そのステッキがどうやって飛んだのかを、彼らは知らない
「フオオオオオオオオ!!」
怒りと共に蹴りつけるロリコーン紳士。
メニスはこれをハンマーで受け切る。
敵の強さは番長並みだろう。
今の僕らなら十分対処可能だけど、問題はハンマー投げだ。
一斉に投げられたら少なくないダメージを受ける。
一撃で死んでしまう可能性もあるし、避けたはいいけど狼モドキへの隙に繋がると大問題に発展する。
まぁ、メニスが指示出しを止めたので各々独自に動きだしたスマッシュクラッシャーたちは大木槌を抱えた肥満体の男のように短い脚を動かしちょこちょこ動き始める。
カインが追い付き、スマッシュクラッシャーの一体に突撃した。
「ラ・グ、ラ・ギ」
ネッテの援護も始まった。
二体のスマッシュクラッシャーがキューキューと鳴きながらじたばたする。
残念。丁度鎚を持っていない個体に当ったようだ。
一体は炎が尻尾に灯り、泣きながらあっちへ走り、こっちへ走りと慌ただしく動きまわる。
もう一体は電撃で痺れてその場に倒れ伏し、円らな瞳でキューキューと鳴いていた。
「フロ・ストラッ」
「真空波斬」
ネッテとカインが同時にスキルを使用する。
スマッシュクラッシャーの群れに氷結魔法が襲いかかり、別方向にはかなりのスマッシュクラッシャーを巻き込む衝撃波が襲いかかる。
「キューッ!」
「フォォッ!!」
気が付けば、真上からハンマーを打ち下ろしたメニスと半裸になった変態紳士がハンマーを受け止め拮抗していた。
いつの間におはだけありました?
彼らはしばらくあのまま放置でいいだろう。
あ、アルセ、良かったらあいつ応援してやって。
あんなのでも今負けると困るから。
大丈夫、興奮しだしたら僕がトドメ刺しとくからさ。
「浮沈撃!」
リエラは狼モドキ相手に技を試している。
余裕があるように見えるのは、周囲の危険を葛餅が倒しているからだ。
彼女は葛餅が見てくれてるので安心だろう。
スキルも少しずつモノにしてるみたいだし。
見当違いの方向に飛んで行く狼モドキだが、一応空は飛んでいる。
電撃を纏わせるライジング・アッパーにはなってないけど、アッパースイングは出来るようになったらしい。
浮沈撃は一度しか続かないけどね。
あ、珍しい、バルスが狼モドキ倒した。
僕が見てる中では敵倒したの初めてじゃない?
さすがにそうでもないか。でも殆ど活躍してるの見てないよバルス君。
君は恐怖に飲まれて漏らしてるくらいしか記憶が……
そんなバルスが一体の魔物を倒す頃、その周辺に炎が吹き荒れ、ユイアが無数の狼モドキを屠っていく。
彼女はバルスのフォローだけは手慣れているらしい。
彼が気付いていない脅威を即座に判別して撃破して行く。
御蔭で一対一の状況に持っていけてるバルスは、しかし彼女の功績を気付いてないようだ。
ネフティアは今回一人突出はしていない。
アニアの補助を受け、殿中でござるたちと共闘しながら一匹一匹確実に切り裂いていた。
アルセソードが扱いにくいらしい。
彼女の武器は今まで工具だったからね。
というか、この世界にアレあるんだろうか? 一品モノのような気がします。
今度絵を描いて武器屋のおっちゃんに見せてみよう。作ってくれるかな?
説明が難しいからリエラと一緒に行ってみよう。お手数掛けるけど、頼むよリエラ。
そんなリエラの後ろには、少し凛々しげに飛び跳ねるにっちゃう。
まるでここから先は通さないという気迫だけを前面に押し出し、「にっにっ」と飛び跳ね続けている。
僕、なんかにっちゃう可哀想になってきた。
攻撃能力持たないのに果敢に仲間の役に立とうと飛び跳ね続けるウサ達磨。
気概は買うけど実際は何も出来てないからね……
ふと、僕は気付いた。
おじゃるとかござると叫ぶ男達の間に、黒いステッキが地面に置かれている。
これは……ロリコーン紳士のステッキじゃん。
隙を見て拾い上げた僕は、苦戦中のロリコーン紳士に目を向ける。
よし、ちょっとだけど手伝おう。
受け取れロリコーン紳士、これがお前の新しい武器だッ!
白髪のお爺さんが出来たてパンを投げるように、弧を描いて投げられたステッキ。
初めに気付いたのはメニスだ。
キュ? と首を捻って直ぐに気付く、が、ハンマーで固定されたメニスは動けない。
そんなメニスの身体に投げられたステッキが当る。
ダメージは無かった。
しかし、ロリコーン紳士は直ぐに気付く。
それが自分のステッキだという事に。
そして、誰が投げたのかと背後を見た彼が見たのは……
こちらに笑顔を向け声援を送る緑の少女。そして、心配そうに見つめるのじゃ姫だった。
幼女が見ている。幼女に応援されている。幼女が私を、待っている!!
「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
苦戦気味だったロリコーン紳士が一気に巻き返した。
ぐぐっと持ちあがりだしたハンマーに驚くメニス。
そんなハンマーを真横に投げ捨てるロリコーン紳士。
自由になった身体を捻り、転がりながらステッキを掴み取る。
立ち上がった紳士は厳かに告げた。
そろそろ、本気行きますよ。




