その蜂が何故来たのかを、僕らは知らない
「すいません、ちょっと遅れました」
「問題無いわ。それより、ちょっと困った事態になりそうなのよね」
リエラが先に西門に向っていたネッテ達に合流すると、ネッテが困った顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「どうもゴボル平原でスマッシュクラッシャーの群れが確認されてるそうなのよ」
うん、それ知ってた。
僕らさっき聞いて来たよ。
「まぁ、アレらなら問題あるまい。我が引きうけよう」
皆がクーフの柩に隠れられるなら問題はないんだけどさ……
さっそくフィールドに出た僕らの傍からロリコーン紳士が消え去る。
どうやら幼女の観測者としてアルセを遠くから観察する気らしい。
また危機があれば助けに入ってくるだろうし、こいつは放置でいいだろう。
「で? 何してたのリエラ?」
「あ、はい、えっと……」
なんて説明しようと考えるリエラ。問題無いよ、アルセ居るし。
……いや、待て、アルセはネッテ達と行動していたはずだ。いかん、確かに説明が難しい。
「ず、図鑑、魔物図鑑をコリータさんに見せてました」
嘘は、言っておりません。
「あら、リエラ持ってたっけ?」
「あ、アルセから借りたから」
あ、あは、あはは。と胃を押さえだすリエラさん。顔がどんどん青くなっていく。
いや、そんな辛いならもう、僕のことばらして良いと思……ああああああっ!! クーフに僕の日本語見てもらうの忘れてた! なんかいろいろイベント目白押しだったせいで普通に脳内から吹き飛んでたよ。
ああ、でも、今そんなのやってる場合じゃないし、また後回しになりそうだ。
忘れないようにしないと。
と、思っても、忘れる時は忘れる時で……
狼モドキの群れに襲われた僕は、当然のように忘れてしまった。
「チッ、狼モドキは多いな」
「にしても、いつもいつも思うんですけど、こいつら何体いるんですかね。既に1000匹くらいは合計で狩ってないですか?」
本当に、実際の世界なのに、よく絶滅しないよね。
どっかで魔力溜まりとかから生まれてるとか? それともポップシステムでもあるんだろうか?
「っ!? ちょ、ちょっと皆、何か空からデカイの来てる!」
「空? スマッシュ・ビー!?」
それは人型大の巨大なハチだった。
スズメバチを思わせる凶悪な顔、翅を羽ばたかせこちらに垂直に落下してくる。
尻尾には極悪な針が光って見え、手には何故かラケットが握られていた。
ハチが、ハチがラケット持ってるぅ!?
「チッ、対応しようにも狼モドキが多い……っ」
「クーフはそのまま狼モドキお願い。空中戦、アニア、行けそう?」
「はぁっ!? ムリムリムリ、ガタイ違い過ぎ! あんな巨大蜂と闘うとか、死亡フラグにしか見えないし、あの極太の針が身体に入って……ああ、そんな。私の身体には大きすぎるわ。ダメよ蜂さん、そんなの壊れちゃうっ」
黙れ変態。
仕方ない。アレは使えないからスマッシュビーに相対するのは奴しかいないだろう。
僕は決死の思いでアルセを持ち上げる。
迫るスマッシュビーに立ち向おうとするアルセ。
それに気付いた変態紳士が、颯爽と盾になるように現れた。
お嬢さん、無茶はおよしなさい。
こういうものは大人に任せるものですよ。
そんな言葉が聞こえた気がする。
空に向いステッキを構えるロリコーン紳士。
接敵の瞬間、鋭いステッキと凶悪な針が交錯する。
ギッと悲鳴が上がった。
腹部を突かれたスマッシュビーが呻いたのだ。
紙一重でしたな。
毒液滴るスマッシュビーの針は、ロリコーン紳士に触れる直前で停止していた。
彼のリーチがコンマ数ミリ、勝っていたのである。
憤慨するようにカチカチと口を鳴らして威嚇するスマッシュビー。
しかし、ロリコーン紳士はタキシードを脱ぐまでも無いと居住まいを正し、ステッキを相手に向けた。
カッと見開かれた瞳で刹那の連撃。
大ダメージを受けてよろめいていたスマッシュビーに、百にも見える連続の突きが襲いかかった。
蜂を蜂の巣である。何ソレ、新手のギャグか?
その間にクーフと葛餅の連携でまたたく間に狼モドキが死んでいる。
ネッテのダブルキャストもだんだんと物になって来ていたし、リエラもようやく相手を浮かせる事が出来るようになった。
アニアが妄想から返って来た時には、全ての敵が殲滅された後だった。
あいつ、やっぱり役に立たないと思う。
それと、必死に参加するように飛び跳ねていたにっちゃう、お前闘ってるの、応援してるの? それとも邪魔してるの?
誰にも構われることなくただ只管に飛び跳ね「にっにっ」と鳴いていたにっちゃうは、なぜか哀愁をそそった。
僕だけは、お前に気付いているからね。めげるなにっちゃう。
頑張れ、お前はきっと大物になれる。にっちゃう・つう゛ぁいのような大物に。
スマッシュビー
種族:ビー クラス:スマッシュビー
・人型大のハチ型の魔物。なぜかラケットを持っている。
巣から半径10Km四方に飛来する性質があり、蜜を集める。
ゴボル平原にも稀に出現する。
ドロップアイテム・毒針・スマッシュラケット




