その被害の意味を彼らは知らない
ある程度手伝いが済んで、根菜の一つをアルセに持たせてお婆さんのもとへ行くと、根菜を洗って手渡してくれた。
そいつに一度かじりついてみる。
物凄い硬いし、苦い。これ、本当に食べられるのか?
歯形がついた根菜を見て、アルセもそれにかじりつく。
うわっ。普通に食べやがった。バリボリ言ってるぞ、大丈夫なのか?
アルセはそのままゴクリと飲み込んでしまう。
「う、美味いかアルセ?」
僕の言葉はアルセには届かない。
けれど、アルセがまた一口食べるのを見て、ああ、魔物には美味しいのか……と納得してしまった。
どうやら味は気に入るくらいには美味しかったようで、二口、三口と食べていく。
その歯型がついた根菜を見て、僕はふとある事に気付いた。
それに気付くと、今まであった違和感が一つに繋がった気がした。
これは大発見なんじゃないだろうか? おそらくこの世界じゃ殆ど知られていないことじゃないか?
そんなことを発見した。と思うと僕はテンションが上がって来た気がする。
カインたちにさっそく知らせよう。とアルセをどう動かすか考える。
そうしてアルセを見ると、丁度根菜の恨めしそうな顔に口を大きく開いて近づいていた。
あ、ダメだアルセ、顔は、顔の部分は食べちゃダメっ!
あ、ああ~……あ~あ。スプラッターだ……
「お、アルセ、何食べてんだ?」
どうやらカインが帰って来たらしい。
アルセが美味そうにかじりつくのを見て、興味を覚えたのだろう。
ひょいとひったくってかじりつく。
「ああっ、何食べてんですかカインさんっ」
遅れてやってきたネッテとリエラが根菜を見て走り寄る。
自分たちも食べたいらしい。しかし……
「まっずッ!?」
一口かじって思わず呻くカイン。
吐き出された根菜が地面に落ちた。
心なし根菜の顔がさらに恨みがましくなった気がする。
その顔もすでにほぼ半分失われているのがまたなんとも……
「何だよこれッ」
「ありゃ、おまえさん、魔物用の餌食っただか」
カインの声に気付いたお婆さんが寄ってくる。
「餌ッ!?」
「え、これ……食べ物じゃないの?」
「これから砕いて餌にすんだぁ。テイムした魔物の餌やらサーカスに卸すんだ。人間が食べて食べれんこたぁないが、まずぅて食べれんだろ?」
カインは無言のまま、アルセに根菜を返す。
「ぷふっ、魔物の餌食べてるしっ」
「うるせぇネッテ。と、とにかく目撃情報とかはあったか?」
「ええ。ここ以外にも幾つかの畑でね。どうやらあそこに見える森の奥に住処があるみたい」
「結構広範囲に被害が出てました。あっちの畑は二日前、そっちのは一日前、一度襲撃した畑には今のところ二度目の襲撃はないみたいです」
ずいぶんと変わってるな。本当に野獣のような奴らが荒らしに来てるのか? 話を聞いてると、まるで一所に被害を出しすぎないように盗みをしているような……
やっぱり、僕の推論は正しいのか。よし、行くぞ!
僕は、アルセを操って全員に見えるようにアルセの持つ根菜を見せつける。
「ん? どうしたアルセ?」
アルセの腕を操り、先程アルセがかじった部分を指す。
さらに、お婆さんが集めた根菜の束を指す。
「何? もっとほしいの?」
リエラ残念。見当違いだ。
「いや、違うだろ……ネッテ、分かるか?」
「うーん……」
ダメか。どうしたらこの推論を伝えられるのか……
あ、そっか。
かじった根菜をカインに預け、アルセを操り土付きの根菜を一つ持ってくる。
カインから根菜を受け取り、アルセの両手で比べるように持って見せる。
「何してんの……」
「……もしかして」
ネッテは何かに気付いたようで、積まれた根菜のもとへと駆け寄ると、その一つ一つを確認し始める。
全て確認し終えると、畑の確認。
収穫時期に達していないものしか残っていないのを見て、神妙な顔で戻ってきた。
そう、未だに未成熟な物も、収穫可能になった魔物にとって一番おいしい根菜も無事な事実に、彼女は気付いたのだ。
「あの、お婆さん、一つ聞きたいんですけど」
「なんじゃいね?」
「被害にあった根菜って、どのくらいの被害がでてますか?」
「んー、それがな、全部傷もので金にならんもんばっかなんじゃ。実質的な被害は出とらんが、毎夜集団でこられると怖いじゃろ? みなで金出し合って賞金をかけたんだぁ」
それって、オークたちが傷ものを選んで盗んでるってことか?
また律義な魔物だな。
「それって、オークたちが不要なものを選んで……いえ、まさかそんなわけ……」
どうやらネッテも僕と同じ結論に達したみたいだけど、なぜか被りを振ってその答えを否定する。
多分、魔物には知能がないというのがこの世界の認識なんだと思う。
だから考えには浮かんでもそれが現実として認めることなど出来ないのだろう。
僕のいた世界じゃ人間以外でも結構頭の回るヤツいたからなぁ。
サルとかカラスとかイルカとか。
「とりあえずよぉ、居場所は大体わかったんだろ。行こうぜ」
「そうです。早く退治してミクロンさんの話でも聞きに行きましょう」
未だ考えを巡らせていたネッテは、二人に急かされ、仕方なくオーク捜索へと向かう事にした。
ああもう、もうちょっとでネッテが何か思い付きそうだったのに。




