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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その番長に狙われていることを彼は知りたくなかった
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その一騎打ち激しさを、僕らは知らなかった

「く、クーフさんっ!?」


 助かった。といった顔をするバルスに代わり、裏番長と対峙するクーフ。

 柩を投げ捨て巨人殺しを大地に突き刺し裏番長を睨む。

 あら、これはまたいい筋肉をお持ちで。と、裏番長が恋する乙女のように顔を赤らめた。


「悪いが貴様等の趣味に付き合う暇は持っていない。細切れになりたくなければ迅く去ね」


「おるぅあ♪」


 あら、可愛らしい事を言ってくれるのね。こちらこそ悪いけど、私の趣味に付き合って貰うわ。そのまま私と突き合って!

 そんな言葉と共に身をくねらせる裏番長がクーフへと襲いかかる。

 クーフも柄を握り、大剣を振り上げた。


「オルァ!」


「フンッ」


 突撃する裏番長。

 しかし、あまりにもリーチが足りなかった。

 しっかと踏み込んだ足に力を入れて振り降ろされた大上段の一撃を、彼は避ける事すら出来なかったのだ。

 二つに裂かれたツッパリが大地に倒れ伏す。


 その姿を見て、クーフは黙祷を捧げる。

 もともと裏番長が生まれなければ闘う必要のなかったツッパリの一人なのだ。

 本人たちも裏番長に成りたくて成った訳じゃないはずだ。


 とにかく、これで裏番長はロドリゲスを残して全滅した。

 僕は彼らに視線を向ける。

 丁度、辰真が小さくオルァと呟いたところだった。


 よぉ、ロドリゲス。仲間は全滅したようだぞ?


「オルゥア」


 問題無いわ辰真さん。あなたを降し、あなたの全てを奪えばそれだけで。後は放っておいてもあなたが増やしてくれるもの。

 今、私がやりたいのはあなただけ。さぁ、始めましょう。 


 互いに闘気を込めて行く。

 張り詰めだす空気。ようやく人心地ついたパーティーメンバーたちが見守る中、辰真とロドリゲスが互いに拳を握り、戦闘態勢へと入る。


「「オルァ!」」


 双方同時に地を蹴った。

 激突、衝撃。拳同士が穿ち合い、周囲の地面が抉れ飛ぶ。

 一瞬の静寂。

 同時に回転蹴りからの右足がクロスする。

 地面がさらに陥没した。


「「オルラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」


 次第速度を上げ始める攻防。

 もはや人が闘える領域なのかと思える程の頂上決戦が今目の前で繰り広げられていた。

 拳の掠った頬が、足が掠めた腕が、切り裂かれたように血を噴きだす。

 双方切り傷が無数に付きだすが、致命的な一撃は全くと言っていい程貰わない。


 実力は完全に拮抗している。

 まさに魔王同士の闘いだ。

 むしろ周囲の地面が耐えきれずに所々が抉れ飛び、クレーターへと変貌して行く。

 木が折れ、草が消し飛び茂みが消失する。


 裏番長の渾身の蹴りをガードした辰真が吹き飛ぶ。

 背後の木を叩き折り、無数の木々をなぎ倒し、勢い殺して地面に着地。

 直ぐに地を蹴り裏番長へと向って行く。


「オルゥア」


 さすがね辰真さん。さすが私の魅惚れた漢。素敵よ。


「ゴルァ」


 黙れゲス野郎。テメェは俺がぶちのめす!


 再び拳同士が激突する。

 さらに苛烈に、強烈に、周囲を震撼させる闘いは徐々にヒートアップし始める。

 止める者は皆無。邪魔するモノは何も無い。

 互いが譲れぬ一線を守るため。漢総長、辰真の拳が振り抜かれ、裏番長ロドリゲスがカウンターを打ち放つ。


 辰真に拳が激突するその刹那。

 辰真の頬が不自然に拳に撃たれた。

 パンチ殺し。相手の攻撃の威力をタイミング良く削ぎ殺す技だ。


 これにより体勢を崩された裏番長。

 しまった。といった顔をしたが、直ぐにその顔面に辰真のヤクザキックが埋まった。

 よろける裏番長。これぞ好機とばかりに辰真が畳み掛ける。


 ラッシュ、ラッシュ、猛ラッシュ。

 恨み辛みを全て打ち出すかの如く、裏番長を翻弄して行く辰真。

 爆殺アパカが裏番長の胴を穿つ。

 屡終龠朧るしゅふぇる夜露死苦よろしくな。辰真が彼に聞こえる程度の声で告げる。


 背後を振り向き、終わりだとでもいうように立ち去る辰真。

 だが、「おるぅあ」。裏番長はニタリと笑い、辰真を背後から抱き締める。

 オルァ!? と驚く辰真と共に、裏番長が破裂した。


 爆殺された。と思ったが、アレはゲームで言うエフェクトみたいなものだったらしい。

 爆発が終わった先には、爆風に吹っ飛ばされた辰真が二転三転、うつ伏せで倒れる。

 そして爆心地の中心に、ロドリゲスが立っていた。

 満身創痍ながらもよろめいて歩き、こちらも満身創痍で上半身を起こそうとする辰真に近づく。


 テメェ、しぶとすぎだろ。

 あなたを求める執念が私を動かしているのよ。

 そんな会話と共にロドリゲスが辰真のもとへと辿りつく。


 今の状態だけ見ると、ロドリゲスに敗北する辰真の図が完成していた。

 手を、出すべきだろうか?

 これは不味いぞ。


 ロドリゲスがアイアンクローを行うため、辰真の顔に腕を伸ばす。

 震える腕で立ち上がろうとしていた辰真はソレを見上げ、悔しげに顔を歪めた。

 私の勝ちね。そんな声が聞こえたその刹那。


「「「「「「オルァァッ!!」」」」」」


 辰真さん、そんな奴に負けんなッ! 無数の声が、森に響き渡った。

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