そのカオスという名の悪夢を、僕は知りたくなかった
アルセが種を撒く。
即座に芽吹いて行く玉葱を頭に乗せた小型アルセ。
はい、アルセギン出現しました。
戦場を駆け廻り始めるアルセギン。
目の前の裏番長もこの攻撃は予想外らしく、笑顔で走りまわるアルセギンたちを見ながらうろたえている。
この子供たちは一体!? ここは漢たちの戦場よ。戦力外は家に帰りなさいっ。
そんな言葉のオルァが漏れたその刹那。
一体のアルセギンが彼に突っ込んだ。
思い切り胸に飛び込んだアルセギン。
反射的に剛腕で抱きしめ背骨を折る裏番長。
刹那、アルセギンが弾け飛ぶ。
「ごるぁああああああああああああああああああああああっ!?」
ああ、無残。
なんだこのカオス?
アルセギンは無数の裏番長にブチ当たり、その身体を弾け散らす。
一部殿中でござるが目を押さえて悶えていたり、ロリコーン紳士が自分が守れなかった幼女たちを見て崩折れていたりしたけど、敵の戦力はだいぶ減った。
とりあえず、今のうちににっちゃうは回収だ。
アルセと共に後方へ退避。
にっちゃうが相対していた裏番長には殿中でござるたちが殺到した。
蹴鞠が飛びかい丁髷砲の砲弾が乱れ舞う。
無数の属性魔法が入り乱れ、アルセギンが駆けて行く。
裏番長たちにより殿中でござるが空を飛び、無礼でおじゃるが濃厚なキスに見舞われる。
そんな中をチェーンソウを持ったネフティアが駆け抜け、無数の剣撃が鳴り響く。
まさに混沌。
あまりにも意味不明な戦場を、僕はアルセとにっちゃうと共にただただ眺めていた。
地獄絵図? ある意味地獄絵図だ。
あ、ほらまた。今度は無礼でおじゃるが吹っ飛ばされている。
「おじゃるでござるのじゃー!」
のじゃ姫がさらに人数を追加してこちらへと戻ってきた。
僕らに合流すると戦場を見て呆然とする。
今までこの惨状には気付いてなかったらしい。
それにしても、辰真とロドリゲスはなぜ動かない?
互いに見合ったまま微動だにしていないのだ。
ただ、視線で何かを語りあっているようには見えるんだけど、距離があり過ぎて言語理解が効いてない。
「凄いわね……こんな闘いゴブリン戦以来だわ」
ふと、僕らの隣に一人の少女がやってきた。
凄い服装だ。ゴシックロリータというのだろうか、ワインレッドの服を着て、蝙蝠傘を差した片目に眼帯をした少女。
コスプレイヤー? と思える程の盛り様である。
白銀の髪はツインテールになっており、小型のシルクハットみたいな帽子が付いている。
斜めに付いているのに落下する気配が無いのが凄い。アレはああいうアクセサリーですか?
「初めまして、ジェーン・ドゥですわ」
ジェーン・ドゥって確か外国の方で名無しさんって言う意味じゃなかったっけ? 男性はジョン・ドゥ、女性がジェーン・ドゥって呼ばれてた気がします。
「戦乙女の花園で魔法使いをしていますの」
どこからともなく取りだしたカップに口付け、優雅に何かを飲むジェーン・ドゥ。
魔法使いなら魔法使って援護してやってください。
というか、一人減ったの気付いてないのか戦乙女の花園……って、なんかどこからともなく手裏剣が飛んでフォローしてるっ!?
「実は今回のパーティーには七人いまして、魔力回復中はああやってもう一人がパーティーに入って下さるのですわ。わたくし、魔力が回復するまで見学ですのよ。あ、コレマジックポーションですの。あなたもいかが?」
と、もう一つ取りだしたカップを僕に渡して来る。
思わず受け取り、ん? と彼女を見た。
気にした風も無くマジックポーションを飲むジェーン・ドゥ。
えっと、これ、僕のこと、気付いてる?
「あら、アルセさん飲みませんの?」
違った。アルセが超能力か何かで空間に固定してると思っているようだ。
紛らわしいな全くもう。もう。普通に気付かれたのかと思ったじゃないか。
仕方ないからアルセにマジックポーションを飲ませておく。
って、これ本当にマジックポーションか!?
アルセのつぼみが動きだしたぞ!?
アルセの頭の上の植物がまるで意思を持ったかのようにのたうちだした。
これ、大丈夫なのかな?
「ジェーン、そろそろいい? こっちは限界っぽいんだけど!」
鱗の生えた女の子が叫ぶ。
あら、御免遊ばせプラムさんとばかりに優雅に歩いて行くジェーン。
その周囲に生まれる火炎弾がバレットの如く裏番長へと飛んで行く。
あの、アルセの頭の上がダンシングなフラワーみたいになってるんだけど、これ、大丈夫なの? ねぇ、ジェーンさん、これ大丈夫なの?
そしてアルセは、MP回復・小と魔力回復血液を手に入れた。
アルセの血を飲むと死者が復活して魔力も回復するらしい。生体エリクシールにでも成るつもりかいアルセさん?




