その裏番長パニックを、彼らは知りたくなかった
「オルァ」
行こう、皆。
そんな言葉と共に、総長が歩きだす。
友の死に、漢はついに立ち上がったのだ。
カインたちも頷き合う。
全員、既に回復を終えている。
回復魔弾が無い状態だが、回復魔法を持つ者は何人も居たのだ。
戦乙女の花園メンバーはその全員が回復持ちであり、これが彼女等の強みでもあった。
「ねぇ、カイン、私思ったんだけど」
「どうしたネッテ?」
「ツッパリ、確かゴブリン討伐戦の際80人くらいいたわよね?」
……そういえば。そしてこの湖に残っていたのは二人だけ。番長を入れても三人だ。
倒れているのは……七人かな?
では残りの七十人は?
「これ、アルセが魔物図鑑に登録してたみたいなんだけど……このスキル見てくれる?」
「私に全てを捧げなさい? ……お、おいおいおい。何だこりゃ!?」
悪夢は、確かにまだ、始まったばかりかもしれない。
起き上がったツッパリの案内でツッパリたちが避難した先へと案内して貰う。
キスを喰らったツッパリの方は精神的ダメージのせいか下っ端に存在退化してしまったが、こればかりはどうにもならない。仕方ないので彼にはここに留まって貰い、倒れたツッパリたちの世話をしてもらう事にした。
避難先か。そこにどれだけの裏番長が居るのかはわからないが、やるしかない。
あんな化け物を何度も倒さないといけないのか……死ぬぞ僕ら。
だけど、僕の不安は杞憂だった。
向った森の中から現れた裏番長の一体、なんと総長やエンリカの参戦無くロリコーン紳士だけで倒してしまったのである。
弱い。先程の裏番長と比べると、明らかにランクダウンしていた。
ロリコーン紳士が強くなったという訳じゃない。
そして、倒した裏番長は番長ではなくツッパリに戻った。
どうやら、裏番長になっても実力はピンキリらしい。
たぶん、裏番長になる前の存在によりどれだけ強くなるかが決まるようだ。
僕らが相対したのは元番長の個体だったから総長並みの強さになっていた。それを相手にした僕らからすると、ツッパリが裏番長になった個体はそこまで強いと思えないようだ。
実力的には、多分番長クラスだろう。
裏番長になると一ランクアップした実力を持つようになるようだ。
「よかった。これなら苦戦はするけど倒せない程じゃないわ」
「最悪、俺らはフォローに回るしかないかと思ったけど、何とかなりそうだな」
「私達も、なんとか役に立ちそうです。パーティーで闘ってようやく一体といったところですけど」
モーネットさんたちもどうやらツッパリの裏番長相手なら自分のパーティーだけでも倒せるようだ。かなり苦戦は必至だが、番長単体を倒せる力はあるらしい。
僕らの方は個々の戦闘力が高い。
ネッテたち魔法部隊はさすがに一人で倒すというのは無理だが、エンリカ、ネフティア、ロリコーン紳士、そしてカインならば充分一人で戦える相手のようだ。
カインも今回は雑魚の部類に入るのか、画面外退去はしないようです。
苦戦は必至だが多分モーネットさんも一人で戦える実力ではあるはず。
他の面々のフォローがあるのでパーティー戦に入っているが、このメンツならある程度の団体が現れてもなんとかなりそうだ。
「さすがに分れてクーフを追うのは得策じゃねぇ。全員固まって移動するぞ。モーネットさんもいいっすか?」
「ええ。ここで分れろとか言われても断固拒否ね。固まって一網打尽の可能性はあっても、散開して生き残る可能性の方が低いし。セレディさんもそれでいい?」
「ぶひ」
セレディは少し悔しげに頷く。
エンリカの強さを目の当たりにしたせいだろう。
自分は彼女程の力が無いことに気付いたようだ。
必ず追い付く。そんな視線を彼女に向けていた。
「って、こらアルセ、言った傍から単独行動する気か!」
なぜかどこかに向おうとするアルセに目敏く気付くカイン。
しかし、ふと思い立ったように、アルセを止めずにその後を追い始める。
「全員、こっちだ。アルセがまた何かに反応したらしい」
いや、アルセを信じない方が良いよ。この子基本適当だから、カインの思うような結果は出て来ないと思うけど?
って、また出た!!?
目の前に出現したのは裏番長。
なぜ、ジョ○ョ立ちで出て来るの!? 怖いよ! ウインクしないで気持ち悪い。
「行くぞバズ!」
「ブヒァ!」
「こっちは任せて」
「ブヒッ!!」
カインとバズが同時に斬りかかる。さらにエンリカが突撃、負けじとセレディが突っ込んだ。
またたく間に退治される裏番長。カインとバズに斬られた裏番長が倒れる頃には、既にエンリカにより倒された裏番長がツッパリに戻っていた。
セレディも頑張っていたが、グラップラー化したエンリカのダメージはケタ違いだったらしい。
おかしいな。さっき対等に殴り合ってたのは気のせいか?
茂みを揺らし、アルセが顔を出す。
裏番長遭遇から少し、立ち止まったアルセに追い付いた僕が見たモノは……
空を飛ぶリエラが、地面に激突する瞬間だった――――
話、ようやくプロローグに戻る。




