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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その根菜の生態を彼らは知らない

 その町は、湖の畔を軸に築かれていた。

 通りを行きかう人は、先程の城下町より幾分劣るものの、人の波が途切れる様子はなくて、露店の賑わいもある。


「この町の郊外だったか」


「農村部なんでしょ、だったらあっちの方かしら」


「ほらアルセ、あんまり離れると迷子になるよ」


 カインとネッテが道を選んで先行する。

 それを追いかけようとしたリエラは、アルセが露店にふらふらと近づいていたのを見つけて駆け寄る。

 一応、僕が手を繋いでるから逸れる事はないんだけど……まぁいいか。


 リエラはアルセに追い付くと、アルセの左手を取って一緒に歩きだす。

 思わず離そうかと思ったけれど、僕もアルセと手を繋いだままでいる事にした。

 なんとなくだけど、こうして歩いていると新婚さんみたいで、なんというか……しばらく、やってみたかったんだ。

 リエラ、結構可愛いよなぁ。こんな彼女が居れば文句ないんだけど、残念ながら彼女作る以前に僕の姿見えないしなぁ。

 誰にも気づかれる事はないけれど、これぐらいの幸福感、味わってもいいよね?


 が、それがまずかった。

 アルセは何を思ったのか、僕とリエラの腕を支柱に、地面から足を離してぶらぶらと揺れ出した。

 まさかの出来事に僕もリエラも唖然とアルセを見守ってしまう。


 もし、これが両親に挟まれた子供なら、ブランコみたいに両親が腕を揺らしながら悪乗りしてくれるのだろうし、しょうがない子だなとかいいながら和気藹々の光景になるのだが、残念な事に、僕は誰にも見えない。


 結果的に、リエラの片手に捕まったアルセが空中ブランコを披露しているという、摩訶不思議な光景になる。

 さすがにリエラも、これには面食らったようで、アルセを見たまま固まってしまっていた。


 一瞬早く我に返った僕は、慌ててアルセの手を離す。

 即座に飛び退いた瞬間、今まで僕がいた場所に、リエラの手が迫る。

 あ、焦った。

 空を切るリエラの手を見つめながら、動悸が激しくなったのを確認する。


 いや、別にバレてもいいんだよ。

 僕の存在を認識してもらっても別にいいんだけどさ、やっぱり胸のこととか、ほら、今の親子のような歩き方を独りで楽しんだ事とか、なんか知られるのが恥かしいというか怖いというか。


 首を捻ってハテナマークを浮かべるリエラに罪悪感を感じながらも安堵の息を洩らす。

 急にぶら下がる事ができなくなったアルセは、そんな僕とリエラを不満そうに見回していた。


 まるで楽しかったのになんでダメなの!? と膨れているように見える。

 ちょっと可愛らしいけどダメなものはダメ。

 ネッテかカインにやって貰いなさい。


「おーい、何してんだリエラー」


「迷子になるわよー」


 グッドタイミングだお二人さん。

 カインとネッテに呼ばれ、リエラは首を捻りながらもアルセを引き連れて彼らに合流する。

 僕は、というと。リエラから少し離れて付いて行く事にした。

 さすがに、さっきの危機で近づくのが怖い。なのでアルセが不安そうにしているが僕は心を鬼にして背後を歩くことにした。

 なんか……ストーカーだよね、今の僕。




 町の郊外に辿りつくと、なるほど、農村部の被害はかなりの規模だった。

 いや、確かにブタっぽい足跡が幾つも付いているし、所々掘り返された跡があるのだけれど、農家の人々は普通に作業を行っている。

 腰の曲がったお婆さんたちが大根に似た何かを引き抜いている姿が見られる。


「じゃ、手分けして話を聞いてみましょ」


 というネッテの言葉で散開。カインとリエラが方々に散って行く。


「アルセはここで待っててね」


 近くで農作業をするお婆さんに事情を説明し、アルセの御守を任せたネッテは、カインたちの後を追うように立ち去ってしまう。

 仕方がないのでアルセと共に大人しく待つ事にする。

 でも、余りに暇なので、お婆さんの手伝いで根野菜の引き抜きを手伝うことにした。


 お婆さんに言われるようにアルセが行動することはなかったので、僕が身体を動かして一つ引き抜く。すると、それでやり方を覚えたアルセが楽しそうに引き抜きを開始したので、僕は離れて見守る事にする。

 うーん、しかし、なんだろうか、この大根に似た野菜は?


 なぜ抜くたびに悲鳴を上げる? というか、これが噂のマンドラゴラとかいう奴か。

 あの叫び声を聞くと死ぬっていう噂の……いや、でも大根のように白いし葉っぱとの付根は緑色だし。叫び聞いても死なないし。

 うわっ、でも顔がある。なんかすごい恨めしそうな顔が……


 そんな謎の根菜を、アルセは嬉々として引き抜いて行く。

 すごいなアルセのヤツ。

 僕は一回引き抜いただけでもう、生理的に無理なのに。

 断末魔の悲鳴がむしろアルセのやる気を刺激しているらしい。

 アルセ、意外とSだったんだな。


 でも……被害にあったにしては随分大量にあるな?

 なぜだろう? 普通、喰いかけのがあったり、もっと手酷い被害になっているんじゃ……掘り返されたといっても随分無事なものが見受けられる。というか、殆ど無事じゃないのか? 


 収穫した根菜はどう見ても売り出せるくらい大量に見受けられる。

 本当に被害があったのかと疑ってしまう収穫量だ。

 んー、聞いてみたいけど、アルセだけじゃ……ネッテ辺りならこの考えに答えを出してくれるだろうか?

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