ここで仕事するな。気が殺がれるっ。


「これがメリエのせいかどうかは分からないし、彼女のせいだとしても責める気はないわ。だから、このパーティーを、これからもよろしく。ううん。解散しちゃっても。リエラたちをよろしくね」


 もしも僕が、何かの物語の主人公であれたなら、気のきいた台詞の一つや二つ。ネッテに告げられたはずなんだ。

 それこそカインみたいに、お前だってパーティーだ。僕が守ってやる。くらい。言う事だってできただろう。


 でも。僕にはその資格はない。

 だって、僕の声は誰にも聞こえないから。

 僕はこの世界に存在を許されないバグなのだから。


 でも。だからって、諦める訳にはいかないよ。

 それに、ネッテが本当に別の人に嫁ぐことも、婚約破棄されるかもしれないことも確定はしていないんだし。ましてカインのパーティーから抜けるなんて決まってないんだから。


 僕に何が出来るか分からないけど。カインもネッテも、アルセ達から離れて行くようにはさせやしない。

 誰にも認められなくても良い。僕は影から守るんだ。

 アルセを守る様に、このパーティーを……守りたい。

 夜空に流れ星が一筋流れた。


 僕は願いを込める。

 前の世界で行ったように。

 流れ星が消える前に、願いを三度。唱えきる。


 そう。パーティーを壊す能力があるのなら、僕のバグ力で、その力を破壊してやる。

 アルセ達は、バラバラになんてさせやしないんだ。

 小さな闘志を胸に秘め、僕は大空を見上げるのだった。

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