その嫉妬の炎を、彼は知らない
結局、アルセが手に入れた資金は城で保管して貰うことになった。
何故なら、アルセを倒せばアルセイデスの蔦と合わせて1億10万ゴスを落とす超レアモンスター。
街中を自由に闊歩させる訳に行かなくなるからだ。
「しっかし、すげぇなアルセ。まさかあれ見つけるとは」
「というか、探し物がにっちゃうじゃなくてにっちゃう・つう゛ぁいって、1億ゴスでも足りないでしょ」
命がけのペット探し、僕としては十分な金額だと思うけど。
1億円だったら……いや、やっぱり安い気がする。
特に突進とか受けたりしたら即死。ハイリスク過ぎる。今更ながら寒気してきた。
「しかし、アレをペットにするとか、金持ちの考えることはわからんな」
それは確かに同感だよカイン。
でも、アルセの護身用に次見つけたらアルセに持たせとこうかなにっちゃう・つう゛ぁいを。
あ、でも弾丸ロケットみたいな突撃って蹴った地面にもかなりの衝撃くるかな? だったらアルセが持った状態だとアルセにもダメージが……
今さらだけど、アルセ、物凄い危険を冒してたんじゃ……
ギルドに入ると、依頼完了を告げる為にネッテがカウンターへと向う。
カインとリエラは新たな依頼を見に向う。
暇を持て余した僕は、アルセを連れて賞金首を見ることにした。
「おいおい、魔物が賞金首見てやがるぜ」
嫌味な声がしたのでそちらを見ると、またあいつらだ。
よくよく縁があるらしい。
剣士と槍術士とでもいうべきだろうか? それと魔術師のような女の三人グループ。
そう、酒場で抱き合いながら眠りに就いた二人の男である。
今日聞いたんだけど、二人が付き合ってるとかいう噂が流れててガチムチーズとかいうあだ名が流行り始めている。
彼らの耳に届くのも間もなくだろう。
「確かアルセちゃんだっけ。アルセイデスなのに賞金首狩りにでるの?」
女性の方はまだ友好的だ。
アルセの視線に合わすため中腰になるのだが、たわわに実った二つの胸が、谷間が……今まで出会った人の中で一番ではなかろうか? 揉んでいいですか?
アルセは彼女を見つめたまま、指を咥えて首を捻る。
「やっぱ言葉分かってないんじゃねぇのか?」
「ただの魔物だろ?」
二人の男はアルセを忌々しそうに見ている。
その二人を落ち着かせながら、女性は賞金首の一人を指さす。
一人……というか一匹だな、写真を撮られて貼り出されている顔はどう見ても人間じゃないし。
「この賞金首は少し前から貼り出されたんだけどね、少額すぎて討伐されずに残ってるのよ。最近は駆け出しでも大物狙いたがる人が多いから」
成程、リエラはその部類だな。
女性の言っていた賞金首を見る。
そこに貼りだされていたのは二足歩行を始めた豚だった。
名前はバズ・オーク。
右目に刀傷があるのが特徴らしい。
写真写りがちょっと凛々しいというか格好イイ。
近くの町をオークを率いて襲撃したため、賞金首になったとか。
賞金は40ゴス。確かに少ない。
僕はアルセの顔を女性に向け、アルセの手を賞金首のお金部分を指すよう動かす。
「え? 何?」
「たぶん、なんでこの値段なのかって聞いてるんじゃないか」
と、見知った声が聞こえた。
振り向くと、カインが近づいて来ていた。
「お前、確か宿でこの魔物と一緒だった……」
男二人が同時に声を出す。
こいつらは二人で一括りのサブキャラかなんかか?
「お? そういうテメェらは宿で抱き合ってた男たちか」
「だ、抱き合う……?」
「なんだ? 酔っ払ってて覚えてないのか? てっきり横に居る女性に聞いたと思ってたが」
事の顛末を見ていた女性にカインが視線を向ける。
しかし、女性の反応は無かった。
カインを見たまま微動だにしない。
「……あの、俺が何か?」
「……へ? あ、いえっ、私、メリエっていいます。あ、あのあなたは?」
妙に上気した声。ま、まさか……
勇者の特性が、ついに発動したというのか!?
「あ、ああ。カイン、だけど?」
「か、カイン様ですね。その名前、忘れませんっ」
目を輝かせる女性。
僕とパーティの男二人はカインへの殺意を増大させた。
おのれ二枚目勇者め。許すまじ。
「ふーん、バズ・オークねぇ」
カインは僕らの怒りを知ってか知らずか、無造作にメリエの横へと歩み寄り、アルセの見ていた手配書を眺める。
真横に来られたメリエは耳まで真っ赤にして俯いていた。
間違いなく、一目惚れだ。
しかも無意識でカインが惚れさせるように動いてるし。この天然ジゴロが!
畜生。なぜだ。なぜこんな奴にばかり女の人は集まって行くんだ?
僕には一度も話しかけてすら来ない癖に、なんでっ。
「このバズってのはどういう意味だ?」
「た、多分、ギルドが個体を呼びやすいよう適当に決めた名前です」
身体をくねらせながらメリエがカインに少しずつ寄って行く。
なぜだ。なぜカインなどに女が寄って行く?
勇者か、勇者特性だとでもいうのかッ。
この恨み、必ずや晴らしてくれようッ。
血涙流しつつ四つん這いに崩れ落ちた僕は力の限り床を握りしめる。
気分は力の入れ過ぎで爪が折れて血塗れになる程の怒りを込めてだ。
不意に、寒気を感じたのかカインが身震いして周囲を見回していた。




