その旅の同行者を、僕らは知りたくなかった
翌日、朝早くから僕らは南門へと集合していた。
リエラは前日に一度実家に戻って遠征の話をして来たのだという。
資金繰りは潤沢なので、実家が彼女が居なくなって困ることは無く、寂しいけれどあなたのやりたいことをして来なさいと送り出されたリエラ。
別にコルッカで学生になりたい訳ではなかったが、これでもう退路が断たれたとも言える。
泣きそうな顔で宿に戻ってきた彼女の顔は、やはり土気色だった。
最近はよく胃を押さえているので、おそらく胃炎になってると思われる。
回復魔弾時折打ち込んでいるから適度に回復してるだろうけど。回復追い付いてないようです。
で、昨日のうちに旅支度は終えてあった。
カインたちは全員に魔銃を装備し、魔弾を買い漁り、幼女の笑顔で神父さんから回復魔弾と状態回復魔弾を買い溜めした。
そう、全員だ。魔物たちにまで買い与えたのである。
にっちゃうも欲しそうにしていたので、やっすい奴を買い与えてあげていた。
今は頭の上に銃を乗せて楽しそうに揺れている。
なぜ、落ちないのだろう。不思議だ。
カインは白銀の胸当てとシルバーグリープ。リエラは白銀の胸当て、葛餅はアルセソードを身体に突き刺し、体内には魔銃と弾丸が10発ずつ。彼には火炎弾や氷結弾の方も分け与えたらしい。
後はアニアが銃を手に入れたけど重かったので僕のポシェットのこやしになってるくらいだろうか?
朝靄の漂う中、既に馬車で待機していたフィラデルフィラル家はメイドのマルセイユさんが門前で待っていた。
馬車の中にはアメリスとにっちゃんが眠っているらしい。
僕らが辿りつくと、マルセイユさんがふかぶか礼を行った。
「皆さん、それでは本日よりよろしくお願いいたします」
「はい。それで、そちらの馬車は?」
「さぁ? おそらく別の家の馬車では?」
ネッテが代表して聞いたのは、朝靄に見え隠れしながらも存在する、フィラデルフィラル家以外の馬車である。
その護衛に付いているのは、見覚えのある人物だ。
一つ目の馬車にはゴードン・ダンデライオン。
こちらを見付けてよぉと片手を上げた。
「なんでぇフィラデルフィラルの嬢ちゃんもコルッカ行きか」
「これはダンデライオン家のゴードン様。お嬢様は今お休みのため、申し訳ありませんがメイドの私めがご挨拶させていただきます」
「構わねぇよ。今日は娘と孫が同時にコルッカに行くことになってなその護衛だ」
「ゴードンさん、同時って?」
「おうリエラの嬢ちゃん。何、俺の娘と息子が作った息子が同い年でな。今回のコルッカで行われる試験に向わせるのさ。幾つもの学校が同時受験だからな。娘は貴族学校、息子は冒険者学校だ」
この場合、息子さんの子供の成長が早いのか、この年で娘を作ってるこのおっさんがハッスルなだけなのか。
取り合えず、栄えてますねとだけ言っておこう。さすがダンデライオン家。この国有数の貴族様は成す事が違うらしい。
「なんだよまたお前らと顔合わせか」
ゴードンさんと話していると、逆方向からは赤き太陽の絆の面々が現れる。
アレン・ボルダートがよぉと片手を上げて近づいて来た。
「お互い貴族様の護衛か。目的地は一緒だし、今回はよろしくな。俺らの護衛はガルレオン家だ」
ああ、フィオリエーラさんとこの。というか、あの人コルッカ行く必要あんの?
「おや? フィオリエーラ様は既にコルッカには向っていたかと思いますが? 貴族学を学び終えたのでは?」
「ああ、今回は妹さんの方らしい。すげぇよ。あの年で人を顎で使いやがんの。将来恐ろしいぜ」
「ちょっとアレン! 何をなさってますの!」
と、なんか子供のキンキン声が聞こえて来た。
「あー、お嬢様がお呼びらしい。悪いが先に出発させて貰うぜ」
「あら、折角会いに来たのにもう行かれるの?」
と、アレンと入れ違うように朝靄から現れたのはモーネットさんだ。
彼女たちも貴族の護衛らしい。
「なんでぇ。嬢ちゃんたちもか」
「ええ、正直辟易してますが金払いはいいのでお受けしました。デルンデア家のおぼっちゃんを護衛する事になってまして」
「ああ、あそこの豚小僧か、気の毒にな」
どうやら、モーネットさんたちは貧乏くじを引いてしまったらしい。
同情するようなゴードンさんの言葉に溜息吐いて、モーネットさんは一度だけメリエに視線を向ける。
「まぁ、どちらが気の毒かという話もありますが、仕事ですから。親御さんからは不埒なことをしたら適度に罰して構わないという言質だけはとりましたので、それが気休めですかね」
「まぁ、なんだ。何かされたら俺に言え。現役は退いてるがデルンデア一つ潰すくらいなら訳無いからな」
この人は敵に回してはいけない。そういう人物を発見しました。
ゴードンさんには絶対に敵対しないようにしようと思います。
アルセに危害加えるようならその限りではありませんがね。




