その魔物の食事法を、僕らは知らない
聖樹の森でアンブロシアツリーを倒した僕たちは、一路マイネフラン王国へと引き返していた。
そろそろ日も落ちる頃なので、宿を取ってネッテ達を待とうということになったのだ。
確かに、夜の森は危険だろうし、ここは帰るべきだろう。夜間に奇襲とか受けたら全滅しかねないし。
ちなみに、体内にアンブロシアを取り込んでいた葛餅は、あまりにもにっちゃうが「にっに」と鳴き続けるので、見かねて自分のアンブロシアをあげていた。
まぁ、食べられない自分が持ってても知識の芽生え手に入れられないんだろうし、欲しがってるにっちゃうにあげるべきだよね。
ところで、にっちゃうさん、食べられるような口とかないんだけど……どうやって食べるの?
頭の上にアンブロシアを乗せてごろごろさせながら気に入ったらしいにっちゃうが飛び跳ねながら喜びの声をあげている。
というか、よく落ちないな。丸い頭してるのに。
グラグラ揺れるアンブロシアはにっちゃうの頭の上で危なげに転がるが、そこから転げ落ちることはなかった。
そうして茂みに向って消え去るにっちゃう。
あっとリエラが気付いた時には茂みの奥へと消えた後だった。
私の癒しがぁとか涙していたリエラだが、その数十秒後、茂みがガサリと揺れて現れたにっちゃうに、感動しながら抱きしめていた。
ああ、ペット枠確保ですか?
というか、今更だけど葛餅、普通に知識芽生えてないかな?
最近割とリエラの面倒見てるし、今のもにっちゃうに気を利かせてアンブロシアあげてたみたいだし。
折角だし魔物図鑑、葛餅の欄更新しとこう。
葛餅
種族:ミミック・ジュエリー クラス:ブルーサファイア・軽業師
二つ名:魔王殺し
スキル:擬態
四連撃
八連撃
十六連撃
目覚めし知能:今までの経験で手に入れた自我。賢さの増加に+補正。
言語理解:相手の言葉を理解する。
リエラの保護者
隠れ身Lv1
常時スキル:休息
魔素吸収
軽業
種族スキル:硬質化
鉱物化
液状化
ああ、やっぱり。なんか自力で知能できてるし。言語まで理解してるよ。
って、待て。なんだこのリエラの保護者!? そうか、リエラは葛餅に保護されていたのか!
今知った衝撃的事実だよ!
というか、軽業師ってなにさ!? あの戦いで葛餅が格段に能力アップしてるぞ!
隠れ身って、よくリエラの背中に隠れてるけどさ……
葛餅もバグ化してませんかこれ?
「ふぅ、今回もいろいろ大変だったな」
王国に戻ってきた僕らは、町の中央にある噴水にやってくると、ようやく落ち付ける。とベンチに座り込んだ。
噴水周りに木彫りの長椅子が幾つか設置されているのだ。
大抵全身を震わせるお爺さんとか、誰もいないのに頷き続けているお婆さんとかが座っているのだが、今は丁度一つ分の椅子が空いていたのでカインが真ん中にドカリと座った。
当然とばかりにその横に座るメリエ。しなだれかかるようにカインに身を寄せる。
さすがのカインでもこの攻撃には顔を赤らめていた。すげぇなメリエさん。押せ押せだ。
逆隣りにはリエラがにっちゃうを抱きしめながら座りこみ、葛餅は頭の上で焼かれた餅のようにプくっと膨らみ左右に揺れている。
威嚇なのか楽しんでいるのか、謎過ぎる。
そんなリエラの真横に座りこむ辰真。さすがに疲労の色が見えるが、番長たる彼がそこに座ると威圧感が出る。なにせう○こ座りだし。こっち睨まないでっ。
アルセ率いる幼女軍団は辰真の前で三人輪になって踊っている。元気だね皆。
ロリコーン紳士が鼻血垂らしながら感動に奮え泣いてるよ。
ちなみにアニアは三人の中心で一緒に踊っているけど、アレは放置しておこう。
「あれ? そういえばアンブロシアどうしたのにっちゃうちゃん?」
「にっ」
頭の上に目を向けるにっちゃう。そこにはしおしおになっているアンブロシア。皮だけ残して中身が消えたようなビーチボールみたいになっていた。
どうやったのこれ?
「ヘルピングペッカーに囲まれた時には生きた心地しませんでしたよ」
「確かにな。でも、倒しきっただろ。これなら上位ランクパーティーと名乗っても問題無いくらいだな」
「さすがでしたよカイン様。カイン様の素敵な戦いぶり、私も魅惚れてしまいました」
「え? あ、そ、そうか?」
ぐいっと胸を押しつけて来るメリエさんに鼻の下が伸び始めたカイン。
そんなカインの頬に素敵です。とメリエがキスをする。
往来の目の前でリア充満喫ですか……そうですか。
リア充爆死してしま……。
「あら、皆こんなとこにいたのね。何して……」
……あ。
王城側からクーフ、バズ、エンリカ、そしてネッテが現れた。
声を掛けて来たネッテの言葉が止まる。
決定的瞬間が今、目の前に……
血の惨劇の予感です。




