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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その魔物の行方を、彼らは知らない

「武器を持って敵意を見せると高確率で頭突きの餌食だ。だから絶対に武器は持つな」


 何も知らずに微笑むアルセ。

 見せびらかすようににっちゃう・つう゛ぁいを彼らに向ける。

 それはまさに拳銃を向けているようなものだった。いや、むしろ向けてるのはロケットランチャー?


 しかし、このまま本当ににっちゃう・つう゛ぁいが暴走したら厄介か。

 ……よし。

 僕はアルセの背後に回ると、頭に手を置いてみる。


 びくりとしたアルセだったが、僕だと知ると、首だけこちらに向けて微笑む。

 一度手を放して両肩を軽く掴み、そのまま前に押し出していく。

 首を捻りながらもされるがままに歩きだすアルセ。


 慌てる三人の真横を通り、町へ向って歩き出す。

 にっちゃう・つう゛ぁいの攻撃範囲から逃れたためか、安堵の息を漏らす一行。

 恐る恐るアルセの後ろから付いてくる。


 僕に触れそうになるたびにアルセを身体ごと振りかえらせてみると、五回もしないうちにかなり距離を取るようになってしまった。

 これで僕がアルセを動かしているとバレることはあるまい。


 他の冒険者も似たようなものだ。

 にっちゃう・つう゛ぁいを見かけた瞬間、武器を投げ捨て左右に避ける。

 なんか面白い。けど、それほどに危険な魔物だということがよく分かる慌てようだった。


 面白いくらいに避ける冒険者たちに、僕もアルセもテンションが高まって行く。

 そんな僕らの後ろを怖々付いてくる冒険者たち。

 そりゃそうだろう。魔物であるはずのアルセイデスが恐怖のにっちゃう・つう゛ぁいを両手で抱えて笑顔で町に向っているのだ。


 物珍しいし恐いもの見たさで何をする気なのか見に来るのだろう。

 さすがに近寄って自分たちに被害がでるのは避けたいようで、近づいてくる奴は皆無だった。


 これぞまさにアルセの大行進。

 そこのけ、そこのけ、アルセが通る。って感じだね。

 後ろに何人も付き従うのが面白いのか、時折後ろを振り返りながら楽しそうに笑うアルセだった。


 街中でも一緒だ。

 行き交う人もさすがに驚いて後ずさる。

 理解できてない子供たちも、異変を察知して逃げ出す程だ。


 あるいは、駆け寄ろうとする子供を抱きかかえ逃げ出す親たち。

 顔の必死さがまた面白い。

 なんだか僕とアルセが強くなった気分にすらなってくる。


 そして、にっちゃう探しの列へと並ぶ。

 というか、並んだ瞬間全ての冒険者が横にずれて道を空けてくれた。

 後ろに並んだアルセを二度見して驚きながら「うおわああああっ」とか叫びながら巨漢の大男たちが逃げ退く様が滑稽だった。


 で、最後にアルセの前に立ち塞がったのは、見るからに金持ちそうな格好をした、金髪の女の子。

 煌びやかなドレスがよく映える少女だった。

 高飛車な顔立ちだが、黄色のにっちゃうを見た瞬間、眼を見開いて息を吸い込む。


「あ、ああっ、にっちゃぁんッ」


 少女はアルセの抱えるにっちゃう・つう゛ぁいを見つけた瞬間、飛びかかる。

 にっちゃう・つう゛ぁいをアルセから奪い取ると、形が変わる程にぎゅっと締め付ける。

 その横を通り、アルセに近づく一人の女性。付き人だろうか? 


「よくお嬢様のペットを探して下さいました。これはお礼でございます」


 と、アルセにアタッシュケースを手渡す。

 アタッシュケース、この世界にもあるんだ……

 どうでもいいことに感嘆しながら、にっちゃう・つう゛ぁいを抱きしめる少女を見る。

 あいつ、死ぬ気か?


 というか、危険な生物なんだよねあのにっちゃう・つう゛ぁい。

 それをペットにするとか、金持ちの考えてることはよくわからない。

 というか、体当たり食らったりしないんだろうか?

 なんか抱きしめ過ぎて物凄い形になってるぞあの生物。


 まぁ、ペットとして飼ってるならそれなりに調教されてるか。

 なんて思いながら彼女から視線を外す。

 僕はとりあえずアルセをその場にしゃがみこませ、アタッシュケースを開けて見る。


 う、うおおっ。すごいっ。大量の金の延べ棒がっ。

 周囲からの歓声を受けながら、アルセの手を動かしてアタッシュケースを閉じる。

 しかし、さすがに大き過ぎてこれはアルセじゃ持ち運べないか。


 仕方ないのでカインに手渡しておく。

 やはり男手の方が荷物持ちはいいだろう。

 カインが呆けた表情のまま受け取っていたのがちょっと面白かった。


 よし、これでアルセの軍資金確保だな。

 アルセ専用の軍資金にはならないけれど、万一の時に扱える資金が出来たのは嬉しい。ちょいちょい僕が使わせて貰おう。

 なんて思った瞬間だった。


「ああ、にっちゃぁんっ!?」


 金髪少女の手を擦りぬけたにっちゃう・つう゛ぁいがぴょんぴょんと逃げ去っていくのが視界の端に映った。

 って、即行逃げとるっ!?


 地面に手を付き逆の手を逃げ去るにっちゃう・つう゛ぁいに向ける少女。

 すでに涙目だ。

 付き人が慌てて周囲に叫ぶ。


「だ、誰かお嬢様のペットを捕まえてっ!!」


 しかし、誰が好き好んで死神を捕まえるだろう?

 足を踏み出せない冒険者たちの合間を悠々飛び跳ねながら、にっちゃう・つう゛ぁいは森の方角へと逃げ去ってしまった。


「……」


 後にはなんともいえない静寂が支配する。


「……えーと、迷子のペット探し、引き続きよろしくお願いします。見つけていただいた方には1億ゴス用意致しますので」


 付き人がコホンと咳をして取り繕うが、もう誰も、アレを捕まえようと思う人はいなかった。

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