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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その番長に狙われていることを彼は知りたくなかった
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その絶望のキスを、彼は知りたくない

 すっと踏み込むロリコーン紳士。

 ステッキが吸い込まれるように裏番長へと叩き込まれる。

 あまりにも速い。カインの千進突牙斬に匹敵しそうな百枝刺しを受け、裏番長の腹に赤い点が無数に付いて行く。


 しかし、それだけだ。

 多少のダメージにはなっているが、あまりに弱い。

 あいつの攻撃でもこの程度しか喰らわないのか!?

 下手したらゴブりんより強くなってないかこいつ。


 いや、実際強くなってるのだろう。

 なにせ、ついさっきまで無数のツッパリを気絶に追いやっていたのだから。

 経験値的な何かが溜まっているはずである。


 総長と闘っている。そのくらいの気概で臨まないとこいつには勝てない。

 ロリコーン紳士も気付いたのだろう。

 冷や汗を流しゴクリと喉を鳴らす。

 これは強い。かつて無い強敵だ。だが。そう、自分の背中には彼が勝つことを信じ見守る一人の幼女がいるのだ。


 負けてはいけない一戦がここにあった。

 幼女の観測者として、幼女の危機に戦闘能力が徐々に上昇していく。

 勝たねばならぬ。絶対に、ここを引いてはならぬ。幼女は全て、私が守る!

 そんな意思を眼光に留め、裏番長を睨みつける。

 くわっと開かれた瞳、威圧の魔眼が発動するが、裏番長は堪えない。


 両手を組んで後頭部に回し、局部を主張するように前に押し出しポージング。

 なんだろう、何処からともなくゴゴゴゴゴゴゴゴとか聞こえてきそうな気がする。どこのス○ンド使いですか?


 ヒュンヒュンとステッキを回し、相手を威嚇しながら徐々に距離を狭めるロリコーン紳士、一定の位置に近づいた瞬間、思い切り打ち込む。

 鳩尾を穿つ一撃。

 だが、代わりに膝蹴りがロリコーン紳士の身体を浮き上がらせていた。


 呻くロリコーン紳士から膝が引き抜かれたその刹那、頭上から両手の打ち下ろし。

 背中から喰らった一撃で地面に叩きつけられるロリコーン紳士。内臓が潰されたのか口から血が吐き出される。


「オルァ」


 あら、もうおねんね?

 そんな言葉を聞いたのじゃ姫が震える。

 嘘だよね? とばかりにロリコーン紳士に縋るような目を見せていた。


「のじゃぁ……」


 やはり焼死するしかないのかと、轟炎石を取りだすのじゃ姫。

 だが、それは幼女の危機だった。

 幼女の危機を、彼は絶対に見逃せない。

 休みたがる身体に鞭うつように、ロリコーン紳士は立ち上がる。


 その瞳には未だに闘志が満ち溢れていた。

 くわりと瞳を見開き裏番長を威圧する。

 幼女が、見ているのだぞッ!!


 さらに能力を上昇させたロリコーン紳士がステッキを振るう。

 先ほどよりも強く打ちこまれるステッキ。しかし、まだ足りない。

 裏番長は子供をあやすようにロリコーン紳士の顔面に、腹にと反撃の拳を打ち込んでいく。

 攻撃の当る数はロリコーン紳士が多かった。でも、一撃一撃のダメージは、裏番長に軍配が上がった。


 意識を刈り取られるように、ロリコーン紳士が膝を突く。

 そんな彼を、裏番長は両手で抱え上げた。

 趣味じゃないけれど……あなたの闘志、萌えたわ。これは、御褒美よ。


 はっと殺気を感じたロリコーン紳士に意思が戻る。

 その眼前に迫りくる分厚い唇。

 ロリコーン紳士が、多分生まれて初めてだろう悲鳴を上げた。


 彼にとっては、初めての口付けは幼女と。それが彼らロリコーンのアイデンティティなのだ。

 もしも、もしもそれが奪われてしまったら。それもこんなゴツく気持ちの悪い生物が相手だとしたら、トラウマは、おそらく彼を壊すだろう。

 そして、ショタコーンあたりが生まれるかもしれない。

 裏番長の唇が襲いかかるその刹那、


「ブヒッ!」


 背後に忍び寄っていたバズが、渾身の一撃を叩き込む。

 ただ、攻撃しただけでは弾かれる。ならば。

 裏番長のひざ裏に、バズは鉄鋼断の一撃を叩き込んでいた。


 ダメージは、おそらく殆ど無い。

 でも、振るわれたポールアクスによる一撃は、相手の体勢を崩すには最適だった。

 片膝が前に押し出され、バランスを崩した裏番長ががくりと重心を崩す。

 その一瞬の隙を、彼女は見逃しなんてしない。


 いままでずっと好機を窺っていた青白い肌の少女が走り寄る。

 スイッチが入るオリハルコンのチェーンソウ。

 ギュイイイイイイイイイッとフル回転してロリコーン紳士を持つ腕に向けて叩き込まれた。


 その一撃を、受け切ることはさすがに出来なかったらしい。

 裏番長の腕が宙を舞った。

 初めて、裏番長から悲鳴が上がる。


 さらに踏み込むネフティア。頭上から一撃を叩き込もうとしたその瞬間、掬いあげるようなアッパーカットがネフティアの身体を吹き飛ばす。

 ロリコーン紳士はその光景を、思わず見つめていた。


 自分を助けに入った幼女が、自分の守るべき対象が……宙を舞い、そして、枝葉に落下、ベキベキと幹を折り、地面に落下して行った。

 彼は、生まれて初めて自分の力の弱さを知った。


「フオ……フオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!」


 男の慟哭に、悪意の塊はニヤリとほくそ笑む。

 大丈夫、あんな女直ぐに忘れさせてあ・げ・る。

 悪夢はまだ、終わらない。

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