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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その魔物が現れた理由を彼らは知らない

 結局、カインはオークの出現するポイントを聞きにカウンターへと向ってしまった。

 丁度リエラにいいからとか言ってたけど、それを聞いたリエラは良い顔はしていなかった。


 さすがに40ゴス程度の賞金首を倒すというのが許せないらしい。

 リエラにも冒険者としてのプライドがあるようだ。

 実力はないけれど。


 しかし、同じ冒険者で命の恩人であるカインが自分のために持ってきた手配書。無碍にするわけにはいかないらしい。

 リエラは溜息まじりにアルセを見ている。


 どこかに一人で行ってしまわないよう見張りを頼まれたのだ。

 メリエ一行はカインが居なくなると、いつの間にか消えてしまっていた。

 というか、ふらふらとカインに付いて行こうとするメリエを横の二人が引きずってギルドを出ていったのが正解。


 最後まで名残惜しそうにカインの後ろ姿に手を伸ばすメリエが哀愁をそそった。

 ああ、その恋する乙女の瞳を僕に向けてください。

 なんでよりによってカインなんだよ。なんであの……いや、もう止そう。これ以上嫉妬しても呪い殺せはしないと理解したじゃないか。

 僕は異世界に来ても魔法なんて使えないってことさ。ちくしょう。


「ねぇ、アルセ……」


 不意に、リエラがアルセに話しかける。

 話しかけられたのがわかったのか、アルセは不思議そうにリエラを見る。


「隣に居るのって、何者なの?」


 一瞬、僕のことを言っているのかと驚いた。

 しかし、やっぱり確証は出来てないようだ。

 アルセが首を捻るのを見ると、溜息を吐いて身体から力を抜く。


「うぅ~、絶対何か秘密があると思うんだけどなぁ……」


 別に認識されてもいいんだけど、やっぱり胸触った件が痛いなぁ。

 アレがなければ存在くらいは認めて貰えてたんだろうけど。

 まぁ、今さら姿を現すのもどうかと思うし、アルセの黒子役に徹するか。

 そのうち帰る方法も分かるかも知れないし。


「何黄昏てるのリエラ?」


「あ、ネッテさん」


 ようやく報告が終わったらしいネッテが帰ってきた。


「カインさんがオーク退治に行くそうです。近くの村を襲撃した集団を倒すらしいです」


「これ? 珍しく安い仕事ね。ああ、リエラ用ってわけか」


「私、別にもっと難しい仕事だってできます」


 むくれるリエラに苦笑い。ネッテはリエラに近づくと、ポンと肩を叩く。


「まぁ、冒険者になる試験だと思って気を引き締めてやりなさい。お金が安くても手ごわい敵はいるんだから。決して安く見積もらない事」


「わかってますけど……」


 納得いかなりリエラは未だ不満顔、それでも、行く事に否定はないらしい。




 翌日、リエラ用の剣を受け取った一行は、バズ・オークの被害にあったという近くの村へと向っていた。


「すごいわね、本当に刀身が緑色なんて」


 リエラが手に持った剣は、片手両手、どちらでも使えるタイプのバスタードソードに類する剣だった。

 刀身がエメラルドグリーンに輝き、厚さが薄い刃の部分など日の光が透過して神秘的な輝きを放っていた。


 これは、美術品としての価値も高そうな剣だ。

 売れば1千万ゴスはするぜ。と武器屋のおっさんが得意げに言っていた。

 まぁ、自己評価が多分に入っているからそこまではしないだろうけど、数百万の価値はあると思われる。

 父親に買って貰った剣をすぐダメにしたリエラにはもったいなさすぎる武器である。


「どうだリエラ? 重くないか?」


 ネッテとカインはリエラが手にした剣を見ながら話す。

 別にカインはリエラを気遣ってるワケではないだろう。

 むしろ自分も一度持ってみたいと目が言っている。

 というか欲しそうだ。

 リエラがちょっとでも重いといえば、それを好機とリエラの剣を手にする気だった。


「すごく軽いですよ。お父さんが買ってくれた剣よりずっと。鞘まで貰っちゃってよかったんですかね?」


 リエラの腰元には鞘が取り付けられていた。

 当然ながらリエラが持つ剣が収まるためのモノだ。

 刀身が美術的価値があるので、鞘もアルセの蔦を使った装飾で相応の豪華な造りになっていて見栄えが凄過ぎる。

 本当に、リエラにはもったいない。


 ちなみに、武器屋曰く、『アルセソード』という名前らしい。

 リエラはあまりいい名前じゃないからと、今名前を考え中だ。

 僕は良いと思うよ。アルセソード。アルセの加護が付いてそうだ。


 カインは剣を持てないと知って一人落ち込んでいた。

 ネッテとリエラは気づいてないようなので、アルセを使ってポンと肩を叩いておく。

 カインがアルセを見ると、なぜか笑顔満面で対応するアルセ。

 カインのヤツ、ちょっと涙ぐんでいた。


 そんな一行がその村に辿りついたのは太陽が真上にやってきたころだった。

 町から町への道は均されており、道中で魔物に襲われたりすることは殆どなかった。


 殆どというのは、一度だけ犬の顔をした人間が剣を持って近寄って来たくらい。

 カインと数回剣を合わせると、力量を悟ったのか尻尾巻いて逃げていった。


「あー、道中も殆ど魔物でなくて残念だったなネッテ」


「でないに越したことはないでしょ。さっきのコボルトだって、行きかってた人たちが驚いてたくらいだし」


「数日に一回あるかどうかって行商人さんも言ってましたよね」


「ええ。それにコボルト相手ならある程度の力量があれば刺し違えることもないし。どうせ食料目当てだったんだろうから、ちょっと傷付けてやれば寄りつかなくなるわ」


 帰りにでも狩っておきましょ。とネッテが言う。

 まぁ、人の通行に邪魔になるから自分たちが始末しておくというのはわからなくもないけれど……

 やっぱり、可哀想だと思ってしまうのは、僕が日本という平和な国から来たせいなのだろうか。

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