その王国に戻る理由を、僕は知りたくなかった
「ふぅ。今回も、大冒険だったな」
あの後、直ぐにドアが開いたので僕らはカインたちのもとへと戻った。
なぜか一緒に現れた幼女が一人増えていたけれど、カインたちは一瞬言葉に詰まっただけで気にせず転移装置に触れて地上へと戻ったのである。
まぁ、こっちの部屋から見てたんだろうし、理由もアルセだから。で説明完了だね。
外へと戻ると、いつの間にかロリコーン紳士が消え去っていたが、おそらく遠くでアルセを見守っているのだろう。
パワーアップしたあの変態が優秀なのは理解した。
絶対にアルセには近づかせないけどね。
さて、今回の成果を確認して見よう。
まず、僕は神様に会って僕の存在理由を知った。本当にただのバグだったのは皆には内緒だ。
さすがにちょっとヘコんだよ。
カインを始めとする皆はそれぞれ新しい力を手に入れたり可能性を手に入れたようだ。
リエラは敗北したものの、自分の偽物が使っていた技を覚えると前向きになっていたし、ネッテは二つの杖を使った連続魔法を模索するようだ。
炎と氷の融合魔法とか、そのうち使いそうだ。なんだっけ、あれ、メドなんとかって漫画で出てた融合魔法。アレ使ってほしい。
あとプリカ、あいつはダメだ。命中阻害が中にアップしてるし。ただし、大食い能力は凄過ぎるという事だけは良くわかった。
そして新たに仲間になった幼女、のじゃ姫と、一緒に付いて来たワンバーカイザー。
なんか小型化出来るらしく、普通のハンバーガーくらいの大きさになったこいつは尻尾ふりながらのじゃ姫にじゃれついていた。
ちょっと可愛い。
だが、プリカが涎垂らしているのはどうなのさ?
まだ満腹状態のはずなのにまだまだ食い足りなさそうだぞ?
食うのか? 胃が破裂するまで食べる気か?
全員の確認を終えたカインが、森で人心地付きながらふうと息を吐く。
他の皆もようやく安堵した様子でくつろいでいた。
結論からいえば、バズ・オーク程で無くてもいいので警戒に特化した存在が欲しい。
今、僕らのパーティーに不足しているのはそれだけだ。多分。
一息ついて休んだ僕らは、エルフニア向けて行進を開始する。
のじゃ姫について気になっていたカインたちだが、アルセと楽しげに踊っているのじゃ姫を見て、多分、アルセのせいなんだろうな。というのをうすうす感じているようだ。
仲間になったのかどうかの確証は、心配するだけ無駄だろう。
ボスであるはずののじゃ姫を倒すことなく試練の間のドアが開いたのは、おそらくあの自称神の仕業だろう。
きっと僕らの行動を見て腹を抱えて笑っているはずだ。
何せ普通は倒すはずのボスを仲間に加えているのだから、予想外過ぎてワロスとか言ってるに違いない。
で、せっかくだからそのまま仲間にできるよう手を加えたとか。
エルフニアに辿りつく、なぜか門の前に憔悴しきったリカードさんとルイーズさんが待っていた。
僕らを見付けた瞬間、彼らは全力で駆け寄ってくる。
その必死の形相に驚くカインに縋りつき、二人は泣き始めた。
リカードさん、イイ大人が何してるんですか。
「カイン君、よかった。戻って来てくれたッ!!」
「ああ、ようやく、ようやく救世主様が戻って来てくれたのね!!」
戸惑うカインは仲間たちを見回すが、二人の行動を理解出来るモノなどここにはいなかった。
「あ、あの、どうしたんすか?」
「娘を、いや、娘夫婦を……連れて行ってくれ! 今直ぐに、次の冒険に連れて行ってくれ!! 僕いい子にするから、お願いッ」
「私たちには無理よ。あの二人の行為を横の部屋で聞き続ける日々なんてもう、無理なのよ!!」
お察しください。
隣の娘夫婦が日夜子作りをする声を毎夜聞かされる悪夢の日々を。
それだけでも辛いのに、娘の夫はあの憎きオーク。
既に満身創痍のリカードさんとルイーズさんには耐え難き夜だったようです。
リカードさんなんか幼児退行起こしかけており、カインに必死にしがみついて泣いていた。
エンリカ……どんだけ親不孝なの?
若さゆえの過ちで済むような事じゃないよねコレ。
カインたちも呆れた顔で互いに見合う。
「仕方ないわね。早々に引き取りましょ」
「ああ、王国の方もほとぼり冷めてるだろ。戻って向こうで自宅買わせよう」
「顔見せに何度か戻るだろうけど、そこまでは面倒見切れませんよ?」
「分かってる。それぐらいなら僕我慢しゅる。だからエンリカつれてって」
リカードさぁんっ!? 口調がヤバい。なんかヤバい。
「じゃあとりあえずランツェルさんに報告しましょ。それでプリカはここに残ってもらうしかないわね」
「ええ!? 冒険者になれないんですか私!」
「さすがに命中阻害が悪化したあなたを連れて行ける自信が無いわ。こちらでも命中阻害を何とか出来そうな魔道具探したりしてみるから、その阻害スキルが無くなるまでは冒険に出ない方が良いわね」
「うぅ。な、なら、せめてワンバーカイザーを私にください!!」
「の、のじゃ!?」
のじゃ姫にじゃれついていたワンバーカイザーを奪うように抱き上げるプリカ。
食糧確保のようです。
「のじゃぁ~っ」
「きゅぅーん」
泣き叫ぶ主従を容赦なく引き裂くプリカさん。
のじゃ姫の目の前でワンバーカイザーを一口で食べてしまった。
鬼だ。ここに鬼がいます。
ネフティアが泣きそうなのじゃ姫の肩を叩き、首を横に振った。
まるで諦めろブラザー。といっているようだった。いや、この場合シスターか。
プリカはワンバーカイザーが復活するより先に四足持って武器屋へと逃げ去った。
最悪だあいつ。
そして涙にくれるのじゃ姫の前に颯爽と現れる変態紳士。
お嬢さん、泣きやんでください。ほら、飴をあげよう。
とばかりに飴を捧げて即座に消え去る。
美味しいイチゴ味の飴は、涙の味がした。
涙目で飴を舐めるのじゃ姫は、少しだけ大人になった。
そんな気がした。




