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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その番長に狙われていることを彼は知りたくなかった
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その二人の悪意を、彼は知らない

 殺意のコークススクリュー。

 ぎりぎりで躱すセレディ。頬をちりと掠った回転する弾丸に、セレディは不敵な笑みを相手に向けた。

 今のは危なかったわ。そんな鼻息を洩らし、エンリカを睨む。


「あら、さすがに強すぎた? 御免なさいね。いつの間にか拮抗しなくなったみたい」


 ニタリと不敵な笑みを向けるエンリカ。

 鼻息荒くするセレディ。

 怒りに震える女はさらに過激に拳を振り抜く。


 エンリカの顔面に突き刺さる拳。

 鼻が潰れたのか鼻血をぼたぼたと零すエンリカ、鼻骨を左手でコキリと直す。

 渾身の右ストレート。

 プギィと顔面に叩き込まれたセレディの身体が浮き上がった。


 倒れる瞬間、足を地面に付き、なんとかこらえ切る。

 こちらも鼻から血を流しつつ、更なる打ち合いに発展していく。

 もはや、この二人を止められる存在は……

 ピクリ、二人の耳が突如動いた。


 互いにクロスカウンターの格好で寸止めした二人は同時にリエラに走り寄る。

 突如突撃して来た二人に、驚くリエラを放置して、エンリカは魔銃を奪い、セレディが回復魔弾を二つ取り出す。

 カシャリと魔銃に入っていたラ・ギライア弾を抜き去り、回復魔弾を入れると、セレディ、そして自分にと撃ち込んだ。

 そしてリエラに魔銃を返して、何食わぬ顔で城の入り口に視線を向ける。


「ブヒ?」


 何も知らないバズさんとその一味が現れた。


「ネッテたちも無事ついたか。先に来てたぜみん……な?」


 笑顔で隣合うエンリカとセレディを見つめやってきたカインが絶句した。

 ネッテに視線を向けて話が違うじゃないかとアイコンタクト。

 ごめん、無理だった。

 いや、それで済む話じゃねェだろ。どうすんだよコレ!

 どうにもならないわよ。もう、私知らないっ。


 二人のアイコンタクトの結論は、放置。その一言に尽きる。

 成るように成れということらしい。

 そんな二人を放置してアルセのもとへとやってくるネフティアとのじゃ姫。

 三人して踊りだす。

 良かった、殺伐とした男女関係の中でも癒しはあった。


 僕とリエラと変態紳士は、円を描いて踊る三人の幼女に癒されるのだった。

 あはは、いんてりじぇんすにっちゃうもリエラに抱きしめられながら三人を見つめてるよ。癒されてるかい? 癒し系生物君。


 ユイアは気付いた。バルス君が二人の女の狂気に飲まれ、洩らしていたことに。

 人知れず自分のふがいなさに涙するバルスを連れて物蔭へと連れて行く彼女は、手のかかる弟を持つ姉のようだった。

 ついでに、僕らに気付いたモーネットさんが近づいて来て癒され隊のメンバーに加わった。

 

「ブヒブヒ」


 来てたのかセレディ。


「ブヒ」


 ええ。今は冒険者としてマイネフランにいるの。丁度この近辺に冒険に出ていたらネッテさんに会ったのよ。


「それで一緒にここまで付いて来たそうですよあなた。ああ、紹介するわねセレディ、バズの横に居るのが長女のバンリ。二人の名前を取って付けた愛の結晶よ」


「……ブゥ」


「そしてバズが抱えてる男の子、長男のエルク。エルフとオークの懸け橋になるようにと願って種族名から名付けたのよ」


 セレディが歯噛みした。唇が切れて血が滲んでいたが、バズさんは気付いていなかった。

 彼に見えないように、セレディとエンリカは背中越しに相手の背をつねっている。


「どう、私二児の母になったのよ。そろそろ三人目も妊娠してるかも」


「ぶ、ブヒブヒ」


 そ、そう、良かったわねエンリカ……


 感情を押し殺したようなセレディさん。もはや爆弾が再度破裂するのは時間の問題と言えた。


「ぶひぷひ」


 まぁ丁度よかった。セレディ、俺はエンリカとここに住むことにしたよ。


 のんきに告げるバズさん。いやいや、お前そろそろ自覚しろよ。

 危機察知は正常作動してるのか!?

 けれど、バズさんはもう少し寝床確保のために掃除してるから、何も無いところだけどゆっくりして行ってくれ。そんなことを告げて城の奥へと引っ込んで行った。


 だから……女たちの闘いが再発したのを、彼は知らない。

 危険を察知したネッテやカインが慌てるようにバズについて行ったのは気のせいじゃないだろう。

 クーフ、辰真、何故お前たちもそっちに行ってしまうんだい?


 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず。彼らリーダー格の存在は、危機を察知して奥へと逃げ去った。

 モーネットさんやリエラ、そして僕やロリコーン紳士も、もう関わらないと幼女三人のワルツから視線を逸らそうとしない。

 いつの間にかアニアも一緒に見つめていたが、僕らはその間幸福感で満たされた。


 後方で殺伐とした殴り合いが繰り広げられ、戦乙女の花園の面々が悪夢を見せられていたけど……まぁアレはどうにもならないよ。

 アニアが珍しく御免なさいと皆に呟いていたが、誰も聞いちゃいなかった。

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